電車線・列車線

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電車線(でんしゃせん)・列車線(れっしゃせん)とは、複々線で列車を系統別に分離して運転をする際に用いられる線路区分の名称であり、

のことである。

なお本項では、これに関連して、都市部の路線においての「電車」と「列車」の区別についても述べる。

経緯

これは、近距離列車(下記参照)は都市部の電化されていた区間のみを走っていたため電車で運転され、長距離列車は電車ではなく蒸気機関車ないし電化後も機関車牽引の列車で運転されていた頃の名残でもある(なお、語の正確な意味では電車が走るものも列車である)。

列車・電車の区別については、近年では主要な路線はほとんどが電化され、近距離列車・長距離列車を問わずほとんどが電車で運転されているため、もはやこのような区別はあまりなされない[1]

しかし、上記の歴史的な名残から、現在も複々線の線路を区別する場合に用いられることがある。以下、車両としての「電車」と系統における「電車」の違いに注意。

分離の形態

電車線・列車線という区別方法は信号・ダイヤの構成や列車の系統による分類であり、本質的には緩急による分離ではない。例を挙げると、東海道本線の列車線である東海道線と電車線である京浜東北線などの例がある。日中は新橋駅には列車線である東海道線は停車するが、電車線である京浜東北線快速は通過する。ただ、このような例は少なく、実質的には緩急分離のようになっている路線が多い。また、列車線を走行する列車は電車よりも走行区間が長く、首都圏では速達運転を行っていることから、近距離利用は電車、中距離利用は列車といった遠近分離も兼ねているのが通常である。基本的に、列車線を走る車両は列車、電車線を走る車両は電車と解釈される。

「電車線・列車線」という呼称は、一般的にはJRにおいて使われる場合が多く、特に運行管理者の指令やダイヤ作成担当者の列車設定時など、運転業務で使用される。JR以外の私鉄では複々線になっている箇所でも「電車線・列車線」と分類されることはほとんどなく、「緩行線急行線」と分類する場合が多い。

列車種別の呼称の違い

運行区間の全駅に停車する場合、電車線を走行するものについては「各駅停車」といい、列車線を走行するものについては「普通」と呼ぶことが多い。これは、電車線が原則すべての駅にホームが設置されているのに対し、列車線はホームが設置される駅が限定されていることが多く、そのような場合事実上通過となる(ホームがないため停車できない)駅が生じるためである[2]

かつて、電車線を走る急行のことを「急行電車」と呼んでいた。これは現在の「快速」に相当する優等料金が不要の速達列車であった。すなわち優等料金を徴収する「急行列車」とは別物で、阪和線には「特急電車」も設定されていた。しかし、153系電車が急行列車に投入されるようになると、紛らわしいことから順次「快速」へと呼称が変わって行った。現在運転されている通勤形電車を使用した近距離電車の「快速電車」がこれに相当する。「快速電車」は各駅停車の電車に対する優等種別としての快速であり、近郊形電車を使用した「普通列車」に対しての上位種別である「快速列車」とは厳密には別物である(直接、相対的に比較出来る種別ではない)。線区によっては、これら性質の異なる列車・電車が同じ線路上を走行し、かつての常磐快速線での「快速電車」より「普通列車」の方が停車駅が少ないというような紛らわしさを生むこととなった。現在でも列車線の東海道本線における「普通列車」に対する「快速列車」としての快速アクティーと、電車線の京浜東北線における「各駅停車」に対する「快速電車」が混在している例もある。

関西地区では、1958年10月のダイヤ改正で阪和線や京阪神地区の「急行電車」が「快速」に改称された。これに伴い、京阪神地区では中距離の普通列車と近距離の急行が統合され、快速運転区間は「快速」、各駅に停車する区間は「普通」と案内されるようになった。このため、同じく近郊形電車を使用する首都圏の「普通列車」とは事情が異なり、前述のような紛らわしさはなくなったが、時刻表上では原則どちらも「普通列車」として記載されていること、221系登場以前には「快速」・「普通」ともに種別が表示できず行先のみを表示していたという点で、首都圏とはまた異なる紛らわしさが発生した(ただし、車両の形式や塗色で種別は認識できた)。この点においては、221系以降に製造された車両では、快速運転区間は「快速」(黒地にオレンジ)、各駅停車区間は「普通」(黒地に白)と表示できるようになったことで解消している。

私鉄では電車・列車の区別の名残は東武鉄道東上線を除く)で用いられていた(伊勢崎線の「準急」とは「準急行電車」であり、「急行」は「急行列車」の意味である。「急行電車」は「快速」と名を変えて「急行」と「準急」の間に位置していた)が、2006年3月18日のダイヤ改正で解消された。

車両上の区分

この区分法における近距離電車のことを、私鉄も含めた全般的には「近郊電車」と称するが、国鉄・JRの車両形式カテゴリでは通常、電車線を走行する近距離電車は4扉車の通勤形電車を指し、3扉車の近郊形電車は列車線の客車列車置換え用である。

もともと客車普通列車置換え用には「長距離用電車」として80系電車153系電車のような形態の車両を投入していたが、首都圏京阪神地区での利用客の大幅増により、クローズデッキ2扉車では対応しきれなくなり、3扉車の70系電車111系電車を順次投入していった。153系電車が「急行形」と呼ばれるようになったのはこの後で、それまでは「中・長距離向け汎用」であった。

一般的に、通勤形電車には収容力のあるロングシート、近郊形電車はセミクロスシートが装備されている。JR東日本では、E231系電車E233系電車において一般形電車として形式を統一したが(同時にドア数も4扉に統一)、通勤タイプと近郊タイプとでは装備や仕様が異なっている。

電車線と列車線で複々線を構成している路線

東日本旅客鉄道

東海道本線東京駅 - 横浜駅大船駅
電車線は一般的に京浜東北線と呼ばれ、列車線は東海道線または東海道本線と呼ばれる。この区間においては東京駅 - 品川駅間でこの区間は同様に東海道本線の電車線の扱いである山手線も並走し、東京駅 - 品川駅間では地下新線、鶴見駅 - 大船駅間は旧貨物線上を走行する横須賀線も並走しており、横浜駅 - 戸塚駅間は東海道線が速達列車、横須賀線が各駅停車となっている。(横須賀線の品川駅 - 鶴見駅間は東海道本線支線(品鶴線武蔵小杉駅経由で運転される)。
東北本線上野駅 - 大宮駅
電車線は一般的に京浜東北線と呼ばれ、列車線は宇都宮線高崎線と呼ばれる。京浜東北線は上中里駅を経由し、宇都宮線・高崎線は尾久駅を経由する。このほかに上野駅 - 田端駅間は同様に東北本線の電車線の扱いである山手線、上野 - 日暮里駅間は常磐線が使用する複線も並走する。また、赤羽駅 - 大宮駅間は貨物線が敷設されており、湘南新宿ラインは貨物線上を走行する。
登記上、東北本線である東京駅 - 上野駅間は、1973年より電車線の京浜東北線と山手線の線路のみが使用されている。将来は東京駅から上野駅までの列車線を建設し、東海道線と直通運転する東北縦貫線計画がある。

西日本旅客鉄道

東海道本線山陽本線琵琶湖線JR京都線JR神戸線):草津駅 - 西明石駅
この区間の中で、新長田駅 - 西明石駅間は線路別複々線で緩急分離を行っており、電車線(南側)は快速・普通電車が使用し、列車線(北側)は特急や貨物列車のほか新快速が使用し、また朝夕時間帯には、列車線にホームのない舞子駅・垂水駅・須磨駅を通過する快速電車も走行する。閉塞信号機に添装されている番線表示標にも違いがあり、電車線は「電○閉」(電車線第○閉塞)・列車線は「列○閉」と書かれており、信号喚呼位置標には電車線用は白い縁取りがある(列車線は標準のものを使用)。「新快速」は「関西急電」を発祥とする「電車」であるが、並行私鉄との競争から「関西急電」時代より、貫通幌の装備[3]や本格的2等車の連結など「列車」に準じる装備がなされていた。
草津駅 - 兵庫駅間も複々線であるが、こちらは方向別複々線(兵庫駅 - 新長田駅間で線路が入れ替わる)となっている。線路の外側(外側線)は列車線の列車が走行し、内側(内側線)は電車線の電車が走行する。ただし、朝夕時間帯は、快速電車が外側線(高槻駅 - 兵庫駅間)を走行するダイヤを組んでいる。また、草津駅 - 京都駅間と新大阪駅 - 大阪駅間では、朝ラッシュ時以外は新快速も内側線を走行する。信号機は内外揃えて設置しており、左側(外側線用)は「外○閉」・右側(内側線用)は「内○閉」と書かれており、内側線用の信号喚呼位置標は、内外で閉塞信号機の番号が異なる場合のみ白い縁取りがある(なお外側線は標準)。JR宝塚線の列車は、JR京都線直通の普通電車が内側線、大阪駅発着の列車が外側線を走行する。
1986年10月31日までは、ラッシュ時以外の「電車」はすべて電車線を走行し、「列車」が走る列車線とははっきり区別されていた。翌日のダイヤ改正で新快速は「列車線」を走るように分離され、電車線のダイヤの余裕を使って各駅停車の増発が行われた。

ドイツ鉄道

ベルリン周辺、ハンブルク周辺
ベルリン市周辺のStadtbahn(都心線)などをはじめ、両都市ではSバーン (S-Bahn) と呼ばれる都市圏内電車と、それ以外の列車(Regional、RE、IC、ICEなど。日本における列車線普通、快速、特急、新幹線に相当)用の線路は分離され、また一部システムも異なる。前者は第三軌条直流電化で各列車は主に運用番号で区別される。後者は架空線方式による交流電化であり、各列車は列車番号によって区別される。一部郊外部においては電車線単線+列車線複線であったり、列車線の架空線交流集電に対応する設備を持った車両によってSバーンが運転される共用区間もあるが、基本的には両者はほぼ分離された複々線によって構成される。

デンマーク国鉄

コペンハーゲン周辺
コペンハーゲン近郊ではS-togと言われる都市圏内電車と、それ以外の列車用の線路は分離され、上記のドイツ鉄道の例とほぼ同じような状態にある。S-togは開業当初より直流1500V架空線方式であったが、その後列車線が1986年に電化された際に採用された方式は交流25000Vの架空線方式である。もともとS-togは上記2都市のSバーンを参考にして考案されたシステムである。

特異な例

常磐線綾瀬駅 - 取手駅
常磐線では、線路は緩急分離だが、種別は系統分離も含むという特異な存在である。
常磐線は、1971年に綾瀬駅 - 我孫子駅間で緩急分離複々線化を実施した(1982年に取手駅まで延伸)が、取手駅以北に乗り入れる普通列車も快速線を走行して従来通り上野駅発着での運転が継続された(この当時、快速電車よりも停車駅が少なかった)。
これは、柿岡地磁気観測所への影響を最小限に抑える目的で、首都圏60km圏内(日暮里駅からは約40km強の地点)で交直切替が行われるという同線独特の事情が絡んでいる。これにより近距離電車が取手駅以北に乗り入れられず、また取手駅以北から都心方面まで利用する乗客が多い点などもあり、同じ緩急分離の中央本線総武本線のように電車特定区間を境に系統を分離しにくい傾向にある。
また、緩行線がJR線のみでは都心にアクセスできない構造のため、電車種別である「快速電車」は中・長距離列車と共に快速線を通るという形態であり、常磐快速線では線内の輸送力の約2/5弱を普通列車に依存しており、旅客案内上は上野駅と取手駅以外では両者をほぼ区別していない。このため、乗客もほとんど区別せずに利用している状態にあり、中・長距離利用客からの不満の声がある一方、近距離利用客も普通列車を利用せざるを得ない状況にある上、分かりにくさもあった。
2004年に、この矛盾を是正するため、取手以北へ向かう「普通列車」も、停車駅を統一すると共に上野 - 取手間では「快速」を名乗るようになった。だが「快速電車」があるため、近距離客と中長距離客の分離にはなっておらず、2007年に取手発着の快速電車が日中毎時約1本減便されたことでこの傾向はなお強まっている。

脚注

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関連記事

  • 現在でも区別されている例としては、ATOSの案内(近距離電車では「電車がまいります」など「電車」と案内し、それ以外では「列車」と案内している)や、国鉄時代からの車輌のドアコック(非常時にドアを手動で開けられるようにする装置)の注意書き(「線路に下りるときは他に通過する電車・列車にもご注意下さい」とある)に見られる程度である。
  • JRでは「各駅停車」は文字通り路線上の駅を各駅に停車する列車のみにつけられ、通過駅が存在する場合は特急料金・急行料金が不要であれば「快速」を除き「普通」と案内される。
  • 一般に電車は編成を貫通していなかった。これが一般化するのは桜木町電車火災の後。