太陽フレア
太陽フレア(たいようフレア、Solar flare)は、太陽で発生している爆発現象のことである。別称は太陽面爆発[1]。
太陽系で最大の爆発現象で、しばしば観測されている。多数の波長域の電磁波の増加によって観測される。特に大きな太陽フレアは白色光でも観測されることがあり、白色光フレアと呼ぶ。太陽の活動が活発なときに太陽黒点の付近で発生する事が多く、こうした領域を太陽活動領域と呼ぶ。太陽フレアの初めての観測は、1859年にイギリスの天文学者、リチャード・キャリントンによって行われた(1859年の太陽嵐)。
「フレア」とは火炎(燃え上がり)のことであるが、天文学領域では恒星に発生する巨大な爆発現象を指している。現在では太陽以外の様々な天体でも観測されているが、本稿に於いては人類の近傍にある唯一の恒星である太陽のフレアについて説明する。
NASAによると、2012年7月には巨大な太陽フレアが地球をかすめた[2][3] 。次の10年間に同程度のフレアが実際に地球を襲う確率は12%であると推定される[2]。
概要
フレアの大きさは通常数万km程度であり、威力は水素爆弾10万~1億個と同等である。100万度のコロナプラズマは数千万度にまで加熱され、多量の非熱的粒子(10keV-1MeVの電子や10MeV-1GeVの陽子)が加速される。同時に衝撃波やプラズマ噴出が発生し、時おりそれらは地球に接近して、突然の磁気嵐を起こす[4][5]。
フレアの発生機構については、太陽活動領域中に蓄えられた磁気エネルギーが、磁気再結合によって熱エネルギーや運動エネルギーに変換されるという説が有力である。このフレア発生の際には太陽表面に2種類の特殊な磁場構造が生じていることが地球シミュレータによる詳細な計シミュレーションと太陽観測衛星ひので (人工衛星)による観測データの精密解析で明かとなった[6]。また、全てのフレアを説明するモデルとして、京都大学教授柴田一成の「フレアの統一モデル」[7][8]がある。
フレアが発生すると、多くのX線、ガンマ線、高エネルギー荷電粒子が発生し、太陽表面では速度1000km/s程度で伝播距離50万kmにも及ぶ衝撃波が生じる事もある[9]。 またフレアに伴い、太陽コロナ中の物質が惑星間空間に放出される(コロナル・マス・エジェクション (CME))ことが多い。高エネルギー荷電粒子が地球に到達すると、デリンジャー現象、磁気嵐、オーロラ発生の要因となる。2003年は、大規模なフレアが頻発し、デリンジャー現象により、地球上の衛星、無線通信に多くの悪影響を与えた。また地球磁気圏外では、フレア時のX線、ガンマ線による被曝により、人の致死量を超えることもある。
フレアの活動は、太陽活動周期や黒点の蝶形図(コロナの蝶形図)によって、関係付けを説明されることもしばしばある。
フレア時の高エネルギー荷電粒子の地球への到達、あるいは、フレアの発生そのものを観測・予報することは宇宙天気予報と呼ばれ、太陽研究者にとって重要課題となっている。
等級
X線等級
X線強度による等級は、現在最も広範に普及している太陽フレアの規模の指標である。 太陽全面から放射されるX線強度の最大値によって、低い方からA, B, C, M, Xの5つの等級に分類されており、Xが一番強い。10倍ごと(1桁上がるごと)に1つ上の等級となる。各等級はさらに1-10未満の数字で区分され、これらを組み合わせて「C3.2」というように表される。例えば、X2フレア (2 x 10−4 W/m2)は、X1フレア (10−4 W/m2) の2倍の強度、M5フレア (5 x 10−5 W/m2)の4倍の強度であることを示す。Xクラスの上はないため、Xクラスの数字は10を超えることがある[10][11]。
この値は、アメリカのGOES衛星が常時観測している大気圏外の波長100 - 800ピコメートルのX線の流束(単位:ワット毎平方メートル = W/m2)に基づく[11]。
等級 | 100 - 800pmでの流束 [W/m2] 最大値 |
---|---|
A | 10−8 - 10−7 |
B | 10−7 - 10−6 |
C | 10−6 - 10−5 |
M | 10−5 - 10−4 |
X | > 10−4 |
Hα等級
Hα等級は、GOES衛星の打ち上げ以前、太陽フレアの観測初期から用いられている太陽フレアの等級である。Hα線(Hアルファ線、バルマー系列のうち656ナノメートルの電磁波)の観測画像から得られる。Hα線の強度と放射面の広さの2要素からなる。強度は(f)aint(淡い), (n)ormal(並), (b)rilliant(鮮やか)の3つの等級で表され、放射面の広さは観測できる半球の太陽表面積6.2 x 1012 km2に占める百万分率によりS, 1, 2, 3, 4の5つの等級で表される。例えば並の強度・広さSクラスであれば"Sn"(normal subflare, 並のサブフレア)と表される[12]。
等級 | 観測半球全体を100万とした時の割合 |
---|---|
S(sub) | < 100 |
1 | 100 - 250 |
2 | 250 - 600 |
3 | 600 - 1200 |
4 | > 1200 |
被害
太陽嵐が起こると、8分程度で電磁波が到達して電波障害が生じ、数時間で放射線が到達。数日後にはコロナからの質量放出が地球に届き、誘導電流が送電線に混入し、電力系統がおかしくなる。ただ単に停電するのではなく、電機・電子系統に瞬断やEMP(電磁パルス)被害が出る。特に宇宙空間にある衛星(通信衛星、GPS、気象衛星、偵察衛星など)や、巨大なアンテナとして働く送電線の被害が起こる。
衛星観測が始まって以来のフレア等級で過去最大だったのは、2003年11月4日のフレアである。このときはGOES衛星でX28を記録したことが報じられたが[13]、後に電離層への影響から更に大きいX45相当であったとする研究も報告されている[14]。
2008年に全米科学アカデミーによる「激しい宇宙気象――その社会的・経済的影響の把握」報告書[15]が出されている。それによると、強力な太陽フレアが地球の磁場を混乱させ、強力な電流によって高圧変圧器が故障(規模によっては溶融)し、電力網が停止する可能性について検討されている。通信ケーブル、放送、携帯電話は脆弱である。もしそうなれば、米国だけで最初の1年間で1兆〜2兆ドルの被害が出て、完全復旧には4年〜10年かかる。もし1859年規模のフレアが起これば、社会に大混乱が生じ文明は19世紀初頭に戻ると予想された[16][17]。大型の変圧器は調達に年単位の時間がかかり、電力網が世界規模で破壊された場合に生産はほとんど出来ないとされる。また超高圧送電線の敷設にも時間がかかる[18]。
参考資料
関連項目
外部リンク
- 国立天文台
- 情報通信研究機構 SWC宇宙天気情報センター
- 科学技術政策研究所シンポジウム 近未来への招待状(第二部、柴田一成による講演資料)
- 太陽型星におけるスーパーフレア 2012年5月17日京都大学
テンプレート:太陽 テンプレート:Magnetosphere
テンプレート:Astro-stubfi:Roihupurkaus
sv:Solfackla- ↑ 『最新 宇宙学-研究者たちの夢と戦い』P4
- ↑ 2.0 2.1 テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 科学技術政策研究所シンポジウム 近未来への招待状 第二部 柴田一成「太陽活動と宇宙天気予報」講演資料。
- ↑ 小特集 高強度レーザーを用いた実験室宇宙物理 7.MHDプラズマ
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 柴田一成、研究トッピクス (5)太陽フレアと恒星フレアの統一モデル 京都大学大学院理学研究科附属天文台年次報告 1999年(平成11年) p.13
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 太陽フレアに伴う衝撃波 京都大学大学院理学研究科附属天文台年次報告 2002年(平成14年) p.27
- ↑ 国立天文台、宇宙航空研究開発機構「ひので: 今サイクル初の巨大フレアを観測」2011年3月11日付、2013年5月16日閲覧
- ↑ 11.0 11.1 11.2 テンプレート:Cite journal
- ↑ 12.0 12.1 テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ Severe Space Weather Events--Understanding Societal and Economic Impacts:A Workshop Report
- ↑ 原子力発電所や核爆弾の制御不能が起こす放射線被害、細菌・ウイルス研究所の閉じこめシステムの崩壊による感染症の流行、混乱が引き起こす戦争、気象衛星と通信システムの崩壊による気象災害の増加などは想定外である。
- ↑ 強力な太陽嵐で2012年に大停電? 対抗策は:WIRED.jp
- ↑ ナショナルジオグラフィックチャンネル> 地球を襲う宇宙の嵐 危険な太陽風