ニッケル

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テンプレート:Elementbox ニッケル (テンプレート:Lang-en-short, テンプレート:Lang-la-short) は、原子番号28の金属元素である。元素記号Ni

地殻中の存在比は約105 ppmと推定されそれほど多いわけではないが、鉄隕石中には数%含まれる。特に 62Ni の1核子当たりの結合エネルギーが全原子中で最大であるなどの点から、と共に最も安定な元素である。岩石惑星を構成する元素として比較的多量に存在し、地球中心部のにも数%含まれると推定されている。

性質

銀白色の金属で鉄族に分類される。原子量は約58.69である。常温で安定な結晶格子は、面心立方構造 (FCC) であり、また、よりは弱いが強磁性体キュリー点は350 テンプレート:℃であり鉄族元素としては最も低い。

銀白色の光沢ある金属であり乾燥した空気中ではさびにくいが、微粒子状のものは空気中で自然発火することもあり、細いニッケル線は酸素中で火花を出して燃焼する。水素よりイオン化傾向がやや大きく、塩酸および希硫酸に徐々に溶解し緑色の水和ニッケルイオンを生成するがその反応は極めて遅い。酸化作用を持つ希硝酸には速やかに溶解し濃硝酸では不動態を形成する。アルカリに対しては比較的強い耐食性を示す。

Ni + 2 H+(aq) → Ni2+(aq) + H2
3 Ni + 8 HNO3 → 3 Ni(NO3)2 + 2 NO + 4 H2O

微粒子状の金属粉末は水素および窒素ガスなどを吸蔵し水素付加反応を活性化させる作用をもち、融解状態でもこれらの気体を吸収し、凝固時にその大部分を放出するため表面が巣穴になりやすい。また鉄と同様に融解状態では炭素を6.25 %まで溶解し、凝固するとグラファイトを析出する。

50-60 テンプレート:℃で微粉末状のニッケルに一酸化炭素を反応させるとテトラカルボニルニッケルを生成し、これを200 テンプレート:℃に加熱すると分解してニッケルを生じるためこの反応はモンド法と称してニッケルの精製に用いられる。

Ni + 4 CO <math> \rightleftarrows\ </math> Ni(CO)4

用途

光沢があり耐食性が高いためめっきに用いられるほか、ステンレス鋼硬貨の原料などにも使用される。日本で2010年現在発行されている50円硬貨100円硬貨とニッケルの合金(白銅)である。アメリカ合衆国5セント硬貨も白銅だが、通称「ニッケル」と呼ばれている。純ニッケルも硬貨の材料として用いられたことがある。これはニッケルが特殊鋼薬莢の材料である白銅の原料として重要であるため、国家が備蓄し、平時は硬貨として流通させ、有事に際しては他の素材の硬貨や紙幣で代替して回収するためである。日本でも第二次世界大戦直前の1933年(昭和8年)から1937年(昭和12年)にかけて、5銭と10銭のニッケル硬貨が発行されており、その名目で軍需物資であるニッケルを輸入した。ただし、戦後もニッケル硬貨は発行されていて、1955年(昭和30年)から1966年(昭和41年)まで発行されていた50円硬貨がニッケル硬貨である。

磁性材

ニッケルとモリブデンクロムを加えた合金パーマロイと呼ぶ。優れた軟磁性材料であることから、変圧器鉄心磁気ヘッドに用いられている。

耐熱材

ニッケル36 %、鉄64 %の合金を「インバー」、ニッケル36 %、鉄52 %、コバルト12 %の合金を「エリンバー」と呼ぶ。インバー合金は熱膨張率が非常に小さく、エリンバー合金は温度による弾性率の変化が非常に小さいという特徴があり、機械式時計の発条などの精密機械に用いられている。ニッケルベースの合金である各種のインコネルは、その耐熱性からタービンコンプレッサ材料等に用いられる。

形状記憶合金

チタンとニッケルの1:1の合金は最も一般的な形状記憶合金となる。

触媒

ニッケルは不飽和炭素結合に対する水素付加不均一系触媒としてラネー合金などに加工され工業的に用いられる。

電極材

水酸化ニッケルはニッケル・水素蓄電池ニッケル・カドミウム蓄電池等の二次電池の正極に使われる。

水素貯蔵合金

水素を取り込む性質を利用し、水素貯蔵合金の AB5 型、Mg 型。

歴史

アクセル・クロンステット (Axel Frederik Cronstedt) が1751年に単体分離。名称はドイツ語Kupfernickel(悪魔の)に由来する[1]。これは、ニッケル鉱石である紅砒ニッケル鉱 (NiAs) が銅鉱石に似ていながら これから銅を遊離できなかったために、坑夫たちがこう呼んだためと言われている。

産地

ニッケル鉱石の生産は世界全体で134万トン(2009年現在)である。その内訳はロシアが19 %、オーストラリア14 %、インドネシア12 %、カナダ10 %、ニューカレドニア7 %となっている[2]

鉱石としては、主に蛇紋岩中に産出する珪ニッケル鉱(Garnierite、(Ni,Mg)3Si2O5(OH)4 とされるが、組成が一定しないので独立種とは認められていない)、磁硫鉄鉱などと共産するペントランド鉱(Pentlandite、(Fe,Ni)9S8)が主に採掘されている。

日本のニッケル鉱山と産出

テンプレート:Main 日本では第二次世界大戦中、京都府与謝郡大江山で開発されたニッケル鉱山で日本冶金工業が採鉱して、近くの製錬所でフェロニッケルに製錬し、さらに川崎市の同社工場でニッケル合金として軍用に提供していた。 また山口県においても、山口県周南市~岩国市にかけて断続的に蛇紋岩帯があり、昭和15年~20年にかけて金峰鉱山などで採掘が行なわれた。この他に千葉県の房総半島など、蛇紋岩帯の存在する地域で採掘が行なわれた。しかし、これは戦時体制による商業コストを度外視したものであり、ほとんどが終戦とともに閉山・廃鉱となった。

この金属は、日本国内において産業上重要性が高いものの、産出地に偏りがあり[3]供給構造が脆弱である。日本では国内で消費する鉱物資源の多くを他国からの輸入で支えている実情から、万一の国際情勢の急変に対する安全保障策として国内消費量の最低60分を国家備蓄すると定められている。

生物との関わり

ウレアーゼ尿素分解酵素)やいくつかのヒドロゲナーゼ分子水素酸化還元酵素)などは、その機能を発現するためにニッケルを取り込んでいる[4]。しかしながら、ニッケルは金属アレルギーを引き起こしやすい金属の一つであり、WHO の下部組織 IARC はニッケル化合物を「Group1:ヒトに対する発癌性が認められる化学物質」としている[5]。記事 IARC発がん性リスク一覧に詳しい。

主な合金

ニッケルの化合物

化合物中の原子価は2価が最も安定であるが3価および4価のニッケル原子を含む錯体も存在し、-1、0、+1といった低原子価の錯体も存在する。強酸陰イオンよりなる類は一般的に水に可溶であるが、カルコゲンなどとの化合物は難溶または不溶である。

同位体

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脚注・出典

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

関連項目

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外部リンク

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  1. テンプレート:Cite
  2. 外務省 国際ニッケル研究会の概要
  3. ロシア、カナダ、インドネシア、豪州、ニューカレドニアで約3分の2を占める。
  4. 一島英治、『酵素の化学』 p.45
  5. ただし、IARC の報告は疫学的リスク評価であり、ニッケルおよびニッケル化合物に人に対して発癌するリスクが存在するという意味であり、どの位の量をどのくらい長期間接触したら発癌するといった量的評価ではない。