バックドロップ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

バックドロップレスリングプロレスで用いられる投げ技の一種。アメリカ合衆国ではベリートゥバック・スープレックス (belly to back suplex)、日本では岩石落としという別名でも呼ばれる。

概要

一般的にはアメリカのプロレスラーで"鉄人"の異名を持つルー・テーズによって開発されたとされている。しかし、実際には大正時代にエド・サンテル柔道裏投げを弟子のティヤシュ・ラヨシュに伝え、彼が改良を加えて完成させた。このラヨシュは英語ではアロイジャス・マーティン・ルー・セスと名乗っており、これが日本で誤読されルー・テーズとなったとする説が有力。また、日本でルー・テーズがバックドロップを必殺技にしてリング上で活躍したため、ルー・テーズ=バックドロップのイメージが定着したのも誤解の原因であるといえる。ただ、バックドロップをメジャーなプロレス技として世間に広めたのは、紛れも無くルー・テーズである。

だが、これ以前からレスリングではブリッジを活かしたバック投げ(バックスープレックス)が一般化しており、こちらがルーツであると言う見解も有力である。

古くからの日本のプロレスラー(現在では天龍源一郎ら)やオールドファンは、バックドロップ自体のことを「ルー・テーズ」と呼ぶ。

形態

背後から相手の腋下に頭を入れ、両腕で相手の胴に腕を回しクラッチして持ち上げ、自ら後方に反り返るように倒れ込んで、相手の肩から後頭部にダメージを与える。

技が開発された当初は開祖として有名なルー・テーズ他、主にレスリング出身の選手が好んで使用していたが、技としての手軽さと威力の高さに注目した各レスラーが使用し始め、現代では非常に多くの使い手が存在するが、その分受身も改良されてしまい、説得力のあるフィニッシュ・ホールドとして使用している者は限られている。

日本人の使い手としては、テーズから伝授されたジャンボ鶴田が有名。

現代においてバックドロップを明確にフィニッシュとして用いているのは渕正信森嶋猛小川良成永田裕志大矢剛功山本尚史百田光雄後藤達俊間下隼人等である。小川や永田はバックドロップ・ホールドも得意としており、フィニッシュにはこちらの方がよく使われている。

技の使い手とエピソード

ルー・テーズによって日本にもたらされたバックドロップは、日本プロレスの開祖・力道山を含む日本の強豪レスラー達を次々に沈めた技として、強い衝撃を人々にもたらした。それは後年、日本において多くの名手を生み出す要因となっている。

アントニオ猪木も現役時代、延髄斬りを開発する前は卍固めと共にフィニッシュに用いていた。ウィレム・ルスカとの異種格闘技戦において放ったバックドロップ3連発のシーンは、長くワールドプロレスリング中継のオープニングを飾る1シーンとして使用されていた。一方、そのライバルであったジャイアント馬場は、己の長身でこの技を繰り出すことが非常に危険であることを自ら察知し、自らの肩越しに相手をスライドさせるようなドリー・ファンク・ジュニア式の抱え式バックドロップを使っていた。

ジャンボ鶴田は、コーチとして来日したルー・テーズに直接教えを受けたことでバックドロップを必殺技として蘇らせた。

後藤達俊の出したバックドロップを喰らった対戦相手の馳浩が、試合後に一時心臓停止したことがある。

死亡例としては2009年6月13日三沢光晴齋藤彰俊のバックドロップを受けてまもなく亡くなっている。

切り返し方

  • 投げられる寸前、相手に足をかけて自由を奪い、そのまま後ろにたたきつける。力道山ルー・テーズのバックドロップへの対処法として相撲河津掛けを応用して編み出した。また独立した技としても使われ、そのまま自分諸共相手を倒した場合は河津落としと呼ばれる。ジャイアント馬場が得意にした。
  • ヘッドロックで相手を押しつぶし、相手のクラッチを切る。
  • 投げられた瞬間に、空中で体を捻り覆い被さるように押しつぶす。
  • 投げられた瞬間に後方に一回転してマットに足から着地する。
  • ロープに近い場合は、トップロープに脚をかけてわざと勢いをつけて相手の後頭部を叩きつけることもある。

バリエーションと派生技

ファイル:Back Drop.jpg
抱え式バックドロップ

この技は色々と加味されていて、バリエーションが多いのが特徴である。少しでも体勢が違えば別の技とされるプロレス界においては珍しく、多くはバックドロップとして扱われている。

バリエーション

ヘソ投げ式バックドロップ
テーズ式バックドロップ元祖バックドロップとも呼ばれる。
ルー・テーズが試合で多用した最もスタンダードなバックドロップであり、投げる際に真後ろにブリッジを組むかのごとく反り返るために「ヘソで投げる」と形容される。なおテーズ自身の述懐によると、真後ろに投げるのではなく、自分の体を捻って相手の肩を脱臼させる危険な投げ方を2回程行ったことがある、と後年になって告白している。このタイプの他の使い手としてはテーズから直伝されたジャンボ鶴田のほか、永田裕志森嶋猛大矢剛功諏訪魔など。
抱え式バックドロップ
後方から相手の胴をクラッチせず、股をすくい上げるようにして落とすため、ブリッジはきかせない。ドリー・ファンク・ジュニアによってもたらされ、ジャイアント馬場坂口征二等の長身選手が好んで用いた。小橋建太はすくい上げた体勢から数秒間停止し、タメをつくって落とす。抱え式・抱え込み式・足抱え式・足抱え込み式・片足抱え式・片足抱え込み式・担ぎ上げ式・担ぎ式・すくい上げ式など呼び名は多い。
ニークラッシュ型バックドロップ
抱え式のさらなる変型。相手をニークラッシャーの形で持ち上げた後、そのまま後方に投げる。ハーリー・レイステッド・デビアス リック・フレアーなどが一時期使い、日本では佐藤昭雄が使い手だったが、天龍源一郎はUN選手権の初防衛戦で、テッド・デビアスに対して後方に投げた後、ブリッジしてフォールを奪った。
捻り式バックドロップ
マサ斎藤長州力が使い手で、相手を真後ろではなく横抱き気味に胴クラッチし、腰の瞬発力で相手を高く持ち上げると同時に捻りながら落とす。小柄な選手が大柄な選手に対して用いることが多い。ブリッジを利かせないため、開祖のテーズはバックドロップとして評価していないが、相手は真後ろではなく横方向になった状態で落とされるために受身が取りづらく、受けるダメージも大きい。80年代当時、マサ斎藤が定着していたAWA圏では、この技はバックドロップとは別の技、と定義されており、「サイトー・スープレックス」と呼称され、WWEでも技が出た場合ジム・ロスウィリアム・リーガルらが実況で発言することがある。斎藤彰俊三沢光晴に放った形もこのタイプ。
跳躍式バックドロップ
小川良成武藤敬司が使い手で、通常型で持ち上げると同時に、軽く後方へ跳ねながら相手をマットへ投げ落とす。小柄な選手や力に自信がない選手がそれを補うために使用するケースもある。しかし地面を踏みしめる反発力が逃げてしまって相手に伝えられないという欠点もある。
低空バックドロップ
高速バックドロップとも呼ぶ。投げる時の円の半径を小さくしたバックドロップ。基本的には通常型と同じような投げ方だが、テーズのようにヘソで投げる形となる場合が多い。足腰のバネを使い、ブリッジを利かせ後方に引っ張り込むようにハイスピードで投げるため相手は受身が取りづらい。テーズが現役の頃に日頃の試合でフィニッシュとして使っていたタイプのバックドロップとは、実はこの低空式である。鶴田もテーズから直接指導を受けた当初使用していたのは、こちらの低空式タイプだった。
現在はテーズから直接伝授された蝶野正洋が好んで使用している。渕正信のバックドロップもこの形に近い。UWF系の選手にも使い手が多い。
デンジャラス・バックドロップ
殺人バックドロップ垂直落下式バックドロップとも呼ばれる。スティーブ・ウィリアムスの必殺技。自らの肩口に相手の腰を乗せる形で力任せに引っこ抜くように投げる。ウィリアムスのブリッジワークがあまりきかないことから結果的に相手はパイルドライバーのように頭頂部から垂直に落下するため受けるダメージは相当高く、試合のフィニッシュになる場合が多い。このため「垂直落下式」と呼ばれることがある。投げるときは両腕で相手の腰をクラッチするのが基本形だが足抱え式と同じクラッチとなる場合もある。
また、投げた後にそのままホールドして固めるデンジャラスバックドロップホールドも存在する。
自らもこの技を受けた川田利明が、その威力に触発されてこのスタイルに近いバックドロップを繰り出すようになった。1993年8月31日に小橋健太と対戦したウィリアムスが繰り出したバックドロップが、まさにパイルドライバーで打ち付けるかのごとく90度で小橋を首から叩き付けたため、この時、実況を担当した佐藤啓が即興で「バックドロップ・ドライバー!」と叫んだことがある。「殺人バックドロップ」という異名は、ウィリアムスのニックネームが「殺人医師」であることに由来する。
現在はリアルジャパンプロレス間下隼人がブリッジの利いた、リアル・デンジャラス・バックドロップとして使っている。
急角度バックドロップ
垂直落下式バックドロップとも呼ばれる。後藤達俊の必殺技。後藤曰く、長州式とテーズ式の長所を取り入れたもの。自身の重量挙げの経験を生かして相手を高く持ち上げ、ブリッジを利かせて鋭角な角度で垂直にリングに突き刺す。クラッチの位置が通常よりも高く相手の横隔膜あたりを抱え込むために、相手は体を丸めて衝撃を逃がすことが出来ず、これを食らった馳浩が一時的に心停止にまで追い込まれたほど(実際は、馳が切り返して自身の体を浴びせようとした際に後藤のクラッチが離れていなかったため馳の体が回転しきれず側頭部からマットに叩きつけられた。その衝撃で脳内出血し、控室でシャワーを浴びた際に血の巡りが多くなり脳内への出血量が増えて心停止を引き起こしたもの)。この事件があってから後藤はクラッチを通常のバックドロップと同じ位置にしている。この事件の影響からゲームなどでは「地獄バックドロップ」、「三途バックドロップ」「殺人バックドロップ」と表現されている。現在は後藤の他に、後藤から直々に教えを受けた山本尚史がこのスタイルのバックドロップを使用する。
急降下式バックドロップ
抱え式で担ぎ上げた後、自らの体ごとマットにスピーディーに倒し、それによって相手をマットに叩き付ける。後方へ投げるというよりも、足元へスッと落とすといったイメージである。担ぎ上げる動作に比べ、落とすスピードが速いのでこう呼ばれる。百田光雄が使い手。
叩き付け式バックドロップ
バックドロップ・ボムとも呼ばれる。ベイダーが使用する、抱え式で高々と担ぎ上げた後、後方に倒れ込みながら自らの体を180度捻り、片足をクラッチしたままパワーボムのように体重を乗せながら叩き付ける技。バックドロップというよりも浴びせ技の一種といえるかもしれない。
旋回式バックドロップ
三沢光晴が使う、足抱え式で相手を自らの肩に持ち上げ、最高点で自らコマのように旋回してから落とすバックドロップ。見栄えのある繋ぎ技として使用することが多い。
大剛式バックドロップ
天山広吉が使う相手の片足をクラッチして急角度に落としていくバックドロップ。アナコンダ・スープレックスとも呼ばれる。小股すくいスープレックス無双・改に類似。
天龍源一郎はこのタイプのバックドロップ・ホールドを使う。
肩車式バックドロップ
相手を肩車した体勢でそのまま後ろに落とす。合体技の原型として用いられることがある。有名なところでは、川田利明田上明の「バックドロップ+ノド輪落とし」、長尾浩志の「バボム」。また、ダイナマイト・キッドが一時期、ザ・コブラとのシングルやタッグでの対戦で雪崩式の形で多用していた。
雪崩式バックドロップ
鶴見五郎小川良成ワイルド・ペガサスの得意技。バックドロップの体勢で抱え上げた相手をコーナーポストに座らせ、自らはトップロープもしくはセカンドロープに登って放つ。使う選手によって通常型か抱え式かの違いがある。
鶴見の場合、国際プロレスの崩壊→全日本プロレス参戦時、阿修羅・原と抗争していたため、彼がよくこの技を食らった。しかし、シングルがほとんど組まれず、タッグ戦がほとんどだったことから、フォールはカットされ、決め技にはならなかった。
小川は自身最大のフィニッシュ・ホールドである抱え式のバックドロップホールドで3カウントが取れなかった場合、この雪崩式バックドロップで3カウント取りにいったりする。

派生技

テラマエ485
が使う変形のバックドロップ。相手の股の下でクラッチをして投げる急角度バックドロップ。
アクシズ
通常のバックドロップの体勢で相手を一気に持ち上げ、その勢いで空中で相手を270度回転させ、相手の前面から叩き落す。鈴木鼓太郎の通称「ガンダム殺法」の1つ。

バックドロップ・ホールド

概要

相手にバックドロップを見舞った後、ブリッジを崩さずに維持しつつクラッチを解かずにピンフォールを狙うもの。「岩石落とし固め」とも呼ばれる。

開発者はジャンボ鶴田。1984年2月23日、時のAWA世界ヘビー級王者ニック・ボックウィンクルに挑戦した鶴田がフィニッシュ・ホールドとして出したのが最初。形としてはヘソ投げ式で繰り出した。鶴田はこの技で最初の日本人AWA世界ヘビー級王者となっている。

なおブリッジが崩れた場合は、そのまま倒れこみ式バックドロップ・ホールド(後述)に切り替えてフォールを狙う場合がある。

このタイプの代表的な使い手は鶴田の他には永田裕志諏訪魔がいる。

バリエーション

デンジャラス・バックドロップ・ホールド
殺人バックドロップ・ホールド垂直落下式バックドロップ・ホールドともいう。主に全盛期のスティーブ・ウィリアムスがフィニッシュで使っていた。デンジャラスバックドロップで投げた後、強引にバックドロップホールドで固める。力任せに投げる勢いでホールドの形が崩れてしまうことが度々あり、両腕で腰をクラッチして投げたが固める時は足抱え式だったり、ブリッジが崩れて固めるときは片エビ固めに強引に固めることもあった。
抱え式バックドロップ・ホールド
小川良成のフィニッシュ・ホールド。抱え式バックドロップで投げた後、そのままブリッジを維持しつつ片足と胴を腕でクラッチしたままホールドし3カウントを狙う。
ダイナマイト・キッドは高角度でこの形のバックドロップホールドを放った。キッドは小川良成にこの技を直伝している。
抱え式・抱え込み式・足抱え式・足抱え込み式・片足抱え式・片足抱え込み式・担ぎ上げ式・担ぎ式・すくい上げ式など呼び名は多い。
倒れ込み式バックドロップ・ホールド
主にジャンボ鶴田永田裕志スティーブ・ウィリアムスが使用。投げた時の勢いでブリッジが崩れたが、そのまま倒れ込んで強引に相手の体をクラッチしたままホールドするバックドロップ・ホールド。使用される頻度は比較的少ない。ジャンボ鶴田が三冠ヘビー級選手権防衛戦で川田利明をこのタイプのバックドロップ・ホールドで倒して脚光を浴びた。
自らの体を半分捻る様な形でホールドする場合もあり、永田裕志が得意とする。元は永田は通常式のバックドロップ・ホールドを得意としていたが、平成19年のIWGPヘビー級選手権防衛戦においての対越中詩郎に繰り出した頃から、このタイプを常用するようになった。また三沢光晴もこの技で村上一成からフォールを奪ったこともある。

派生技

ヴィクトリア・ミラネーゼ
ミラノコレクションA.T.が使う変型バックドロップ・ホールド。背後から自分の頭を相手の右脇に入れたバックドロップの体勢から、自らの左腕で相手左足の膝裏を掬うように抱え、右腕は相手右脇腹を抱えるように自分の左腕とクラッチ。そのまま背後へ投げ固める。元はバックドロップ・クラッチ・ホールドと呼ばれていた。
アストロマン・ドロップ・ホールド
渡辺智子の使うクロスアーム式の変形バックドロップ・ホールド。
レッグロック・スープレックス
ブライアン・ダニエルソンが使う変型バックドロップ・ホールド。頭を背後から相手の右脇に入れたバックドロップの体勢から、自らの右腕で相手右足の膝裏を抱え、左腕は相手の左肩上から回して相手を屈伸させるように両腕をクラッチ。そのまま反り投げてフォールする。WWEウィリアム・リーガルに直接伝授された。名前はスープレックスとなっているが、形はバックドロップの派生。青木篤志アサルトポイントの名称でフィニッシュホールドで多用している。
村正
丸藤正道のオリジナル技。抱え式バックドロップのあと、即座にジャックナイフ式片エビ固めに固める。

類似技

ジャーマン・スープレックス
グレコローマン発祥のバックドロップに対し、フリースタイルの後ろ反り投げを起源にした投げ技がジャーマン・スープレックスである。
裏投
柔道における真捨身技に分類される投げ技の1つ。相手の右斜め後方から自分の左腕で相手の腰を抱え、右腕を相手の右脇から左首筋にたすき掛け状に通して抱える。その体勢のまま自らの腰と膝のバネで相手を跳ね上げ、後方に捻りながら引っ掛けた右腕で相手をコントロールし後頭部から投げ捨てる。1989年4月29日、プロレス初の東京ドーム大会でアントニオ猪木と対戦したショータ・チョチョシビリがこの技の連発で猪木を破り、異種格闘技戦初の敗北を付けた。その後この技の威力に目を付けた馳浩サンボ修行を行った際にこの技を身につけて、以後自らの必殺技として取り入れた。

関連項目