津軽弁
テンプレート:独自研究 津軽弁(つがるべん)は、青森県津軽地方で話される日本語の方言である。東北方言(北奥羽方言)に属する。
共通語とは発音が大きく異なり、独特の言い回しが多いため、難解な方言として全国的に有名である。他県の人にはほとんど理解できないため、全国放送のテレビ番組では津軽弁に対して共通語の字幕を付けることが多い。津軽地方の医療現場で、地元出身でない医師や看護師が患者の津軽弁を誤認するという問題も起こっている[1]。津軽弁を聞き慣れない人には外国語のように感じられることもあり、2010年には津軽弁とフランス語を聞き間違えるという内容の「トヨタ・パッソ」のCMが話題になった[2]。
津軽弁は青森県内のほかの方言(南部弁、下北弁)とも違いが大きく、青森県民同士でも互いの方言がわからず、相互の理解が困難となることもある。これを逆手に取り、青森県のローカルテレビ番組には南部弁話者に津軽弁の意味を当てさせるようなクイズ番組も存在する。津軽弁自体も、弘前市周辺部、日本海沿岸部(深浦・鯵ヶ沢周辺部)など地域によって微妙に異なる「津軽弁」が存在している。
よく知られた津軽弁の表現は、下にある「どさ」「ゆさ」である。長い文章を短く表現するという東北方言の特徴を端的に表しているが、道行く人にいきなり「どさ」と言っても言葉が足りないため通じないと思われる。「どごさ行ぐの」「湯さ行ぐどご」の省略形であり、「さ」は方向を表す助詞である。
津軽弁の方言詩人高木恭造の命日である10月23日は「津軽弁の日」である[3]。1988年に伊奈かっぺいらを中心とする「津軽弁の日やるべし会」が制定したもので、毎年津軽弁による弁論大会などが開催されている。
しばしば、この方言が青森県内全域で使われていると思い込み「青森弁」と誤用されることがあるが、前述の通り大まかには「津軽弁」と「南部弁」と「下北弁」に分類される。
目次
津軽弁のルーツ
津軽弁は大和言葉をベースに、当時北海道から北東北に掛けて居住していたアイヌ人のアイヌ語が少し入っている。そのため、津軽弁の単語の中には、現在ほとんど使われない古語が転訛したと見られるものがしばしば見受けられる。
- 大和言葉・古典漢語の転訛の例
- 「あげた・おどげ」→「上顎・下顎」の意→「顎門(あぎと)・頤(おとがい)」(大和言葉の転、「あぎと」の転訛した言葉は全国の方言に多く見られる)
- 「てぎ」→「面倒」の意→「大儀」(漢語の転)
- 「ほいど」→「強欲、けち」等の意→「陪堂(ほいと:現在の共通語ではあまり使われない仏教用語。物乞いのこと)」(漢語の転)
- アイヌ語に由来する単語
- 「ちゃぺ」→「ネコ」
- 「ばっけ」→「ふきのとう」
津軽弁の発音
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例)寿司→スス(尻高) 獅子→スス(頭高) |
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例)イカ→イガ みかん→みがん いちご→いぢご |
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例)元日(グヮンジツ) 生姜(ショウグヮア) |
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例)油(あぶら)→ あんぶら すじこ→すんずご |
代表的な津軽弁の表現
- 「あっつい」→「熱い」
- 「おたってまった」「こいでゃ」「こいじゃ」→「疲れる」「疲れた」
- 「おんろー」「ろーおー」→「すげえ~」
- 「かちゃくちゃね」→「いらいらする」
- 「かんぷげでる」→「腐ってる」
- 「け」→「食え・頂戴・おかゆ・かゆい・毛」など
- 「け、ねぇ」→「毛が無い」
- 「けーねぇ」→「あげない」
- 「けぃねぇ」→「消えない」
- 「けぇねぇ」→「食えない」
- 「けーね」→「簡単だよ」
- 「けね」→「頂戴」
- 「けやぐ」→「仲間・友達」
- 「こんつける」「えへる」→「いじける」
- 「ごんぼほる」→「だだをこねる」
- 「さしね」 → 「うるさい」
- 「しかへる」→「教える」
- 「したばって」→「だけど」
- 「じぇんこ」→「お金」
- 「じゃいご」→「田舎」
- 「しゃっこい」→「冷たい」
- 「じゃんぼ」→「髪」「髪の毛」(カットが絡む時限定?じゃんぼが抜けた、薄いとか言わない)
- 「すす(頭高)」→「天井」
- 「すんずご」→「筋子」
- 「たげ」→「とても」
- 「だらっこ」→「小銭」
- 「~(し)ちゅー」→「~(し)ている」
- 「どさ」「ゆさ」→A「どこにいくの?」 B「いまから風呂にいくところだよ」
- 「なずぎ」→「額」
- 「~(だ)ばって」→「~(だ)けれど」
- 「~(だ)はんで」→「~(だ)から」
- 「ふとず」→「同じ」
- 「ふじゃかんぶ」→「膝」
- 「へなか」、「へなが」→「背中」
- 「へば」→「それじゃぁ」「さようなら」
- 「ほんずなし」「ほんつけなし」→「勘違い」「学がない」
- 「ほんつけ」→「勘違い」「頼りない」
- 「ぼんのご」→「後頭部・首の後ろ」
- 「まいね」→「駄目・いやだ」
- 「まんま」→「ご飯」
- 「もつけ」→「アホっぽい・落ち着きがない人・お調子者」など
- 「わ」→「私」
- 「わいは」→「あらまぁ・おぉ!・えぇ!?」(驚いたときに喋る)
- 「わった」→「沢山」
- 「んだ」→「そうだ」
地域による津軽弁の表現の違いの例
津軽弁は、南部弁に比べて地域差が小さいが[4]、弘前を中心とした中南地域と、五所川原を中心とした西北地域とは語彙等に若干の差がある。
- 弘前「んだねは」 五所川原「んだきゃ」 → 同意、あいづちの表現
- 弘前「何しちゃんずよ」(「や」と「よ」が反転する) → 「何をしているのだ?」の意
- 北津軽郡や五所川原市でよく使われる感嘆表現 → 「あっつぁ」「しっつぁ」 意味:「あらまぁ」
- 北津軽郡でのみ → 「か」 意味:「ほら」
- 弘前「たげ」 五所川原「がっぱ」 → すごい、たくさんの意
- 弘前、黒石など「がも」 浪岡「はど」 → 男性器の意
- 注)他地区でも使われているので、地区を限定して表記されてあっても、一概に正しいとは言えない。
新しい津軽弁の例
津軽弁は若者の間で少しずつ変化している。逆に、昔からの津軽弁の意味をわからない人も増えている。ちなみに、新しい津軽弁と言っても津軽地方のすべての人に共通に利用し、理解できるというわけではないので注意が必要である。(新しいといっても、数十年前から使われている言葉も記載している)
- がへー(がふぇ)→「ださい」「かっこわるい」「古臭い」
- け→「ちょうだい」
- げる→「盗む」。「げっちゃー」は「盗んでる」、「げろ」は「盗め」、「げった」は「盗んだ」。「ぎる」からの変化。
- そい(こい)→「あれ」「それ」「これ」 例:「そいけ(そいけっさ)」→「それ(これ)ちょうだい」
- どすべ→問題が発生した時などの「どうしよう」、「どうしよう?」
- どっすー→「(これから)どうする?」「何しようか?」
- どっひゃー(どひゃばー)→「どうしてる?」「元気してる?」。「どしちゃば」の変化。
- どひゃ→「どうすれば」
- なへ(なへよ)→「なぜ?」「どうして?」
- なんした(なんしたば)→「どうした?」「一体何があった?」
- はいる→「(番組が)放送される」
- ひゃー→「では」「じゃあ」「そうしたら」「だったら」。「せば」「へば」の変化。
- ひゃーろー(ひゃーなー)→「じゃあな」「またな」「さようなら」。「へばな」の変化。
- ふぇい→津軽弁の「さしね」と同じ意味。当時使われていた「うっふぇー」が変化したものと思われる。
- まい→津軽弁の「まいね」の進化版。「まいよ」「まいじゃ」「まいはんで」と使うのが一般的。
- むっつい→食べ物が口の中の水分を吸ってしまう状態。簡単に言うと「カステラを食べた時の、なんともいえない感じ」…「カステラめばって、むっついっきゃ」(カステラおいしいけど、口の中の水分がなくなるよね)
- もぐ→「たばこ」
- わや→「とても」。青森周辺で主に使われており、例えば身長が大きい時に「わや大きい」(とても大きい)というふうに使われる。ただし弘前周辺ではほとんど「たげ」が使われる。
- 記入者による人的感情による表現(下記の【感覚に根ざす独特の表現】参照)
- 注1)他地区でも使われているので、地区を限定して表記されてあっても、一概に正しいとは言えない。
- 注2)津軽弁としての【単語の書き方】が記入者によって違うので、あくまで【記入者の感覚】である。
津軽弁での会話の一例(若者編)
友人との会話の一例。地域によっては多少の違いがある。
1. 「おぉ、おめこったどごでなーっちゃんず?」
- A 「おー、おめこったどごでなーっちゃんず?」
- (やあ、お前こんな所で何してるの?)
- B 「あー、Aだばん。わー今けやぐどまぢあわせしちゃんだばって、まんだだもこね。おめは?」
- (あー、Aだ。私は今友達と待ち合わせしてるんだけど、まだ誰も来ていないんだよね。Aは何してるの?)
- A 「わが? わっきゃ暇だはんでまぢあるいじゃ。てがもぐ一本け」
- (俺?俺は暇だったから街歩いていたんだよ。それより、タバコ一本ちょうだい)
- B 「んで持ってねんずよ。しゃーねー。ろ!火っきゃ貸さねでぃやー」
- (何で持っていないの?しょうがないなー。ほれ!ライターは貸さないよー)
- A 「なっちゃんず。だばわー吸えねーばん。たのむはんでけっさ」
- (何言ってるんだよ。じゃあ俺吸えないじゃん。お願いだからライター貸してよー)
- B 「わったった。ひゃーやるはんであいんど来るまでわの相手してけ」
- (わかったわかった。じゃあライター貸してあげる代わりに、友達来るまで私に付き合ってよ)
- A 「いいや。てが、きたくせぐね?あいんどだべ?」
- (わかった。てゆうか、友達来たんじゃない?あの子達でしょ?)
- B 「んだ。へばわーいぐはんで。ひゃーな」
- (あ、本当だ。じゃあ私行くね。バイバイ)
- A 「おー、ひゃーろー」
- (おー、それじゃあまた)
2. 五所川原編~待ち合わせ~
- A 「おめ、どさいってあったぁば?」
- (B、あなた、どこに行っていたの?)
- B 「わり、ちょ腹いでしてやー。トイレさいだった」
- (ごめん、ちょっとお腹が痛かった。それでトイレにいた)
- A 「おーんなんずな! たげまったいなー」
- (へーそうだったのか。かなり待ったよー)
- B 「ほんにわりぃ。ちょ、もういがねばまいぐね?」
- (本当ごめん。ちょっと、もう行かないとダメじゃない?)
- A 「お! んだべな。いぐべ!」
- (あ!そうだね。行こう!)
- B 「おー急ぐべー!」
- (うん。急ごう!)
- 注)あくまで【記入者の表現】なので、最近の津軽弁と記入者本人が津軽弁だと思って使っているだけの部分が混ざっていると思われる。
津軽弁に対する誤解
東京などで「津軽弁」または「東北弁」というと、「~っぺ」や「~だっぺ」という語尾を想像されるケースが多い。これはこれらの語尾が著しく田舎を連想させるためであるが、語尾に「~っぺ」や「~だっぺ」を付けるのは茨城弁をはじめとする宮城県から千葉県にかけての方言であり、津軽弁で用いられるのは「~だべ」である。また青森県出身で津軽弁話者の吉幾三が『俺ら東京さ行ぐだ』という歌を発表しているが、この歌の歌詞に登場する方言はステレオタイプ的かつ共通語に近付けたものであり、正確な津軽弁ではない。
感覚に根ざす独特の表現
津軽弁には、他の方言にも見られるように、共通語に表現しなおすことが困難な独特の表現が見られる。主に形容詞に見られ、代表的なものに「あずましい(主に居心地がよく安心でき、落ち着く様子)」「しない(発音は「しねぇ」に近い。馬肉やすじ肉等において、噛んでもなかなか噛み切れない様子)」「むっつい(ゆで卵の黄身や甘食等において、口の中の水分が足りずもっさりとして飲み込みづらい様子)」などがある。
津軽弁を使う著名人
(括弧内)は出身地。
- 伊奈かっぺい(弘前市)
- 内山千早(青森市)
- 田中義剛(八戸市) - 出身は南部圏だが、津軽弁使いを自認。
- 三遊亭神楽(青森市) - 地元で開催する落語の独演会では津軽弁の落語を披露することもある。
- 吉幾三(五所川原市)- 旧金木町出身。
- 新山千春(青森市)
- 黒石八郎(黒石市)
- 麻生しおり(青森市)
- 青山良平(つがる市) - 旧木造町出身。青森放送ディレクター兼パーソナリティー。
- 橋本康成(三沢市) - 同じく青森放送ディレクター兼パーソナリティー(元アナウンサー)。ただし県南出身のため、根っからの話者ではない。
- りんご娘(弘前市) - ローカルアイドル。青森をアピールするために津軽弁を常時使用する。また、全国放送でも津軽弁を貫き通す。
- 鈴木正幸
- 人間椅子 (バンド)(弘前市) - 中心メンバーである和嶋慎治、鈴木研一が弘前高校の同級生。踊る一寸法師など、楽曲の歌詞に津軽弁を多用。
- 五十嵐麻朝(青森市)- 俳優。自らのブログをいつも津軽弁の「へばなぁ~」で締め括っている。
- 舞の海秀平(鰺ヶ沢町)- 大相撲解説者・スポーツキャスター。相手が津軽弁の話者ならば、放送などで津軽弁での会話を披露する事もある。
このうち青山、橋本、麻生は個々のラジオ番組(いずれも青森放送)にて、時折ながら津軽弁を使っている。
津軽弁に関連した作品など
- ラグノオトーク笑・なまるが勝ち
- いいでば!英語塾
- スーパーギャング深夜同盟
- 今週のどんだんず
- 俺節
- 山おんな壁おんな
- ましろのおと
- 47都道府犬 - 声優バラエティー SAY!YOU!SAY!ME!内で放映された短編アニメ。郷土の名産をモチーフにした犬たちが登場する。青森県は、林檎がモチーフの青森犬として登場。「こっちさ来(こ)~」「人の話聞けて!!」などと話す。声優は、青森県出身の勝生真沙子。
脚注
関連項目
外部リンク
- 津軽弁対訳集
- 津軽弁の日オフィシャルサイト
- 津軽語
- 津軽弁コーナー
- 津軽弁辞典(弘前観光コンベンション協会)