ホホジロザメ

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テンプレート:生物分類表 ホホジロザメ(頬白鮫、Carcharodon carcharias)は、ネズミザメ目ネズミザメ科ホホジロザメ属に分類されるサメ。本種のみでホオジロザメ属を形成する。別名ホオジロザメ

分布

亜熱帯から亜寒帯まで、世界中の海に広く分布している。北はアラスカカナダ沿岸にも出現した記録がある。アメリカ合衆国南アフリカ共和国オーストラリアニュージーランドの周辺海域、地中海等で多く見られる。日本近海にも分布する。2009年メキシコ-ハワイ間の深海にホホジロザメが集う海域(ホホジロザメ・カフェ)があるという研究結果が公表された[1]

形態

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平均的なホホジロザメの体長は4.0-4.8メートル、体重680-1100キログラムである。オスよりメスのほうが大型で、身体能力も大きな差がある。最大体長および体重に関しては諸説あり、未だ見解は一致していない。体長11メートルを越える巨大な個体も報告されているが、専門家の意見では体長6メートル、体重1900キログラム程度が最大と見積もられている。但し、推定値ながら、台湾沖やオーストラリア沖などで、切り落とされた頭部の大きさなどから体長7メートル以上、体重2500キログラム以上と推定される個体が捕獲されたことがある。体型はがっしりとした流線紡錘型で、背側は濃灰色から黒色、腹側は白色である。体色を背側から腹側へ見ると、グラデーションではなく、1本の線ではっきりと分けられている。

側頭部が白いことが和名の由来。尾鰭は上下の長さがほぼ等しい三日月型。胸鰭裏側の先端部には大きな黒斑がある。大きさや体型がウバザメ[2]に似ており、遠くから見ると間違われることもある。

非常に鋭利なは正三角形で、長さは7.5センチメートルある。縁はのこぎりのようにギザギザになっており(鋸歯(きょし)状縁)、皮や筋肉を切断するのに適した形状である。ホホジロザメは獲物から一度に約14キログラムの肉塊を食いちぎることができるといわれている。歯列は3段あり、歯が1本でも欠けたり抜け落ちたりすると、すぐに後ろの歯列がせり上がってきて古い歯列を押し出す。これはサメ類に共通の特徴であり、歯は何回でも生え変わる。

獲物の肉を食いちぎるときに欠けた歯を肉塊と一緒に飲み込むことがあり、それが内臓を傷つける場合もあるといわれている。またホホジロザメはよくエイを食べるが、エイのが内臓に引っかかることも珍しくない。

生態

主に沿岸域の表層付近を泳ぐ。沖合から海岸線付近まで近づくこともある。海表面近くにいることもあるが、250メートルより深いところにも潜る。アザラシオットセイの繁殖地の周辺海域に集まることが多い。

普段はゆったりと泳いでいるが、瞬間的にはかなりのスピードで泳ぐことができ、最高遊泳速度は時速25-35 km程度と言われる。また海面から体が完全に飛び出すジャンプを行うことが可能で、これに相当する運動能力は、他のサメでは高速遊泳を行うことで知られるアオザメオナガザメに見られるくらいである。運動能力の高さは、奇網と呼ばれる毛細血管の熱交換システムを発達させていることによる。これにより体温を海水温よりも高く保っておくことができる。

ただし、あくまで軟骨魚類にしては運動性が高いのであって、最高時速50キロメートル以上も珍しくない硬骨魚類[3]鯨類をまともに追尾してとらえるのは困難であり、海生哺乳類を狙っての奇襲攻撃を得意としている。また、ホホジロザメは歯を大事にしていることが最近の研究で判明し、獲物に喰いついて大ダメージを与えたのち放し、出血多量で弱って致死するのを待つ、という手法が用いられていることが確認されている。

学習能力に優れている事が近年の研究で判明し、獲物を襲う際には過去の成功と失敗の経験を生かすと言われている。

海面を泳ぎながら顔を出し、体を横に回転させながら口を開けたり閉じたりする行動が見られる。英語では、repetitive aerial gaping と呼ばれるこの行動は、他のサメには見られないホホジロザメに特徴的なものである。

天敵は人間やシャチ、他の大型のサメである。大型のサメは比較的小型のホホジロザメを捕食することもあり、また、同じホホジロザメ同士でも、より大型の個体が小型の個体を捕食することもある。シャチに関しては状況によってホホジロザメを攻撃することはあるものの、基本的には抵抗されると自身にも危険が及び、かつシャチは偏食の習性があるため積極的に攻撃や捕食の対象にしてはいないと見られている。ただし、近年ではいわゆるオフショア型のシャチは本種を積極的に捕食しているという説もある。また、子供を連れているシャチは子供に対する危険を除去する目的で積極的に攻撃を仕掛けてホホジロザメを殺害する例が幾度も観察されている。なお、シャチは本種をはじめとした軟骨魚類を襲う際に、身体をひっくり返して擬死状態に陥らせ、抵抗できなくなってから捕食する[4]

捕食の対象となるハンドウイルカの子イルカを襲う際、それを守ろうとする成体のハンドウイルカがサメを攻撃する例も目撃されている(内臓を守る硬い骨格を持たないサメに体当たりし、内臓を破裂させて死に至らしめることがある)。シャチやイルカなどの海生哺乳類の知能とは比べられないが、魚類の中でも高度な知能を持ち、近年の研究で社会性を持っていることが判明し、仲間内で多彩な行動を取り、獲物を分ける行動も確認されている。

食性は動物食で、イルカやオットセイ、アザラシなどの海産哺乳類を好み、魚類や海鳥も捕食する。クジラの死骸を食べることもある。南アフリカ沿岸のホホジロザメは、海面を泳ぐミナミアフリカオットセイを狙ってジャンプする。満腹になる食事量は体重の30%程になるといわれる。 卵胎生で、子宮の中で卵から孵化した胎仔は、母親の未受精卵を食べて育つ。雌は1度に2 - 15尾前後の子どもを産む。妊娠期間については知られていない。産まれた子どもは体長1.2-1.5メートルの大きさで、しばらくは魚を中心に捕食し、大きくなると大型魚類や海産哺乳類を襲うようになる。

空腹でない限りは何も襲わず、こちらから危害を加えなければ何もしてこない。

分類

ホホジロザメ属 Carcharodonの現生種は、ホホジロザメ C. carcharias 1種のみ。

絶滅種。カルカロドン・メガロドン(あるいは単にメガロドン)と学名で呼ばれることも多い。歯の化石しか見つかっていないが、体長最大13メートル、ジンベエザメに匹敵する大きさの巨大な捕食者だったと考えられている。ただし、まだ学問的に完全に決着がついたと言える状況ではないものの、近年では本種との関係性自体否定され学名もカルカロクレス・メガロドンに変更されつつある。

人間との関係

ファイル:Carcharodon carcharias.svg
人間とホホジロザメの大きさの比較

人にとって、襲われれば最も危険なサメであり、世界中で死傷事故が発生している。サーフィンの最中や、貝などの漁で潜水しているとき、海水浴場での遊泳中に襲われる場合が多い。噛み付かれると致命傷になることがしばしばあり、死に至らなくとも手足を切断されるような重傷を負うことがある。しかし、実際にはシャチに襲われたケースが、ホオジロザメと誤認される場合もある。

世界中の海の沿岸域に生息しており、サメの中でも人を襲った記録が多く、さらに映画『ジョーズ』のモデルとなって以来、悪名高き人喰いザメというイメージが多くの人に定着した。俗称Man eater sharkとも呼ばれるほどである。このようなこともあって、サメの中では世界最大のジンベエザメと並んで一般によく知られている。「サメ」と言えば、大口を開けたホホジロザメがイメージされることも多い。

世界のホホジロザメによる事故

1876年2004年の間に確認された人身事故は224件あり、その内63件が死亡事故である。場所別に見ると、アメリカ西海岸が最も多く84件(7件)、次が南アフリカで47件(8件)、3番目はオーストラリアで41件(27件)(括弧内は死亡事故)。他に、地中海ニュージーランドでの被害も多い。

日本のホホジロザメによる事故

タイラギ貝漁中に潜水夫が行方不明になった。ウェットスーツや通信ケーブルが切り裂かれており、その切断面の形状から体長約5メートルのホホジロザメに襲われたものと判明した。
ミル貝漁をしていた男性が突然サメに襲われ、引き上げたところ体長6メートルほどのサメが食いついていて、右肩から腹部にかけて噛まれ、右腕は食いちぎられており、ほぼ即死状態で死亡した。
体長からサメはホホジロザメとみられる。この事故の後仲間の漁師らが「敵討ち」と称し捕獲作戦を決行したが、ついに捕獲には至らなかった。

日本では他に、2000年に1件の死亡事故が確認されている。また、上記のデータは国際サメ被害目録によるものであり、他にも下のような事故が存在する。

ホホジロザメの目撃例

ファイル:Chuming the water.jpg
ホホジロザメを撮影するスタッフたち。人が入ったケージを海に落とすところ。
ファイル:Great white Dyer island 2010-07.jpg
ケージの中から撮影されたホホジロザメ
ファイル:Great white shark and cage diving 2.wmv.OGG
船の上から撮影された、ケージに近づくホホジロザメ
海水浴場に全長約5.3メートルのホホジロザメが現れた。このサメは沖合をしばらく泳ぎ回った後、捕獲された。
その後も光市内では2002年8月にも虹ヶ浜付近にホホジロザメらしきサメが出現している。
雄としては世界最大級とされる体長4.8メートルの屍体が発見された。現在この屍体は剥製標本となり川崎市東扇島川崎マリエンで展示されている[5]

なぜ人を襲うのか

人にとって脅威となるのは、巨大な体、大きな顎、鋭い歯をもち、泳ぐのが速く、獲物の探知に優れているなど捕食者としての能力が高いことである。とくに歯は鋸歯状縁で、肉などを簡単に切り裂くことができる。人を襲うのも4-5メートル級の大型個体が多い。また、人との接触の機会が多いことも事故が起こる要因の一つである。ホホジロザメは温帯から亜寒帯の海に生息し、かなり冷たい水温にも耐えられる。時期によっては亜熱帯海域にまで進出する。さらに沿岸域の浅い所で生活し、昼行性であるため、人の活動時間・空間ともに重なることが多い。

大型個体はアザラシやオットセイなど海産哺乳類が主食であり、とくにアザラシと人間を見間違えて襲うという意見がある。サーフィン板等の上で腹ばいになってパドリングする人間の動きや、ウェットスーツを着て足ヒレを動かす姿が、下から見上げるとアザラシと誤認する事もあるといわれ、ホホジロザメなどの大型サメの噛み付きは人にとって簡単に致命傷となる。

有力な対策として、

  • 危険海域には近づかないこと
  • 色の明暗がある水着やサーフボードを利用する

黒と白の縞模様など、なるべく明るい色の入ったものが望ましい。鮫は明暗が分かるので、アザラシなどと勘違いされることを避けることができるとされている。

  • 海中で排尿・排便をしたり、出血するほどの怪我を負っている(生理中の女性も同じ)場合は泳がない

鮫は嗅覚がとても優れているので、臭いがすればすぐに寄って来る可能性がある。

サメにより人が襲われる事故は、例えばオーストラリアだけで1791年から2006年までの約200年間に668件発生しており、その内191人が死亡している。

しかし、狂暴でない個体でも突然に人を襲うケースもあり、サメが人を襲う根本的な理由は確かめられてはいない。一番の予防策はとにかくサメに逢わないよう細心の注意をすることであり、これはホホジロザメ以外の大型で危険だとされるサメ類全てにいえる事でもある。

保護

ふかひれ漁等の乱獲、害魚(人間や海棲哺乳類や他の魚類、他の人間としての食用になる海棲無脊椎動物(貝類・甲殻類など)を襲い、殺して食べる)としての駆除、スポーツ・ハンティング等の影響で生息数は激減している。オーストラリア、南アフリカ共和国、アメリカ合衆国カリフォルニア州マルタでは保護種に指定されている。資源量や生態は未知の部分も多い。

オーストラリアの例では、2014年、ニューサウスウェールズ州の裁判所が、ホホジロザメを殺した男に対して18,000オーストラリアドル(約160万円)の罰金の支払いを命じた例がある [6]

飼育

ファイル:Great white aqurium.jpg
モントレー湾水族館のホホジロザメ(2006年9月)

飼育が難しいとされてきたが、米モントレー湾水族館で若い雌の飼育を198日間行った。 その後この個体は海へ返されている。 飼育を断念したのは、成長に従って水槽内の他の魚への危険が増したためであると水族館側は説明している。

関連作品

スティーブン・スピルバーグ監督の出世作である映画『JAWS』に登場する「人喰いザメ」も、このサメである(ただし「体長8m/体重3000kg」という、正式には確認されていない大きさの設定である)。

代表的な人食いザメというイメージから、良くも悪くも人の注目を集めるサメであり、ジャンルを問わず数々の作品においてホオジロザメが登場したり、それをモチーフとしたキャラクターが登場している。

脚注

  1. テンプレート:Cite web
  2. 厳密には、ウバザメの方が大きい
  3. バショウカジキは時速109.7キロメートルで泳いでいたことが記録されている。また、クロマグロも時速70-90キロメートルで泳ぐことができる。中村庸夫、『記録的海洋生物 No.1列伝』、誠文堂新光社、2010年、p76,94
  4. The moment a whale delivers a deadly 'karate chop' blow to a killer shark
  5. テンプレート:Cite web
  6. テンプレート:Cite news

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参考文献

  • A&A・フェッラーリ 『サメガイドブック-世界のサメ・エイ図鑑』 御船淳・山本毅訳、谷内透監修、ティビーエス・ブリタニカ、2001年、256頁。
  • 仲谷宏一 『サメのおちんちんはふたつ』 築地書館、2003年、231頁。

関連項目

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外部リンク

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