エドガー・ポーツネル

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テンプレート:特筆性 テンプレート:物語世界内の観点 エドガー・ポーツネル1740年5月12日 - )は、1972年2月から1976年5月にかけて主に『別冊少女コミック』(小学館)に連載された漫画ポーの一族』(萩尾望都)の主人公架空の人物。イギリス貴族エヴァンズ伯爵と、うら若き愛人メリーウェザーとの間に生まれた第1子。男性。作者の全作品を代表するキャラクターでもある[1]

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経歴

1740年に生誕し、その4年後に妹のメリーベルが生まれる。病弱だったメリーウェザーの死後、エヴァンズ伯爵が子供たちを正式に引き取ろうとしたため、本妻の逆鱗(げきりん)に触れ、エドガーは彼女の召使いの手によってメリーベルと共に森の中に捨てられ、スコッティの村の老ハンナ・ポーに拾われ彼女の館で育てられることになる。しかし優しい老ハンナの正体は、バンパネラ吸血鬼)であった。

1751年、11歳になったエドガーが、バンパネラの秘密の儀式を目撃してしまったため、20歳になったら彼らの仲間となることを強要される。愛する妹を事実上人質にとられる形となったエドガーは承諾するが、その3年後の1754年、老ハンナは彼女を吸血鬼と疑う村民たちの手により、杭を心臓に打ち込まれ殺されてしまう。老ハンナは灰となって消滅し、その光景を目撃したスコッティの村民たちが館を襲撃する準備にかかる。館の一族は夜間逃亡を余儀なくされるが、老ハンナの遺志を重んじた大老(キング)ポーの血を体内に注がれ、エドガーはバンパネラへと変化する。ポーの一族であるポーツネル男爵とその妻シーラの養子となったエドガーは、以後、永遠に少年の姿のまま生き続ける苦悩と運命を背負うことになった。

それからさらに3年後の1757年、最愛の妹メリーベルを一族に加え、ポーツネル男爵夫妻と共に4人で100年以上の時を過ごすことになる。(「メリーベルと銀のばら」)

しかし1879年クリフォード医師に正体を見破られたメリーベルは銀の弾丸を撃ち込まれて消滅、続いて男爵夫妻も消滅する。深い悲しみと絶望に沈む中、悲しみと寂しさを埋め合わせるためにアラン・トワイライトを一族に加え、以後100年近くの時を2人で駆け巡る。(「ポーの一族」)

1976年、エヴァンズ家の末裔(まつえい)、エディス・エヴァンズを火災から救出する際、アランが誤って階下に落下して消滅する。そして、エディスを救出した後のエドガーの消息は不明である。(「エディス」)

人物

見た目は、澄んだ青い瞳が印象的な、巻き毛の14歳の少年[2]

人間だった頃はごく普通の少年であり、「捨て子」とはやし立てられれば立ち向かっていく負けん気の強い性質の持ち主だった。すこぶる妹思いでもあり、メリーベルに注ぐ献身的な深い愛情は、バンパネラとなってからも彼の内面に根を張り続け、以後200年に渡って繰り広げられる数々の物語を織り成す強靭(きょうじん)な縦糸となった。エドガーの「少年」らしい、もしくは「人間」らしい振る舞いが見られるのは1744年から1757年までを舞台にした中篇「メリーベルと銀のばら」、および1820年を舞台にした「エヴァンズの遺書」においてぐらいのものである(「エヴァンズの遺書」では、エドガーは記憶を失い、幼児のようになってしまっているのだが)。彼はメリーベルへの深い愛と、人間に戻りたいというかなわぬ望みを抱き続けながら長い年月を生きているのだが、底知れぬ絶望は表に現われることはない。美しい青い眼は氷のように冷たく、物言いは常にシニカルである。

この壮大な物語の幕開けである短編「すきとおった銀の髪」の主人公チャールズには、「あれでぼくと同い年だって。百も年上みたいに見つめて……つめたい目。」などとつぶやかれている。あくまでも14歳の少年の姿かたちをしていながら、そして心の一部分は14歳のみずみずしさを保っていながらも、ふとした瞬間にこの世のものならぬ魔をのぞかせる彼は、その時代時代に出会った人々の心に峻烈(しゅんれつ)な印象を残して通り過ぎていく。1934年のロンドンを舞台にした短編「ホームズの帽子」の主人公ジョン・オービンに至っては、エドガーとの出会い以来、「魔物」の魅力にとりつかれてしまい、エドガーを追い求めることに残りの数十年の人生を捧げるのである。

読者もまた、ジョン・オービンと似た想いを抱かされる。生きていればいつかエドガー・ポーツネルに出会える一瞬があるのではないかと夢想せずにはいられない麻薬的な魅力を、この幻想的な物語の主人公は包含しているのである。

特技・趣味・癖

  • 乗馬が得意で、「エヴァンズの遺書」ではヘンリー・エヴァンズ伯爵から「すじがいい」と言われ、アーネストにも「なんと軽く手なれた乗馬だ」と感心されている。また、馬車の扱いにも慣れている[3]
  • 手先が器用で、「メリーベルと銀のばら」でメリーベルのために川遊び用の小さな水車を作ったり[4]、「ピカデリー7時」ではリリアの恋人のポールから手紙をすり取っている。
  • 推理や謎解きが趣味と特技を兼ねており、「小鳥の巣」でロビン・カーの死の真相をほぼ探り当て、「ピカデリー7時」ではポリスター卿が失踪した原因を推理している。また、住んでいるエディスが知らなかったエヴァンズ家の二重階段と隠し部屋[5]を探り当てている。
  • リデル・森の中」でリデルにコールドチキンを食べさせるなど、料理ができる[6]
  • 「小鳥の巣」でロザリー姫(ロザリンド)を演じたり、「エディス」ではエディスの服を着て盗品売買犯のボスたちを引きつけたりするなど、女装が得意[7]
  • 「はるかな国の花や小鳥」で、エルゼリから「あなたはテノールね、いい声だわ」と言われていることから、歌は上手いようである。
  • ポーの一族」と「エヴァンズの遺書」でメリーベルやヘンリー・エヴァンズ伯爵から指摘されているように、バラなど花の枝を折る癖がある(「エヴァンズの遺書」では、バラではなく椿の枝を折っている)[8]。ただし、アランと2人で暮らすようになってからは、この癖は1度も見られない[9]

名前の由来

エドガーの名は、エドガー・アラン・ポーに由来することが、作者自身により明らかにされている[10]

他作品での引用

大学教授のクイーンが吸血鬼の講義を始めるシーンでエドガー登場。
ヤングユーコミックス」5巻のカラー扉に、高橋 薫がエドガーに扮装しているイラストが描かれている[11]
「巻き毛がかわいいバンパネラねずみ」のナレーションとともに出現するネズミバンパネラねずみはエドガーのパロディとして描かれている[12]
作品中で描かれる本作のパロディ作品『ペーの一族』の中で、主人公の林家ペーがエドガーの姿で描かれている[13]

他の作家にとってのエドガー

朝日新聞夕刊のシリーズ「わが青春のヒーロー」(in 1975)にエドガー・ポーツネルを採り上げている[14]
萩尾作品で何度もSF的快感を体験した中での1番の萩尾ショックを、15歳の誕生日に「エ…エドガーより年上になってしまったあああっ」ことだと自身のイラストで描いている[15][16]
漫画教室に通っていた頃、授業で説明をしたいのにうまく説明できず「あ、もういいです」と諦めたとき、作者から「伝えることをあきらめてはいけません。編集と話しているとそんなこと、よくあることですから」と言われたことを、作者の似顔絵が描けないのでと替わりにエドガーの姿で描いている[17]

脚注

  1. デビュー40周年記念「萩尾望都原画展」のポスターには、「ランプトンは語る」のエドガーの上半身画が描かれたカラー扉が用いられている。
  2. カラーイラストでは茶色の髪で描かれる。
  3. 「ペニー・レイン」と「一週間」で馬車を扱っている。とくに「一週間」で「馬ひかせて」と頼むアランに「だめだ、ヘタだもの」と断っているあたり、扱いに自信があることの裏返しに見える。
  4. 不器用には見えないオズワルドが水車を作ろうとして失敗して指をキズだらけにしていることから、かなり器用でないと作れないようである。
  5. この二重階段と隠し部屋は、警察の捜査でも見つけられなかった。
  6. エドガーが料理を作っている描写はない。しかし、リデルは8年間エドガーとアランと3人だけで暮らしており、使用人や料理人はいない。また、幼いリデルが料理ができるはずがなく、靴ひもさえ満足に結ぶことができないアランに料理が作れるとは思えない(また性格的に人のために料理を作るとも思えない)ことから、エドガーが料理を作っていたと考えるのが妥当である。
  7. 異母兄オズワルドの子孫で女性のエディスとそっくりである一方、ロザリー姫を演じた際には男にも女にも見えないと評されていることから、中性的な容姿と考えられる。
  8. ポーの村」でもバラの枝を折っている。また、「メリーベルと銀のばら」でもバラを折ろうとして指を傷つけている描写が見られる。
  9. 癖が矯正されたのか、単にその描写がないだけなのかは不明。
  10.  『別冊少女コミック』1976年8月号の「少年たちは今どこに!?」(作者と羽仁未央との対談)で次のやりとりがある。
    未央「ところで『ポーの一族』のエドガーやアランという名まえは怪奇小説家のエドガー・アラン・ポーから取ったのですか?」
    萩尾「そうです。ゴロ合わせみたいなもンですね。」
  11. ヒロインの「藤原百恵」扮するメリーベルとともに描かれ、イラストの中で「やっぱしエドガーは僕しかできないよね。血よりも肉が好きだけど……」とつぶやいている。
  12. パタリロ!』には、「小鳥の巣」から「だれが殺した? クック・ロビン」の歌(マザー・グース)も「クック・ロビン音頭」に引用されている。
  13. 林家三平に「ペー、テレビに映ってない!!」と怒鳴られ「テレビに映りたかったら、つねにこん平の後ろに回りこめ!」と言われたペーが、エドガーの姿で「笑っているふり...面白がっているふり...それくらいできるよ」とつぶやく場面などが描かれている。
  14. 1997年7月12日の朝日新聞夕刊参照。
  15. 月刊COMICリュウ2007年7月号に掲載された、第27回日本SF大賞を受賞した作者への祝辞参照。
  16. 鈴木めぐみ著『うれし恥ずかしなつかしの少女マンガ』(ソニー・マガジンズ 2005年)の中で、道原のショックと同様の読者の例として、「15才の誕生日を迎えたとき、エドガーより年上になっちゃった…と思って悲しくて泣いた」「中3のとき、『ポーの一族』の好きな子で集まって、"エドガーの年を追い越してしまった"残念会をした」などが紹介されている。
  17. 『文藝別冊〔総特集〕萩尾望都 少女マンガ界の偉大なる母』(河出書房新社 2010年)の「漫画家からの特別寄稿」参照。