リュウグウノツカイ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:生物分類表

リュウグウノツカイ(竜宮の使い、学名テンプレート:Snamei)は、アカマンボウ目リュウグウノツカイ科に属する魚類の一種。リュウグウノツカイ属に含まれる唯一のとされている[1]

形態

ファイル:King of herrings.png
鬣のような背鰭の鰭条、オール状で細長い腹鰭など際立った外観をもつ

リュウグウノツカイは全身が銀白色で、薄灰色から薄青色の線条が側線の上下に互い違いに並ぶ。背鰭・胸鰭・腹鰭の鰭条は鮮やかな紅色を呈し、神秘的な姿をしていることから「竜宮の使い」という和名で呼ばれる[2]。全長は3mほどであることが多いが、最大では11m、体重272kgに達した個体が報告されており[3]、現生する硬骨魚類の中では現在のところ世界最長の種である[1]

体は左右から押しつぶされたように平たく側扁し、タチウオのように薄く細長い。体高が最も高いのは頭部で、尾端に向かって先細りとなる。下顎がやや前方に突出し、口は斜め上に向かって開く。をもたない[1]。鰓耙は40-58本と多く、近縁の Agrostichthys 属(8-10本)との鑑別点となっている[1]椎骨は143-170個[1]

背鰭の基底は長くの後端から始まり、尾端まで連続する。すべて軟条であり鰭条数は260-412本と多く、先頭の6-10軟条はのように細長く伸びる[3][1][4]。腹鰭の鰭条は左右1本ずつしかなく、糸のように著しく長く発達する[1]。腹鰭の先端はオール状に膨らみ、本種の英名の一つである「Oarfish」の由来となっている[5]。この膨らんだ部分には多数の化学受容器が存在することがわかっており、餌生物の存在を探知する機能をもつと考えられている[5]。尾鰭は非常に小さく、臀鰭はもたない[4]

分布・生態

ファイル:Giant Oarfish.jpg
1996年にアメリカ西海岸に漂着した個体。本種は古くから知られてきた深海魚の一種で、その大きさと特異な形態から人々に強い印象を残してきた

リュウグウノツカイは太平洋インド洋大西洋など、世界中の海の外洋に幅広く分布する[3]海底から離れた中層を漂い、群れを作らずに単独で生活する深海魚である。

本来の生息域は陸から離れた外洋の深海であり、人前に姿を現すことは滅多にないが、特徴的な姿は図鑑などでよく知られている。実際に生きて泳いでいる姿を撮影した映像記録は非常に乏しく、生態についてはほとんどわかっていない。通常は全身をほとんど直立させた状態で静止しており[4]、移動するときには体を斜めに傾け、長い背鰭を波打たせるようにして泳ぐと考えられている[5]

食性は胃内容物の調査によりプランクトン食性と推測され、オキアミなどの甲殻類を主に捕食している[5]。本種は5mを超えることもある大型の魚類であり、外洋性のサメ類を除き捕食されることは稀とみられる。

は浮性卵で、海中を浮遊しながら発生し、孵化後の仔魚は外洋の海面近くでプランクトンを餌として成長する。稚魚は成長に従って水深200-1000mほどの、深海の中層へ移動するとみられる。

分類

リュウグウノツカイ科は2属2種からなり、Nelsonによる魚類分類体系において、本種はリュウグウノツカイ属を構成する唯一の種となっている[1]

リュウグウノツカイ属の分類にはさまざまな見解があり、日本近海からも報告のある テンプレート:Snameiテンプレート:Snamei とは別種とみなし、こちらに「リュウグウノツカイ」の和名を与える場合もある[6]。本稿では両者を R. glesne にまとめ、R. russeliiシノニムとして扱うNelsonの体系に基づいて記述しているが、本属の分類については再検討の必要性も指摘されている[5]

以下に示すのはFisheBase[7]に記載されるリュウグウノツカイ科の分類で、リュウグウノツカイ属には3種が記載されている。

人間との関わり

ファイル:Giant oarfish bermuda beach 1860.jpg
1860年に描かれた漂着個体のスケッチ

リュウグウノツカイはそのインパクトの強い外見から、西洋諸国におけるシーサーペント(海の大蛇)など、世界各地の巨大生物伝説のもとになったと考えられている[1]。その存在は古くから知られており、ヨーロッパでは「ニシンの王 (King of Herrings)」と呼ばれ、漁の成否を占う前兆と位置付けられていた[5]。属名の Regalecus もこの伝承に由来し、ラテン語の「regalis(王家の)」と「alex(ニシン)」を合わせたものとなっている[5]

中国台湾では「鶏冠刀魚」や「皇帯魚」、朝鮮半島では「サンカルチー」と呼ばれる[8]

日本

人魚伝説は世界各地に存在し、その正体は海牛類などとされるが、日本における人魚伝説の多くはリュウグウノツカイに基づくと考えられている。『古今著聞集』や『甲子夜話』、『六物新誌』などの文献に登場する人魚は、共通して白い肌と赤い髪を備えると描写されているが、これは銀白色の体と赤く長い鰭を持つ本種の特徴と一致するのである[9][8][10]。また『長崎見聞録』にある人魚図は本種によく似ている[10]。日本海沿岸に人魚伝説が多いことも、本種の目撃例が太平洋側よりも日本海側で多いことと整合する[10]。ただし『古今著聞集』などには人魚が美味であるとする記述があり、これは本種が不味とされることに矛盾する[9]

日本近海では普通ではないものの、極端に稀というわけでもなく、相当数の目撃記録がある[10][11]。漂着したり漁獲されたりするとその大きさと外見から人目を惹き、報道されることが多い[10][12]地震をはじめとする天変地異と関連付けられることもあるが、魚類学者の本間義治によれば憶測にすぎない[8]2014年1月に兵庫県豊岡市に漂着した個体では、市内の環境省の学習施設の職員らが解剖調査を行った後に調理して試食しており、身に臭みや癖がないことや、食感が鶏卵の白身のようであること、内蔵の部位によっては味が濃厚であることなどを報告している[13]

富山県では冬になると本種がしばしば定置網にかかり、漁師から「おいらん」と呼ばれている[8][10]。また新潟県柏崎では「シラタキ」と呼ばれる[8]

展示施設

ファイル:20100216 acaworld07.jpg
アクアワールド・茨城県大洗水族館では地元の海岸に打ち上げられたリュウグウノツカイの剥製が展示されている。
ファイル:リュウグウノツカイ.jpg
神戸市立須磨海浜水族園の液侵標本。現在は展示されていない。

リュウグウノツカイはその特異な大きさと形態から一般によく知られた深海魚の一つとなっており、捕獲あるいは漂着した個体が標本展示されることがしばしばある。以下には主に日本の水族館博物館における展示・保存例を示す。

出典・脚注

参考文献

テンプレート:Sister テンプレート:Sister

  • Joseph S. Nelson 『Fishes of the World Fourth Edition』 Wiley & Sons, Inc. 2006年 ISBN 0-471-25031-7
  • Andrew Campbell・John Dawes編、松浦啓一監訳 『海の動物百科3 魚類II』 朝倉書店 2007年(原著2004年) ISBN 978-4-254-17697-1
  • 尼岡邦夫 『深海魚 暗黒街のモンスターたち』 ブックマン社 2009年 ISBN 978-4-89308-708-9
  • 岡村収・尼岡邦夫監修 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2
  • 北村雄一 『深海生物ファイル』 ネコ・パブリッシング 2005年 ISBN 978-4-7770-5125-0

関連図書

関連項目

外部リンク

  • 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 『Fishes of the World Fourth Edition』 p.230
  • テンプレート:Cite web
  • 3.0 3.1 3.2 テンプレート:Cite web
  • 4.0 4.1 4.2 『深海魚 暗黒街のモンスターたち』 pp.114-117
  • 5.0 5.1 5.2 5.3 5.4 5.5 5.6 『海の動物百科3 魚類II』 p.127
  • 『日本の海水魚』 p.120
  • テンプレート:Cite web
  • 8.0 8.1 8.2 8.3 8.4 テンプレート:Cite journal
  • 9.0 9.1 テンプレート:Cite journal
  • 10.0 10.1 10.2 10.3 10.4 10.5 テンプレート:Cite book
  • 中西弘樹『海流の贈り物ー漂着物の生態学』平凡社・自然叢書15 1990年 125-130頁
  • テンプレート:Cite news
  • テンプレート:Cite news
  • テンプレート:Cite web
  • テンプレート:Cite web
  • 『深海生物ファイル』 p.45
  • 巨大魚リュウグウノツカイを公開 海きららで“一瞬”の雄姿 2010年1月11日 長崎新聞