北部訓練場

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

北部訓練場(ほくぶくんれんじょう)は、沖縄県国頭郡国頭村東村にまたがるアメリカ海兵隊基地。総面積約78.33km²という広大な区域を持ち、沖縄県における最大の軍事演習場である。本区域の上空2000フィートまでは米軍による使用が認められている。英名キャンプ・ゴンサルベス(沖縄戦で戦死したハロルド・ゴンザルベス海兵隊一等兵にちなむ)、正式には「ジャングル戦闘訓練センター」(Jungle Warfare Training Center,JWTC,1998年より改称)。

基地概要

  • 市町村別面積比率:国頭村 52.7%(37.88km²)、東村 47.3%(33.93km²)
  • 管理部隊:キャンプ・バトラー司令部

北部訓練場の占める土地には、わずかながら私有地も含まれている。このため、年間4億円を超える地料が地主に支払われている。

使用部隊

訓練内容

ゲリラ訓練基地として活用され、歩兵演習ヘリコプター演習、脱出生還訓練、救命生存訓練、砲兵基礎教練などを行なう。

JWTCは専門家による教導を通じて、海兵や統合軍部隊が密林環境での過酷な戦闘へ備えることが出来るようにしている。小部隊の統率、戦術の心得、部隊の結束を構築していく上で、教官達は信頼を醸成し、リーダーシップを育み、JWTCで訓練する全ての兵士達に挑戦を突きつける、と言う。こういった訓練は海兵隊全部隊に対して実施され、例えば兵站部門からも参加部隊がある[1]

JWTCでの訓練の様子は報道公開が実施される場合もある。沖縄タイムスによれば、コースは2005年までは8種あったが、UDP(部隊展開計画)での派遣人員減少によりジャングルスキルコースとジャングルリーダーズコースの2種に絞られていると言う[2]。琉球新報によれば、年間の訓練人員は1200-1400名程度だという[3]

以下、休止中の過程も含め、各コースについて説明する。

ジャングルスキルコース

英称Jungle Skills Course。JWTCはこのコースで、密林環境での基礎的な海兵としての戦闘技能を習得する場を提供している。コースは5日間の訓練日を含む6日間から成る。ジャングルにおける基本的な戦闘技能に加えて本コースでは、訓練部隊における小部隊の統率、戦術の考え方、および部隊の結束を強めるように訓練計画が組まれている。訓練は100人から成り、本コースでは、地上での誘導、パトロール、ロープの使用とリペリング、密林に仕掛けられる罠など幾つかの科目を教わる。本コースはジャングル耐久コースの一部ともなっている。

ジャングルリーダーコース

英称Jungle Leaders course。本コースは、小部隊戦闘作戦のあらゆる局面、および密林での基本的な生残の技術を以って、小部隊指揮官としての能力を伸ばすように計画されている。この過程を受ける以前に教育されたジャングルサバイバルコース(Jungle Survival Course)期間の基礎的な戦闘技能の総合教育とも連動している。本コースに参加するためには、ジャングルスキルコースは必修である。 本コースの目標は小部隊指揮官(リームリーダは小隊長か相当位を経験した者)で、あらゆる職種専門技能(Military Occupational Specialty,MOS)[4]の者が参加する。コースは5日間の訓練日を含む6日間から成る。 訓練は25人から成り、本コースでは、パトロール命令、パトロールロ、密林での負傷兵輸送(必要な兵は抽出)、生存の技能、警備拠点の防御と構築など幾つかの科目を教わる。

ジャングル耐久コース

英称Jungle Endurance Course。本コースはジャングルスキルコースの上位にある。ジャングルスキルコースの5日間は本コースにも全体にわたって活用されている。12-18人のチームで、訓練生達は3.8マイル(6.1km)の深い密林と急峻な地形を横断する。チームワークと忍耐力を利用して、それぞれのチームはコースに沿って広げられた31の障害を突破するのを互いに競い合う。急速リペリング、ロープでの障害物突破(Rope obstacle)、水上の障害物突破、担架の運搬など全てが揃ったコースである。

個別作戦

英称Independent Operations。JWTCは部隊が独立して作戦するための区域を事前の調整を実施することで提供する。その区域を利用して、部隊は現実的な都市の地形による訓練(Realistic Urban Terrain Exercises,RUTEX)、急襲、非戦闘員救出作戦(Non-Combatant Evacuation Operations ,NEO)、偵察、監視、地上での誘導、Fast-roping[5]、空中抽出(Spie Rigging[6])、通信訓練、水面空挺降下訓練(Water Insertion)などが実施されてきた。

地理

沖縄島北部のいわゆる山原(やんばる)と呼ばれる地域に位置し、区域内および区域周辺は森林地帯となっている。この地域には天然記念物に指定されているノグチゲラや、ヤンバルクイナなどの貴重種が生息している。

沿革

ヘリパッド移設

同訓練場の用地の約半分が国に返還されることになったことを受け、ヘリコプター着陸場(ヘリパッド)の移設工事が行われた。これに反対する住民らが、工事現場で座り込みを行った。この行為に対し、沖縄防衛局が、座り込みに参加した住民14人について、座り込みの禁止と、進入路に張られたテントの撤去などを求め、那覇地裁仮処分を申請。同地裁は2009年12月11日に、参加者のうち男性2人について、一連の行動に違法性があったと認定し、妨害禁止を命じる決定を行った。一方で、テントの撤去と他の12人に対する申請は却下した。反基地運動に対して、違法性を認定した司法判断が示されたは初のこととなる[7]

ベトナム村(模擬演習)

ベトナム戦争1960年-1975年)当時、北部訓練場近隣に住む住民をベトナム人に扮させ、ベトナム風の集落をつくり、殺戮の演習が展開された。演習では、枯葉剤の散布も行われた(米兵が枯葉剤を撒き、あとで近隣住民に草を処分させた)と、当時参加した元米兵の証言がある。 [8]

他国軍との関わり

2008年7月、イスラエル軍ドイツ連邦軍が本演習場での演習を検討していることが報じられた。2008年5月に両軍及びオランダ軍が演習場の視察を実施したのがきっかけであり、ドイツ軍連絡官は「とても素晴らしい施設でここに来て訓練できることを楽しみにしている」と絶賛した。アメリカとしては当時進んでいた紛争介入の多国籍軍化を踏まえ、米軍との共同行動をとり易くしたい思惑があった。琉球新報によれば日米地位協定では第三国の軍隊による演習場使用は認められておらず、実現には日本側の了承など政策の転換が必要であるが、外務省は困難との姿勢を示した。また、本演習場は国連軍地位協定の対象施設ではない。琉球新報は直ちに反対する意向を示した[9]

その他

外来種であるマングースの増殖により、ヤンバルクイナが捕食され、生態系に脅威を与えている。そのため、日米両政府、在日米軍の協力により環境省の監督の下、沖縄県によって捕獲事業が実施されている[10]

2010年には台風7号で被害を受けたJWTCの施設を修復した[11]

関連項目

脚注

テンプレート:Reflist

出典

外部リンク

テンプレート:Sister

テンプレート:Coord

テンプレート:アメリカ太平洋軍

テンプレート:アメリカ海兵隊
  1. 海兵兵站郡がジャングル訓練を克服する『JSDF.ORG』2010年11月3日配信
  2. http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-09-24_10481/ 『沖縄タイムス』2010年9月24日09時21分配信
  3. ジャングル訓練公開 北部訓練場で在沖米海兵隊 『琉球新報』2010年10月22日
  4. MOSは9桁の英数字コードで、軍内での職能を表したものである。全米軍人はいずれかのコードに分類されている。
  5. Fast-ropingはヘリからの降下法の一種で機体に固定したロープに掴まって地上に滑り降りる
  6. Spie Riggingでは数名がヘリから伸ばされたロープに専用のSPIE抽出ハーネスを使って固繋し、ヘリは機内に兵達を収容しないまま離陸する。兵隊達は芋吊り式に一列に垂下して飛行する
  7. 反基地運動:住民座り込み「一部違法」 覇地裁が初判断 毎日新聞 2009年12月11日
  8. 検証動かぬ基地vol.99 高江にあった「ベトナム村」とは - 琉球朝日放送
  9. イスラエル、ドイツ軍… 北部訓練場で演習検討 『琉球朝日放送』2008年7月1日11時42分
    イスラエル、独、オランダ軍 北部訓練場で演習検討 『琉球新報』2008年7月1日
    米「多国籍軍化」進める 北部訓練場の他国軍使用 『琉球新報』2008年7月2日
    外国軍の訓練 演習のメッカなどご免だ 『琉球新報』2008年7月2日
  10. 沖縄・米軍北部訓練場におけるマングース捕獲事業について 日本国外務省HP 2006年4月21日
  11. ジャングル戦闘訓練センターを修繕 『在日米国海兵隊』HP 2010年12月29日