ハイラックス
テンプレート:Otheruseslist テンプレート:生物分類表 ハイラックスは、哺乳綱イワダヌキ目(ハイラックス目、岩狸目)イワダヌキ科(ハイラックス科)の総称である[1]。イワダヌキ科はイワダヌキ目唯一の現生科である。別名イワダヌキ。
特徴・習性
比較的小型の動物で、日本人などにとっては一般に馴染みのない動物であり[2]、外見を言葉にすれば「うさぎ」や「タヌキ」のような姿をしている[2]。「耳を小さくしたウサギのよう」とも。だが、ゾウ目やジュゴン目と類縁関係にあり、足に蹄に似た扁爪(ひらづめ)がある。
食性は草食性である。他の哺乳類に比べ、体温調節の能力が劣るため、早朝や夕暮れは日光浴をし、暑い時は日陰で体を冷やす生活をしている。いわば爬虫類のような生活をしているのである。中東やアフリカのサバンナに点在する岩場・岩山等に隠れ棲み、数匹から30匹程度の群れを作り生活している。
(rock hyrax イワハイラックスは)足裏に柔らかくて弾力性のある肉球があり、さらにそこに多数の汗腺があり常に湿っている。この湿って粘着力のある肉球を吸盤のように用いて、垂直に近い岩壁でも登ることができ、そこにとどまり眠ることもできる、という特徴がある。岩場・岩山の垂直の亀裂で眠ることができるので、蛇などに襲われることを防ぐことができる。夜間、岩場の水平の隙間・亀裂で仲間が身を寄せ合って体を暖めあいつつ眠ることも多いが、警戒を怠らず、チーターなどの肉食性の敵が近付いてきたりするとすかさず逃げ、また亀裂の中まで入り込んでくるような小型の肉食獣に襲われても、すばやく垂直の穴や亀裂を駆け上がり身を守る[3]。
古い記述・言い伝え・近現代の研究
- 旧約聖書
ハイラックスは、地中海沿岸では古くから知られていたようである[2]。
旧約聖書の詩篇104章18節、箴言30章26節などでは、住処を岩の中に作る、知恵ある動物として、「テンプレート:Enlink コニー」という名で登場している[4]。
マルティン・ルターはこれをヘブライ語からドイツ語に翻訳する際は「ウサギ」と訳した[5][注 1]。
日本語では例えばおおよそ次のように訳されている。 テンプレート:Quotation
日本語では例えばおおよそ次のように訳されている。
また、レビ記11章5節には、「これは反芻するが、蹄が割れても分かれてもいないから」食べても、死体に触れてもいけない穢れた動物として、ウサギ、ラクダ等と共に出る。
日本語では例えばおおよそ次のように訳されている。
反芻動物であると誤解されたのは「常に口を動かしている為」か、「胃袋が反芻動物とよく似ているため」と考えられる。
- スペインの国名の語源説
「スペイン(イスパニア)」という国名の由来には諸説あるが、一説に、現地で初めてウサギを見たフェニキア人が、「saphan(=ハイラックス)の島」と呼んだことに由来するという[6]。
- 生物学
(生物の学術的な研究というのはすでに古代ギリシャ時代から例えばアリストテレスやテオプラストスなどによって行われていたわけであるが) 近・現代の生物研究におけるハイラックスに関する記述や位置付けの変遷ついても紹介する。
古くは「原始的な齧歯類(げっしるい)」として、モルモットなどのネズミの仲間の祖先だと考えられていた[2]。「ハイラックスの仲間は上顎の門歯が一生伸び続ける特徴から、かつてはネズミ目に分類されていた。テンプレート:要出典」とも。
学名の属名にProcaviaと付けられたが、Caviaはテンジクネズミであるので、Procaviaは「テンジクネズミの祖先」という意味である[2]。(その後、後述するように、この理解は間違っていたと判ったのだが、それでもこの学名はそのまま使いつづけられている[2]。)
1766年には テンプレート:Snamei という学名が付けられ、テンジクネズミと同じ テンプレート:Snamei 属に分類された。
その後、フランスの博物学者、解剖学者[2]のジョルジュ・キュビエは、歯と足の特徴を調べた結果、ハイラックスの仲間は「原始的な有蹄動物である」とした。足の裏側が、足底の全体を地面につける構造のゾウと同じ構造になっていることなどによって、ゾウに近い生き物だと立証したのである[2]。
ハイラックスの上顎の門歯は一生伸び続けるが、下顎の門歯はある時点で成長が止まってしまうという点で、ネズミ目やウサギ目とは異なる。また、上顎の臼歯はウマ目(奇蹄目)のサイに、下顎の臼歯はウシ目(偶蹄目)のカバに似た特徴を有している。また、全身の骨格はサイのものを小型にしたような特徴を持ちながら、前足の骨はゾウに類似している。胃の構造はウマに似ている。このように様々な動物に少しずつ似た特徴を持っているが、化石記録や分子生物学的な解析テンプレート:誰テンプレート:いつから、ゾウ等の原始的な有蹄類と類縁関係があることが明らかになり、近蹄類の一目としてイワダヌキ目(ハイラックス目)という独立した目に分類されるようになった。
分布域は、今から700万年~200万年前ごろ(中新世から鮮新世)は南ヨーロッパから中国の中部あたりまでの広い地域だったのだが、現在の分布域はアフリカ中部から南部および中東域と狭くなっている[2]という。
逸話
今泉忠明の『世界珍獣図鑑』によれば、ある日本の動物園で、(職員がハイラックスの習性・能力を知らず)12頭ほどのハイラックスを、巨大な土管状の畜舎に入れて展示したところ、吸盤状の足によってよじ登り、その日のうちに全て脱出した[7]という。
分類
イワダヌキ目(ハイラックス目)は近蹄類の1目である。現生1科、3属が知られている[8]。
- 近蹄類
- † 重脚目 テンプレート:Sname
- テティス獣類 テンプレート:Sname
- イワダヌキ目, Hyracoidea
- † プリオハイラックス科 テンプレート:Sname - 中新世から始新世頃[9]
- イワダヌキ科 テンプレート:Sname
画像
- Tree-hyrax.jpg
ミナミキノボリハイラックス
- Beecroft'sTreeHyrax.JPG
ニシキノボリハイラックス
- Ein klippschliefer.jpg
キボシイワハイラックス
- Cape Hyrax, Gustav Hayek, 1876.png
ケープハイラックス イラスト
注釈、出典
- 注
- ↑ 現代の語彙体系しか知らない初学者などの中には、つい"誤訳"だと感じてしまう人も一部にいるかも知れないが、ヨーロッパにはハイラックスは棲息せず、当時のヨーロッパ人のほとんどはハイラックスの姿を見たこともなく、そもそも「ハイラックス」という語彙も存在しなかったわけであるから、彼らに知られた範囲で似ている「ウサギ」と訳すことは当然のことである。翻訳先の語彙体系にぴったりのものが無い場合、読み手・聞き手が知っている範囲で類似のものに置き換えることでとりあえずイメージを伝えるのは、プロの翻訳者や通訳者がいつでも行っている、一般的で妥当な手法でもある。
- 出典
- ↑ テンプレート:Yahoo!百科事典
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 山内節夫『動植物との出会い: 南アフリカ編』文芸社, 2005
- ↑ NHK『ダーウィンが来た』「ハイラックス」2013年1月3日9:20~ 放送。
- ↑ BibleGateway.com Leviticus 11:3-8 (21st Century King James Version)
- ↑ なお、フェニキア語に近縁のヘブライ語では、ハイラックスは saphan(隠れる者) である
- ↑ 前述のように、フェニキア語に近縁のヘブライ語では、ハイラックスは saphanと呼ばれていた。(スペイン語版 es:Hispania#Origen del nombre による。)
- ↑ 今泉忠明 『世界珍獣図鑑』 111頁
- ↑ 厚生労働省 『動物の輸入届出制度について』
- ↑ 渡邊 誠一郎 『哺乳類の系統分類』 ※ページサイズが大きいので注意(337K)