列車無線

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テンプレート:単一の出典 テンプレート:国際化 列車無線(れっしゃむせん)とは、鉄道無線の一種。

広義では列車乗務員運転指令所等の地上運転取扱職員が通話する際に用いる無線設備の総称であり、狭義では鉄道車両に搭載されている無線通話装置を指すことが多い。

概要

基本的には、運転指令所から列車乗務員への指令や情報提供などのほか、列車乗務員から運転指令所への状況報告などにに用いられる。

特に鉄道においては、鉄道事故発生の際は多くの人命に関わる事態に発展する可能性があるため、運転指令所列車乗務員等が直接連絡をとることができる列車無線の整備は、事故災害の防止及び、被害の低減のために極めて重要である。

電波伝送方式

  • 誘導無線方式(IR方式)
  • 空間波無線方式(SR方式)
  • 漏洩同軸ケーブル方式(LCX方式) - 漏洩同軸ケーブルをアンテナとして用いる方式であるが、周波数帯域は空間波無線と同じであることから、空間波無線の一種として扱われることがある。
  • 衛星携帯電話 - 空間波無線方式ではコストなどの面から難があるとして、衛星携帯電話を列車無線として運用している路線がある。(例 : JR東日本只見線花輪線など)

周波数について

空間波無線方式は主にVHF150MHz帯)やUHF300MHz帯400MHz帯)を用い、山岳地域などでは50MHz帯を用いている事業者もある。基地局間中継ではマイクロ波等も用いられている。相互混信や妨害を防ぐために隣接する鉄道事業者同士では別々の周波数が割り当てられているが、列車無線に用いられる周波数の割り当てが少ないことから相互混信や妨害の恐れが無い遠隔地の鉄道事業者とは同じ周波数が割り当てられている場合もある。

全国組織であった日本国有鉄道(国鉄)を前身にもつJRグループでは、JR会社間の直通運転も多数運転されていることもあって、国鉄時代に使用していた周波数を全社共通で使用している。

誘導無線方式は100~300kHz以内が用いられており、主に地下鉄地下鉄に直通乗入れする事業者で多用されている。誘導無線方式の地上側誘導線(アンテナ)と車上側アンテナ間の電界到達距離は数メートルから精々十メートル程度なので同じ周波数を用いる別事業者の線路が近接しても相互混信や妨害の恐れは低い。東京都交通局都営地下鉄浅草線北総鉄道北総線京成成田空港線などのように、近隣の鉄道事業者であっても同一周波数を使用している場所もある。

なお、具体的な周波数は総務省が公開しており、電波利用ホームページ(地域周波数利用計画策定基準一覧表の備考 付表C)で閲覧できる。

新幹線

デジタル無線 : 東海道新幹線では運用開始当時空間波方式の多重無線であったが、トンネルや山間部などで不感地帯が多く、これの解消を図るため1989年に空間波方式からLCX方式へ変更した。当時の通信指令はアナログ多重 (FDM-FM) 方式[1]及び一部デジタルデータ方式(GMSK, 64kbps、三菱電機[2][3]であったが、 2009年2月21日よりデジタル方式に順次切替・運用している[4]。それに先立って東北上越新幹線でも2002年11月から順次デジタル化運用している。従来のアナログ式に比べ音声通話用・データ通信用のチャンネルが増加し、データ通信時の転送速度も従来の1.2kbpsから最大64kbpsに向上した。データ量の少ない通信用として最大9.6kbpsに抑えたチャンネルもある。

データ通信用に使えるチャンネルが増えたことから、在来線の運行情報配信、文字によるニュースやPRの表示、モニターを使用した乗務員向け運転通告の表示、指定席の発売・利用状況の伝達などに利用されているほか、車両故障時にモニターに表示された情報を運転指令所に転送することもできる。

音声用は運転指令所との通話のほか、旅客一斉情報放送からの音声も受信・録音できるほか、新幹線公衆電話にも利用されている。

なお、山陽新幹線は、現在も東海道新幹線のアナログLCX時代の無線方式を使っており、市販の一部の受信機で受信可能となっている。

JR在来線における方式の違い

JR在来線においては、Aタイプ・Bタイプ・Cタイプとデジタル無線がある。

ファイル:JR East E231-1000 Antenna.jpg
E231系の列車無線アンテナ
ファイル:JR East E231-500 Digital Antenna.jpg
山手線E231系に設置されたデジタル無線装置の一部
窓上部に付けられている黒い棒が簡易車上アンテナ。壁に付けられているスピーカー状のものは旅客一斉情報装置(上がアナログ用、下がデジタル用)。窓下の黒い箱はVIS用のミリ波通信装置の一部
Aタイプ
列車無線のうち、指令局側と車上局側が同時送受信可能な複信方式のものを指す。指令局側と車上局側で別々の送信周波数を用いる。1981年に、山手線京浜東北根岸線ATC導入と共に配備されたが、その後埼京線川越線、また国鉄分割民営化後に首都圏の他線区やミニ新幹線にも導入された。特に首都圏の在来線に配備されたものは新Aタイプと呼ぶこともある。基地局が352MHz帯、移動局が336MHz帯にそれぞれ対となる8チャネルが線区ごとに割り当てられている。1つの基地局の小ゾーンを最大16局を纏めた大ゾーン方式であり、それが1線区当たり最大で3ゾーンの配置となっていて、大ゾーンの分割区間では、その分割近くの基地局からLCXアンテナが伸びる形で設置されている。送信出力は基地局が3W、移動局が1Wである[5]。通話のないときは、基地局から空線信号を出している。同一線区内は同一周波数で各基地局が同時送信するため激しい混信状態となるが、各基地局の無線周波数精度を±0.05ppm以内に保つこと、各基地局の音声の位相を最も遠い基地局に揃えることで[6]、通話品質の劣化を抑えている。
Bタイプ
列車無線のうち大都市圏を中心に配備されたもので、指令局側は連続送信だが、車上局側は送信スイッチを押したときだけ送信する半複信方式であり、低コスト化を計ったものである。そのため、車両側では指令局からの受信と指令局への送信が同時には行えない(指令局側は送受信が同時に行える)。Aタイプと同じく大ゾーン方式であり、同じく指令局側と車上局側で別々の送信周波数を用いる。Aタイプのうち5チャンネル分を路線ごとに使い分けしている。なお、Aタイプとは上位互換があるほか、車上局側ではCタイプの無線機を内蔵している。Aタイプ同様、通話のないときは基地局から空線信号を出している。
Cタイプ
A・Bタイプの列車無線を導入していない路線で使用しているタイプで400MHz帯に3波の割り当てがある。送信周波数と受信周波数が同一の単信方式であり、発声するときのみ送信スイッチを押して送信する。送信中は受信出来ないので交信相手の送信が終了してから応答送信する交互通話である。空線信号は出ていない。1つの基地局の小ゾーンを最大10局を纏めた大ゾーン方式であるが、A・Bタイプは違い、指令局側ではゾーンごとに無線操作盤が設置されており、運転指令員により手動で基地局を選択操作しての通話が可能である。旧国鉄で使用していた乗務員無線を継承したものである為、車上局側の無線機の形状は乗務員無線と同じ携帯形であり、車両側で常に充電機能を内蔵した取付台に装着されている。
Pタイプ
Cタイプの列車無線を発展させたもので、音声通話のほかにデータ通信機能を付加させたものである。送受信周波数や発信方式はCタイプと同じであるが、通常の音声信号に混ざってデータ信号を送受信する。指令側にデータ送信用の機器を、列車側に受信機器のほか印刷用のプリンタをそれぞれ搭載し、音声での無線通信のほかに通告等の情報通信を行う。従来のCタイプと互換性がある。九州旅客鉄道株式会社(JR九州)で運用されている。[7]
デジタル無線
東日本旅客鉄道(JR東日本)では、1986年から各車両に搭載している列車無線装置(主に新Aタイプ無線)が老朽取替の時期を迎え、特に首都圏では大雪や雷雨等の際に、全線区一斉の情報連絡や指令伝達を実施するなど高い利用率となっており指令通話回線の増強が必要で、また、列車支援運行業務の充実を図るため、指令通告、徐行区間情報、車両機器状態監視等の列車・地上間のデータ通信需要も拡大していることから、それらを可能にする無線システムの変更を目的として首都圏の新Aタイプ区間や一部のBタイプを導入している線区の列車無線装置を2007年から2010年にかけてデジタル化した。なお使用周波数帯域はほとんど新A・Bタイプと変わらない。また末端路線など一部路線はデジタル化の対象にはならず、アナログ方式のまま運用されている。
デジタル列車無線の導入によって、運転台のモニター上への通告内容の表示、自社線や他社線の運行状況の確認が可能になるほか、東京圏輸送管理システム (ATOS) 導入路線における分単位での列車遅延状況の確認、走行線区の列車在線状況の表示といった、これまで運行乗務員では入手することのできなかった情報が容易に確認できるようになる。
導入に当たっては、地上側では送受信アンテナの追加、調整が行われ、車両側では対応無線機への交換(デジタル式と従来のアナログA・B・Cタイプの両対応型)、受信感度向上のためのアンテナ追加、モニタ装置搭載車のソフトウェア更新、モニタ装置非設置車両への簡易モニタ装置設置工事などが進められた。車両側の改造はJR車両のみならず、直通運転のある東京メトロ東京臨海高速鉄道など他社の車両についても同様に行われたほか、デジタル列車無線の導入を行わない路線の車両でも、臨時運転や検査に伴い他線を走行する事情も考慮して行われた。先行実施として、山手線で2007年8月26日からデジタル無線の運用を開始し、2008年度以降、約2年をかけて残る首都圏の在来線をアナログの周波数ごとに6回に分けてデジタル化した。

私鉄・第三セクター

大手準大手私鉄では、ほとんどで専用の列車無線を導入(そのほとんどは空間波無線)しているが、中小私鉄では未整備のところもある(専用の列車無線の代わりに社用携帯電話を使うケースが増えている)。一般的に、運転本数の多い路線は複信もしくは半複信、運転本数の少ない路線は単信が導入される傾向がある。特に首都圏では、基地局にMSKによる空線信号が出ているところが多い。この方式を、メーカー名からNEC式私鉄列車無線と呼ぶこともある。

また、無線導入後の国鉄やJRから分離した第三セクター鉄道や、JRとの直通運転を頻繁に行う路線では、JRと共通の無線設備を導入しているところが多いほか、地下鉄との直通運転を頻繁に行う路線、地下線の存在する路線では、誘導無線を導入しているところもある。

この他、私鉄向け無線のデジタル化は2005年の開業時から首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスで導入された。大手私鉄では、小田急電鉄でも2016年7月からの導入を計画している[8]

地下鉄

トンネル内に電波を送るため、長波を使った誘導無線が使われる。2000年代以降は、長波よりも安定した通話やデータ伝送を行えるVHFを使うため、漏洩同軸ケーブルをトンネル内に敷設して空間波無線を使用する路線も増えてきている。

携帯電話

携帯電話の全国普及を前後にして、小規模鉄道事業者やJR各社などで携帯電話を乗務員に持たせ連絡手段としている場合がある。確実性が高いためJRでは 近年運行上の円滑化を図るため無線指令とともに使われることが増えている。

傍受について

受信及び「聴く」だけであれば違法ではないが、傍受により知り得た通信内容を利用したり第三者に漏らすことは以下の通り電波法で禁じられている。

  • 第59条(秘密の保護)「何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない」

「別段の定め」とは、特に"目的外通信"に当たる場合を示す。

免許

列車無線を取り扱う者の免許

列車無線は電波法令上の陸上移動業務であり、指令局は特定無線局ではない基地局であるのでその操作または監督のため第三級陸上特殊無線技士以上の無線従事者の配置を要する。 車上局は陸上移動局であり指令側の統制下にあるので無線従事者は不要である。

上記のCタイプや一部私鉄でみられる基地局が存在せず陸上移動局(車載・携帯無線機)のみの場合においてもいずれか一つの無線機に無線従事者が配置されていればよい。

列車無線に関する問題事案

犯罪行為によるもの

  • 列車無線については、トンネル内など車内での騒音が大きい場所を走行中の場合でも通話相手の声が聞き取りやすいよう、補助スピーカーを併設しているのが普通である。2010年に、西日本旅客鉄道(JR西日本)奈良電車区所属の電車について、この補助スピーカーの配線が切断される事件が、6月以降4件発生していることが判明しており、同社は奈良県警察被害届を出した。運転室内には、通常は乗務員や研修員などしか立ち入らないため、内部犯行であることが疑われているが、同社は当初公表しておらず、被害者であるにもかかわらず、安全管理面で批判を受けている[9][10]

参考文献

  • 『列車無線』 改訂2版7刷 日本鉄道電気技術協会 2008年 ISBN 4-931273-36-X

脚注

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関連項目

  1. 多重無線受信装置の製作
  2. 「東海道新幹線の通信システムの完成」
  3. 「データ通信ができる列車無線システムの実用化」 いずれも、電気のデジタル博物館(電子情報通信学会
  4. 【日立評論】東海道新幹線デジタル列車無線の開発と導入
  5. Aタイプの移動局には、1の車両に運転席が1つ設置されている場合に使用される1型と、1の車両に運転席が2つ設置されている場合に使用される2型がある。
  6. 基地局ディレイ調整と呼ばれてる。
  7. [1] 九州旅客鉄道株式会社 P型列車無線システム - 富士時報 Vol.79 No.1 2006
  8. 小田急電鉄に新列車無線システムを納入開始 NECプレスリリース 2013年2月12日
  9. 列車無線の配線切断 JR西、奈良県警に被害届提出へ - 朝日新聞・2010年11月4日付け掲載記事
     《2014年2月7日閲覧→現在はインターネットアーカイブに残存》
  10. 無線ケーブル切断:JR西日本、関西線4車両で被害 内部の人間関与か 毎日新聞・2010年11月5日付け掲載記事
     《2014年2月7日閲覧→現在はインターネットアーカイブに残存》