連続の方程式
連続の方程式(れんぞくのほうていしき、テンプレート:Lang-en-short、連続方程式、連続の式、連続式などとも言う)は物理学で一般的に適用できる方程式で、「原因もなく物質が突然現れたり消えたりすることはない」という自然な考え方を表す。保存則と密接に関わっている。
狭義には流体力学における質量保存則
- <math>
{\partial \rho \over {\partial t}} + \nabla \cdot (\rho \boldsymbol{v}) = 0 </math>
あるいは、この式を非圧縮性流体に適用した
- <math>
\nabla \cdot \boldsymbol{v} = 0 </math> を指す。
広義には、スカラー物理量 q についての保存則
- <math>
{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = 0
</math>
- (ρ:q の密度、j:q の流束)
を指し、更に一般化して、q の輸送方程式(一般の保存則)
- <math>
{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = \sigma
</math>
- (σ:q の湧き出し密度)
を指すこともある。
目次
広義の連続の方程式の導出
広義の連続の式をフラックス形式あるいは一般の保存則という[出典 1]。q をあるスカラー物理量、Ωを固定された有界積分領域、∂ΩをΩの境界である閉曲面とする。
q についての連続の式は、
- 領域 Ω における q の単位時間あたりの増加量 <math>{\mathrm{d}M\over\mathrm{d}t}</math> と 境界 ∂Ω における q の単位時間あたりの流出量(流量) J との和は、 領域Ωにおける q の単位時間あたりの湧き出し量 S に等しい。
- <math>{\mathrm{d}M\over\mathrm{d}t} + J = S</math>
と表現できる。
ここで q は連続的に分布する量であり、上述の量はすべて何らかの「密度量」で表現できなければいけない。そこで、q の密度 ρ、q の流束 j 、q の湧き出し密度 σ を導入すると、
- <math>
\begin{align}
M &= \int_\Omega \rho \,\mathrm{d}V\\ J &= \oint_{\partial\Omega}\boldsymbol{j}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S}\\ S &= \int_\Omega \sigma \mathrm{d}V
\end{align} </math> と表せる。ここで、dS は、境界 ∂Ω 上の微小素片における外向きの面積ベクトルであり、第2式は流束と面積ベクトルとの積の総和が境界を通って流れ出す q の流量であることを表している。
これにより連続の式は
- <math>
{\mathrm{d}\over\mathrm{d}t}\int_\Omega \rho \,\mathrm{d}V + \oint_{\partial\Omega}\boldsymbol{j}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{S} = \int_\Omega \sigma \mathrm{d}V
</math> となる。
ガウスの定理を使って第2項を体積積分で書き換え、第1項の時間微分と体積積分を交換すると
- <math>
\int_\Omega \left\{ {\partial\rho\over\partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} - \sigma \right\}\mathrm{d}V = 0
</math> となるので、微分形
- <math>{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = \sigma </math>
が得られる。
特に、湧き出しがないときの連続の式
- <math>{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = 0 </math>
流体における連続の式
質量保存則
速度が v で表される流れを考える。ρを質量密度、j を質量の流束とする。流れ、すなわち、移流あるいは対流は速度 v での物質の移動であるので、流束は
- <math>
\boldsymbol{j}=\rho\boldsymbol{v} </math> となる[出典 2]。
質量保存則から連続の式は
- <math>{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\left(\rho\boldsymbol{v}\right) = 0 </math>
となる。
輸送定理による導出
速度が v で表される流れにおける連続の方程式は、質量保存則とレイノルズの輸送定理を用いても導ける[出典 1]。
- <math>
0= {\mathrm{d}\over\mathrm{d}t} \int_{\Omega(t)} \rho\, dV = \int_{\Omega(t)} \left( {D\rho \over Dt} + \rho\, \nabla\cdot\boldsymbol{v} \right) dV </math> ここで、<math>{D \over Dt}</math> は実質微分であり、Ω(t ) は流れと共に移動する任意の積分領域とする。1番目の等式は質量保存則を、2番目の等式はレイノルズの輸送定理を表している。
これより、
- <math>{D\rho \over Dt} + \rho\, \nabla\cdot\boldsymbol{v} = 0</math>
が成立する。
この式は、実質微分の定義
- <math>
{D \over Dt}\equiv{\partial \over \partial t}+\boldsymbol{v}\cdot\nabla </math> と公式
- <math>
\nabla\cdot\left(\rho\boldsymbol{v}\right) =\rho\, \nabla\cdot\boldsymbol{v} + \boldsymbol{v}\cdot\nabla \rho </math> を使って、
- <math>
{\partial \rho \over {\partial t}} + \nabla \cdot (\rho \boldsymbol{v}) = 0 </math> と等価であることがわかる。
非圧縮性流体についての連続の方程式
連続の方程式
- <math>{D\rho \over Dt} + \rho\, \nabla\cdot\boldsymbol{v} = 0</math>
に対して、非圧縮性流体の性質(密度が一定であること)を付加すると、非圧縮性流体における連続の式が導き出される。密度が一定というのは、空間的に一様という意味ではなく、変形していく領域内で一定という意味である[出典 2]。つまり、<math>\frac{D \rho}{D t} = 0</math> となるので、ρ≠ 0 であることから、
- <math>
\nabla\cdot\boldsymbol{v}
= 0
</math> を得る。この式を非圧縮性条件ともいう。
この条件を満たす流れにおいて、流れていく流体要素の体積は不変である。
電磁気学における連続の方程式
電荷保存則
電磁気学における連続の式とは電荷の保存則の微分形である[出典 3]。ρ を電荷密度、j を電流密度とすれば、連続の式は
- <math>
{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = 0
</math> となる。
変位電流
マクスウェルの方程式において、電荷の保存則を満たすためにオリジナルのアンペールの式
- <math>
\nabla \times \boldsymbol{H} = \boldsymbol{j} </math> に変位電流を導入する必要があった。修正されたアンペールの式
- <math>
\nabla \times \boldsymbol{H} = {\partial \boldsymbol{D} \over \partial t} + \boldsymbol{j} </math> において、両辺に発散 ∇· を作用させると、左辺はゼロとなるので、
- <math>
\nabla \cdot {\partial \boldsymbol{D} \over \partial t} + \nabla \cdot \boldsymbol{j} = 0 </math> となり、ガウスの式
- <math>
\nabla \cdot \boldsymbol{D} = \rho </math> を代入することで連続の式が得られる。
四元電流
電荷の保存則を表す連続の式は四元電流を使うことで、ローレンツ共変でコンパクトな形にすることができる。四元電流 Jμ (μ= 0, 1, 2, 3) を
- <math>
J^\mu = \left(c \rho, \boldsymbol{j} \right)
</math> と表す。ここで c は光速である。微分演算子
- <math>
\partial_\mu = \left(\frac{1}{c} {\partial \over \partial t} , \nabla \right)
</math> を定義すると、連続の式は
- <math>
\partial_\mu J^\mu = 0
</math> と表現できる。ただし、添字におけるアインシュタインの規約を採用した。
量子力学
Ψ(r , t ) を規格化された波動関数とする。確率密度 ρ、確率流束 j を
- <math>
\begin{align} \rho &= \Psi^{*} \Psi\\ \boldsymbol{j} &= \frac{\hbar}{2m\mathrm{i}} \left [
\Psi^{*} \nabla \Psi - \Psi \nabla \Psi^{*}
\right ] \end{align} </math> と定義すると、シュレディンガー方程式
- <math>
\mathrm{i}\hbar \frac{\partial \Psi}{\partial t} = -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \Psi + U\Psi </math> を用いて、確率に対する連続の式
- <math>
{\partial\rho \over \partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{j} = 0
</math> が得られる。
シュレディンガー方程式とその複素共役の式
- <math>
\begin{align}
\mathrm{i}\hbar \frac{\partial \Psi }{\partial t} &= -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \Psi + U\Psi,\\
-\mathrm{i}\hbar \frac{\partial \Psi^{*}}{\partial t} &= -\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \Psi^{*} + U\Psi^{*} \end{align} </math> それぞれに Ψ* , Ψ をそれぞれ掛けて2式の差を取ると
- <math>
\mathrm{i}\hbar \Psi^{*}\frac{\partial \Psi }{\partial t}
+\mathrm{i}\hbar \Psi \frac{\partial \Psi^{*}}{\partial t}
=
-\frac{\hbar^2}{2m}\Psi^{*}\nabla^2 \Psi +\frac{\hbar^2}{2m}\Psi \nabla^2 \Psi^{*} </math> 更に
- <math>
\mathrm{i}\hbar \frac{\partial \left(\Psi^{*}\Psi \right)}{\partial t} =
-\frac{\hbar^2}{2m}
\nabla \cdot \left( \Psi^{*}\nabla \Psi - \Psi \nabla \Psi^{*} \right)
</math> となり、連続の式
- <math>
{\partial\rho \over \partial t} + \nabla \cdot \boldsymbol{j} = 0
</math> ただし、
- <math>
\begin{align}
\rho &= \Psi^{*} \Psi\\ \boldsymbol{j} &= \frac{\hbar}{2m\mathrm{i}} \left [ \Psi^{*} \nabla \Psi - \Psi \nabla \Psi^{*} \right ]
\end{align} </math> が得られる。
拡散方程式
ブラウン運動などのミクロスケール由来の現象による物質の質量輸送現象を考える[出典 5]。このとき、経験則であるフィックの法則(フィックの第一法則)により流束は
- <math>
\boldsymbol{j}= -\kappa \nabla \rho </math> と密度の勾配で与えられる。κ は <math>[\mathrm{L}^2\mathrm{T}^{-1}]</math> の次元をもつ量で拡散係数と呼ばれる。拡散係数が定数の時、連続の式から拡散方程式
- <math>
{\partial \rho \over \partial t} = \kappa \nabla^2 \rho </math> が得られる。