アマミノクロウサギ

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アマミノクロウサギ(奄美野黒兎[1]Pentalagus furnessi)は、動物界脊索動物門哺乳綱ウサギ目ウサギ科アマミノクロウサギ属に分類されるウサギ。本種のみでアマミノクロウサギ属を構成する。

分布

日本奄美大島徳之島[2][3][4]固有種[a 1]

形態

体長42-51センチメートル[2]。尾長1.1-1.5センチメートル[2]体重1.3-2.7キログラム[a 1]。全身は光沢のある長い体毛と、柔らかく短い体毛で覆われる[2]。体毛の色彩は背面が黒や暗褐色、腹面が灰褐色[2][3]。椎骨の突起は水平方向に長い[3][5]

眼は小型[2][3]。耳介も小型で、長さ4.1-4.5センチメートル[2][3]。属名Pentalagusは「5つの歯のあるウサギ」の意で、模式標本となった個体の上顎臼歯が左右5本ずつしかなかった(ウサギ科は通常左右6本ずつ)ことに由来する[2][5]。しかし本種も通常は上顎臼歯が左右6本ずつある[2][5]。四肢は短く[3][5][6]、特に後肢は短い[2][4]。指趾には爪が発達する[2][3]染色体の数は46本[5]

出産直後の幼獣はほとんど体毛が無く、眼も閉じている[2]

分類

形態およびDNAによる分子系統学的解析、生態からウサギ科内でも原始的形態を残した種と考えられている[2][3][4][5]。奄美群島に本種のような原始的形態を残した遺存種が分布する理由として、中新世に南西諸島が台湾と陸伝いだった際に侵入したが海水面の変動により島嶼に隔離されたこと、またノウサギ属が侵入しなかったためと考えられている[2]

生態

山地や海岸の斜面にあるカシやスダジイからなる常緑広葉樹林や二次林に生息する[2][3][5]。オスは1-2ヘクタール、メスは1ヘクタールの行動圏内で生活する[3]夜行性で、昼間は斜面に掘ったアルファベットの「L」字状の直径15センチメートル、長さ100-400センチメートルのトンネルと直径20-150センチメートルの落ち葉を敷いた部屋からなる巣穴や、樹洞や岩の隙間を拡張した巣穴などで休む[2][3][5]。単独で生活するが、野生下および飼育下でも1つの巣穴を複数個体が同時に利用した例がある[2]。複数の鳴き声を発したり後肢で地面を叩くことから、個体間でコミュニケーションを行うと考えられている[3]

食性は植物食で、ススキボタンボウフウなど)、木の葉(アマクサギエゴノキなど)、樹皮(スギミカンなど)、果実、タケノコなどを食べる[2][3][5][6]。渓流の周辺にある石や砂の上、林道などの一定の場所に糞をする[2]

繁殖形態は胎生。直径10-20センチメートル、長さ100-200センチメートルに達する専用の巣穴を掘り、4-5月と10-12月に1回に1頭の幼獣を産む[2][3][6][a 1]。母親はときどき幼獣のいる巣穴に立ち寄り授乳し、授乳が終わると巣穴の入り口を塞ぐ[2][a 1]

人間との関係

種小名furnessi1896年に本種の模式標本となった個体を採集したW.H.ファーネスへの献名[2]

幕末薩摩藩士・名越左源太が著した奄美大島の地誌『南島雑話』には「大島兎」の名で登場し、「耳短くして倭の兎と異なり猫に似る」と説明されている[7]

1920年までは食用や薬用とされたり、毛皮が利用されることもあった[2][6]。農作物や植林された樹木を食害することもある[2]

開発による生息地の破壊、人為的に移入されたイヌ、ネコ、フイリマングースによる捕食などにより生息数は減少している[3][6][a 1]。日本では1921年に国の天然記念物1963年に特別天然記念物、2004年種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されている[2][3][4][5][a 1][a 2]1995年に自然保護団体により日本では初めて本種をはじめとした動物(他にアマミヤマシギオオトラツグミルリカケス)を原告とし、奄美大島でのゴルフ場建設の許可取り消しを求めた訴訟が鹿児島地方裁判所に提訴された[3]。原告を動物とすることは却下されたため、その後に動物の代弁として人名を挙げ訴状を訂正した[3]1995年における奄美大島での生息数は2,600-6,200頭、徳之島での生息数は120-300頭と推定されている[3]

絶滅危惧IB類(EN)環境省レッドリスト[a 1]
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  • 鹿児島県版レッドリスト 絶滅危惧I類

参考文献

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関連項目

外部リンク

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  1. 九州大学総合研究博物館ニュース March 2008 No.10,p.4 「アマミノクロウサギとアマミヤマシギの標本」丸山宗利
  2. 2.00 2.01 2.02 2.03 2.04 2.05 2.06 2.07 2.08 2.09 2.10 2.11 2.12 2.13 2.14 2.15 2.16 2.17 2.18 2.19 2.20 2.21 2.22 2.23 2.24 今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編 『動物大百科5 小型草食獣』、平凡社1986年、135、137、142-143頁。
  3. 3.00 3.01 3.02 3.03 3.04 3.05 3.06 3.07 3.08 3.09 3.10 3.11 3.12 3.13 3.14 3.15 3.16 3.17 3.18 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』、講談社2000年、47、72、176頁。
  4. 4.0 4.1 4.2 4.3 加藤陸奥雄、沼田眞、渡辺景隆、畑正憲監修 『日本の天然記念物』、講談社、1995年、624、626頁。
  5. 5.0 5.1 5.2 5.3 5.4 5.5 5.6 5.7 5.8 5.9 川道武男、山田文雄 「シリーズ 日本の哺乳類 種名検討編、日本産ウサギ目の分類学的検討」『哺乳類科学』Vol. 35、日本哺乳類学会1996年、196-197頁。
  6. 6.0 6.1 6.2 6.3 6.4 『絶滅危惧動物百科1 アイアイ―ウサギ(アラゲウサギ)』 財団法人自然環境研究センター監訳、朝倉書店2008年、94-95頁。
  7. 名越左源太、国分直一、恵良宏 『東洋文庫 南島雑話2』、平凡社1984年、42頁。


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