VVVFインバータ制御
VVVFインバータ制御(ブイブイブイエフインバータせいぎょ)とは、交流電動機を、その特性に合わせて任意の速度、回転数で動作させるために、(静止)インバータにより任意の周波数と電圧を発生させる方式を一般に「インバータ方式」というが、鉄道関係ではそれを特に「VVVFインバータ方式」、あるいは「VVVF方式=可変電圧可変周波数制御方式」と呼んでいる。VVVFは可変電圧可変周波数を直訳した和製英語である。
解説
交流の周波数(同期速度)を追って回る交流モータを使う場合、従前は任意周波数の電源がなかなか得られず、商用周波数(50Hz、60Hz)固定の電源で起動させるため、任意速度での運転ができず商用周波数での同期速度付近でのみ運転可能で、起動トルクが小さかったり、効率を落としたり、定常運転時は大出力交流モータを軽負荷で使っていた。そうした経過で、その動作特性も、取り扱い法も商用周波数固定でのものが広く知られているだけで、回転数、周波数特性はほとんど記述がなく知られていなかった。同期速度とは回転磁界の速度で、電機子構造が2・P極の場合、周波数f/Pとなる。小型機に一般的な4極構造ではf/(4/2)が同期速度。60Hzであれば2極で60rps(毎秒回転数)、4極で30rps、6極で20rpsが同期速度である。60を掛ける記述は秒速-分速単位換算のrpm(毎分回転数)表示である。
トルクの電圧・周波数特性
トルクの周波数特性としては、(電圧V/周波数f)2 に比例し、さらに誘導電動機では、停動トルクより微少な場合はスベリ周波数fs に比例する(一般的な「スベリ率S」ではなく「スベリ周波数fs 」であることに注意)。同期電動機では電機子磁界と回転子磁界の角度δに関して sin(δ/2)に比例する。
式表現すれば
τ=K1・Φ・I ・・・・・・・・・・・・K1,K2:比例定数、Φ:鎖交総磁束、I:電機子電流
≒K2・(V/f)^2・fs ・・・・・・V:電圧、f:電源周波数、fs:スベリ周波数(ただし停動トルクよりかなり小さい領域)
同期電動機では τ≒K・(V/f)^2・sin(δ/2) ・・・・・・
すなわち V/f を一定にして(=電圧と周波数を比例させて)ゼロから徐々に増やして起動すればよく、周波数に応じた任意の速度での運転ができる。
任意周波数電源をパワー半導体で構成
近年の電力用半導体の進歩により、任意周波数、任意電圧の交流電力を生成するインバータ(直流-交流変換器)が得られるようになり、交流モータの特性に合わせて、電機子誘起起電力+インピーダンス降下の電圧を供給して駆動することで任意の速度で運転できるようになった。 電機子誘起起電力は磁界が一定であれば回転数:すなわち周波数に比例するから、供給電圧/周波数をほぼ一定にして速度制御することがVVVFインバータ制御の基本である。
初期のインバータ駆動では、半導体の容量が小さく、方形波駆動~数パルスで正弦波を近似していたが、さらに速度ゼロから徐々に起動させる低速大電力ではPWM方式などで正弦波に近付けて高調波の損失・悪影響を小さくして起動した。ところがGTOサイリスタなど大電力半導体のスイッチング速度が遅いため、速度を上げると1サイクル1パルスにも達して回転数と搬送波周波数が干渉するので、それを避けるため高速域では搬送波周波数を回転数の整数倍にした。これを「パルスモード」「同期モード」と呼び、低速部の整数倍関係のない動作を「非同期モード」と呼んでいる。
鉄道車両では
鉄道車両ではこの電圧・周波数比例領域を特に「VVVF領域(=可変電圧可変周波数領域)」と呼んでいる。インバータの最大電圧以降の高速領域は電圧一定で周波数を上げるので「CVVF領域(=定電圧可変周波数領域)」と呼ぶが、CVVF領域のうち、電流一定で加速を続ける領域は、誘導電動機であればスベリ周波数を増やして加速するが供給電力としては一定(=電圧一定×電流一定)なので「定電力領域」と呼び、トルクは回転速度に反比例する。停動トルク(脱出トルク)に近づくとスベリは増やせなくなり周波数のみを増やす「特性領域」となり、トルクは回転速度の2乗に反比例する。
直流電動機制御との比較
直流電動機制御との比較でいえば、「電機子誘起起電力(=逆起電力)+内部抵抗降下」を直流電動機に加えて起動させるのが抵抗制御や電機子チョッパ制御の基本だから、VVVFインバータ制御はそれに周波数と位相が加わるだけで基本は同様である。 「定電力領域」と「特性領域」についても直流電動機の「弱界磁領域=定電力領域」「特性領域」と変わらない。またVVVF領域も定トルクに制御すれば抵抗制御直流電動機での「定トルク領域」と同様である。
インバータの制御対象
インバータ制御の対象となる交流モータは、日本では誘導電動機が圧倒的だが、TGVなど欧州の鉄道では同期電動機が用いられている。高効率を追求するエアコン用として日本では近年ブラシレス直流モータを使うようになった。また家電用など小型機には90度位相差の2相交流駆動があるが、多くは3相交流である。誘導電動機のすべり率Sは回転子での電力損割合なので、低速回転ほど損失率が増え効率が下がるので、低速回転になる直接駆動モータ(DDM)ではスベリ回転のない同期電動機が選ばれることが多い。