レッドデータブック (環境省)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

レッドデータブック (Red Data BookRDB) は、絶滅のおそれのある野生生物について記載したデータブックのことである。1966年IUCN(国際自然保護連合)が中心となって作成されたものに始まり、現在は各国や団体等によってもこれに準じるものが多数作成されている。日本で単に「レッドデータブック」と言うときは、環境省によるもの、あるいはIUCNによるものを指すことが多い。本項では環境省作成のものについて記す。

概要

環境省によるレッドデータブックは、同省が作成・改訂したレッドリスト(絶滅のおそれがある動植物のリスト)に基づき、より具体的な内容を記載したデータブックである。IUCNによるものと区別するため、JRDB とも呼ばれる。「レッドデータブック」は通称であり、正式な名称は1991年に出版されたものは『日本の絶滅のおそれのある野生生物』、1995年からの見直し作業の後に出版されたものは『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 -レッドデータブック-』という。

レッドデータブックを作成する目的は、絶滅の危機にある野生生物の現状を的確に把握することである。レッドデータブックに基づき、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づく希少野生動植物の指定や絶滅危惧種の保全・保護方策の検討、環境アセスメントへの活用、一般市民への普及・啓発などが期待されている[1]

作成の経緯

初版

環境庁(当時)の「レッドデータブック」は、1986年、自然保護局(当時)野生生物課が発足すると同時に作成が開始され、財団法人自然環境研究センターから、1991年5月に『日本の絶滅のおそれのある野生生物-脊椎動物編』が同年10月に同『無脊椎動物編』が発行された。しかしその後、IUCNのレッドリストのカテゴリー改定(1994年)があったことなどを受けて、早くもその内容が見直されることになった。

改訂版

旧版レッドデータブックの見直しに当たり、環境庁/環境省(自然環境局野生生物課)では、まず動植物の新たな分類群ごとの「レッドリスト」を作成し、このリストを踏まえて、改訂版の「レッドデータブック」を編集した。レッドリストの見直し作業は1995年から始められた。全分類群のレッドリストの完成後、レッドデータブックの改訂作業が順次始められ、2006年8月に最終巻の「昆虫類」が完成、出版された。

下記に、各分類群レッドデータブックとその出版年月を記載する。

  1. 哺乳類 - 2002年3月
  2. 鳥類 - 2002年8月
  3. 爬虫類両生類 - 2000年2月
  4. 汽水・淡水魚類 - 2003年5月
  5. 昆虫類 - 2006年8月
  6. 陸・淡水産貝類 - 2005年7月
  7. クモ形類甲殻類等 - 2006年1月
  8. 植物I(維管束植物) - 2000年7月
  9. 植物II(維管束植物以外:蘚苔類藻類地衣類菌類) - 2000年12月

改訂版のレッドデータブックは財団法人自然環境研究センターから、「改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物 -レッドデータブック-」として、分類群ごとに書籍の形で全9冊が刊行されており、一般の書店でも購入することができる。また、環境省生物多様性センター生物多様性情報システムに設置されている『絶滅危惧種情報』にてレッドデータブックに掲載されている情報を検索・閲覧することができる。

改定版の完成後の動き

改定版の完成後、環境省は2006年(平成18年)12月22日に「鳥類」、「爬虫類」、「両生類」及び「その他無脊椎動物」の新レッドリスト[2]及び新たなカテゴリー定義(カテゴリー区分は現状のまま)を、2007年(平成19年)8月3日に「哺乳類」、「汽水・淡水魚類」、「昆虫類」、「貝類」、「植物I(維管束植物)」及び「植物II(維管束植物以外)」の新レッドリスト[3]を公表した。 2012年に9分類群について新たなレッドリストを取りまとめた第4次レッドリストを公表した[4]

レッドデータブックカテゴリー

環境省レッドデータブックで採用されているカテゴリーと定義は1997年に発表されたカテゴリーである[5]

  • 絶滅(Extinct, EX) - 日本では既に絶滅したと考えられる種
  • 野生絶滅(Extinct in the Wild, EW) - 飼育・栽培下でのみ存続している種
  • 絶滅危惧(Threatened)
    • 絶滅危惧I類(CR+EN) - 絶滅の危機に瀕している種
      • 絶滅危惧IA類(Critically Endangered, CR) - ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
      • 絶滅危惧IB類(Endangered, EN) - IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
    • 絶滅危惧II類(Vulnerable, VU) - 絶滅の危険が増大している種
  • 準絶滅危惧(Near Threatened, NT) - 存続基盤が脆弱な種
  • 情報不足(Data Deficient, DD) - 評価するだけの情報が不足している種
  • [付属資料] 絶滅のおそれのある地域個体群 (Threatened Local Population, LP) - 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの

テンプレート:Main

日本国内におけるその他のレッドデータブック

日本国内では、環境省の他にも、水産庁都道府県等の地方公共団体、学術団体などによりレッドデータブックが発行されている。

水産庁1998年に「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」を発行している。これは環境省版では対象としていない海生生物含む水生生物を対象としたレッドデータブックである。

47都道府県の全てでレッドデータブックが作成されており、中には改訂版を作製した地方自治体もある。それぞれの都道府県で独自の項目を設定する例がある。例えば京都府では、生物だけではなく生態系や地質・鉱物なども評価対象にしている。また近畿地方の7府県(兵庫県、大阪府、京都府、滋賀県、奈良県、和歌山県、三重県)を対象とした「近畿地方における保護上重要な植物-レッドデータブック近畿-」が1995年に、その改訂版2001年に発行されている。

学術団体なども独自のレッドデータブックを作成している。日本自然保護協会及び世界自然保護基金日本委員会の合同で、1989年に維管束植物のレッドデータブックが発行されている。日本哺乳類学会1997年哺乳類のレッドデータブックを作成しており、クジラ目も対象としているなど、環境省版よりも範囲を広げて評価している。

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

参考文献

環境省版レッドデータブック

  • 環境庁自然環境局野生生物課編『日本の絶滅のおそれのある野生生物 脊椎動物編』 財団法人自然環境研究センター、1991年、ISBN 978-4-915959-03-5。
  • 環境庁自然環境局野生生物課編『日本の絶滅のおそれのある野生生物 無脊椎動物編』 財団法人自然環境研究センター、1991年、ISBN 978-4-915959-04-2。
  • 環境省自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物1 哺乳類』 財団法人自然環境研究センター、2002年、ISBN 4-915959-73-2。
  • 環境省自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物2 鳥類』 財団法人自然環境研究センター、2002年、ISBN 4-915959-74-0。
  • 環境庁自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物3 爬虫類・両生類』 財団法人自然環境研究センター、2000年、ISBN 4-915959-70-8。
  • 環境省自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物4 汽水・淡水魚類』 財団法人自然環境研究センター、2003年、ISBN 4-915959-77-5。
  • 環境省自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物5 昆虫類』 財団法人自然環境研究センター、2006年、ISBN 4-915959-83-X。
  • 環境省自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物6 陸・淡水産貝類』 財団法人自然環境研究センター、2005年、ISBN 4-915959-81-3。
  • 環境省自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物7 クモ形類・甲殻類等』 財団法人自然環境研究センター、2006年、ISBN 4-915959-82-1。
  • 環境庁自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、ISBN 4-915959-71-6。
  • 環境庁自然環境局野生生物課編『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物9 植物II(維管束植物以外)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、ISBN 4-915959-72-4。

その他

  • 日本哺乳類学会編『レッドデータ 日本の哺乳類』 文一総合出版、1997年、ISBN 4-8299-2117-X。
  • 我が国における保護上重要な植物種及び群落に関する研究委員会 種分化会編『我が国における保護上重要な植物種の現状』 財団法人日本自然保護協会・財団法人世界自然保護基金日本委員会 発行、1989年。
  • 生物多様性政策研究会編『生物多様性キーワード事典』 中央法規出版、2002年、162-163頁、ISBN 4-8058-4422-1。

外部リンク

  • 環境庁自然環境局野生生物課編 『改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物8 植物I(維管束植物)』 財団法人自然環境研究センター、2000年、21頁、ISBN 4-915959-71-6。
  • 環境省報道発表資料 『鳥類、爬虫類、両生類及びその他無脊椎動物のレッドリストの見直しについて』、2006年12月22日。
  • 環境省報道発表資料 『哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物I及び植物IIのレッドリストの見直しについて』、2007年8月3日。
  • 環境省報道発表資料 『第4次レッドリストの公表について(お知らせ)、2012年8月28日。
  • レッドデータブックカテゴリー(環境省、1997)