豹頭の仮面

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テンプレート:Portal豹頭の仮面』(ひょうとうのかめん)は、栗本薫ヒロイック・ファンタジーシリーズ『グイン・サーガ』の記念すべき第1巻。

概要

初出は『 SFマガジン』1979年5月号である。本号に掲載された第一話「死霊の森」を皮切りとして、同年8月号まで4号連続で全4話が掲載された。解説本『グイン・サーガ・ハンドブック』所収の著者インタビューによれば、同年1月25日にグイン・サーガの創作ノートを作成し、1月29日に『豹頭の仮面』着稿、断続的に執筆され、3月21日に脱稿したという。以後、一部の外伝を除き、作品は文庫書下ろしとして発表されていくことになるため、雑誌発表された正伝は『豹頭の仮面』のみ、ということになる。

連載終了後、同年9月30日にハヤカワ文庫JAより〈JA117〉として刊行された(ISBN 978-4-15-030117-0)。当時の定価は320円であり、2007年現在の定価540円(消費税を除く)と比較すると、約30年前当時の物価レベルの一端を知ることができる。

1983年1月31日には改訂版が発行された。これは作中の登場人物のひとりである、全身を業病に犯されたヴァーノン伯爵の病を「癩病」と記していたことが原因で、全国ハンセン氏病患者協議会から抗議を受けたことによる。協議会とは、作中の病の描写は実際の病(ハンセン病)とはまったく異なることなどを記した文を巻末に註記することで和解したが、その後、自主的に表現を全面的に改め、改訂版の発行に至ったものである。

登場人物

グイン
正体不明の豹頭の超戦士。モンゴール大公国の辺境地帯にあるルードの森に、記憶を失った状態で突如として現れた。
レムス
パロ聖王国王太子。リンダの双児の弟。モンゴール軍の奇襲を受けたパロ王宮から、謎の古代機械によって、リンダとともにルードの森へと転送されてきた。
リンダ
パロ聖王国王女。レムスの双児の姉。モンゴール軍の奇襲を受けたパロ王宮から、謎の古代機械によって、レムスとともにルードの森へと転送されてきた。
イシュトヴァーン
モンゴールの傭兵。ヴァラキア出身。ルードの森のスタフォロス城で城主ヴァーノン伯爵の勘気を被り、投獄されていた。
スニ
ノスフェラスの矮人族セムの娘。スタフォロス城に捕えられ、投獄されていた。
オロ
モンゴール、スタフォロス城所属の黒騎士。トーラス出身。
ヴァーノン
モンゴールの伯爵。スタフォロス城主。全身を業病である黒死病に侵されており、《黒伯爵》と呼ばれる。

特徴

100巻を超えてなお続く長大な物語の第1巻であるから、その物語における重要度の大きさはいうまでもない。ことに、いずれものちに、物語の主たる舞台である中原三大国の王となる人物四人、すなわちグイン、イシュトヴァーン、レムス、リンダが、すでに本書において一堂に会していることは注目に値する。また、パロの古代機械、ノスフェラスという、物語世界の根幹に関わる設定がすでに登場しており、いわば、この長大な物語のエッセンスを凝縮してみせたような一冊となっている。

物語の重要な要素の中で、本書ではまだ登場していないものとしては魔道がある。これが最初に華々しく物語に登場するのは、本書の執筆から約半年後に執筆されたという、外伝第1巻『七人の魔道師』においてである。この作品は、物語世界における魔道の詳細を明らかにした作品であると同時に、本書の遙かな未来(正伝第115巻が発表された時点でも、いまだ物語が到達していないほどの未来である)を舞台とした作品であり、グインとイシュトヴァーンとがそれぞれ一国の王となっていることなどが明記されている。すなわち、物語の開幕当初に相次いで執筆された本書と『七人の魔道師』の二冊によって、読者はそれから延々と描かれていくことになる長大な物語の、世界観と時間軸という枠組を、ごく初期段階で明確に認識することができたのである。

本書のスタイル上の特徴としては、他の巻とはやや異なる文体で書かれていることがあげられる。ことに「それは――《異形》であった。」という、実に印象的なフレーズで書き出されるプロローグにおいて、それは顕著である。事実、『SFマガジン 1982年12月増刊号』所収のエッセイの中で、作者自身もこの部分については意識して文体を変えたことを認めている。また本書の中でも第1話「死霊の森」のみ、レムスとリンダの出身国パロのことをパロスと表記していることも目立つ特徴である。これについて作者は、前述の著者インタビューで「当初はパロとパロスのどちらを使うか決めておらず、両方使っているうちにパロに落ち着いた」と答えている。が、物語全般を見ても、この「死霊の森」と『七人の魔道師』を除けば、パロス表記は、パロが魔道によって支配され、闇王国と呼ばれていた時代を指すもの以外には使用されていない。したがって、意識的なものであるにせよ、無意識的なものであるにせよ、「死霊の森」におけるパロス表記の使用は、物語において極めて特異なものであり、本書の文体が醸し出す雰囲気を独特のものとする一因となっていることは間違いない。

関連項目

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