糖衣構文
糖衣構文(とういこうぶん)は、プログラミング言語において、読み書きのしやすさのために導入される構文であり、既に定義されている他の構文の(人間にとってより理解しやすい)書換えとして定義されるもののことである。構文糖(こうぶんとう)あるいは構文糖衣ともいう。
目次
解説
定義上、糖衣構文はプログラムの意味としては同じものを、よりわかりやすい構文で書けるものを指す。ジャーゴンファイルの「syntactic sugar」の項では、アラン・パリスの「構文糖はセミコロンのガンをひきおこす」[1]という言を引用している。これは同ファイルの「syntactic salt」の項にある記述「それがハッカーに高血圧をひきおこす」と対になっている[2][3][4]。
糖衣構文の例
C言語
配列へのアクセス
C言語では、配列は連続するメモリ領域に要素を並べたものとして定義され、配列の要素へのアクセスは配列の先頭要素のメモリアドレスに要素のインデックスをオフセットとして加えたアドレスの値を参照することで行われる。しかしメモリアドレスを指定するポインタを直接操作することは誤りの原因となることが多い。そこで本来ならば *(a + i)
と書くところを、a[i]
とも書けるようになっている。この糖衣構文はポインタ演算がより面倒になる多次元配列のアクセスを行うときに特に役に立つ。またこの糖衣構文は、括弧の手前に書かれるものが配列の先頭アドレスで括弧の中がインデックスであるというように、コードの意味をより明確で分かりやすくする。これをi[a]
と記述しても構文上エラーにはならず、同じアドレスを差すため動作上も問題がない。しかし、他者(人間)がコードを読む際には誤解を招くだろう。
ポインタを介したメンバ選択演算子
C言語では、構造体へのポインタと矢印演算子によりメンバを参照できる。
p->member
ここで、p
は構造体へのポインタ、member
は構造体の要素名である。
ポインタをデリファレンスする *
演算子と、構造体の値に対しメンバを選択する.
演算子を組み合わせて、次のように等価な式を書くことができる。
(*p).member
C++では演算子をオーバーロードできるため、これらが等価ではないケースもある。
Erlang
Erlang でのレコード型データは、実際にはタプル型データに対する糖衣構文であるが、要素を取り出したり、パターンマッチするのに糖衣構文が使われる。
%% レコードの定義(コンパイラー・マクロ)
-record(book, {title, author, lang, isbn}).
%% タプル {book, "Learn You Some Erlang for Greate Good!", "Fred Herbert", en, "978-1-59327-435-1"} になる。
B = #book{title="Learn You Some Erlang for Great Good!", author="Fred Herbert", lang=en, isbn="978-1-59327-435-1"}.
%% タプルの要素取り出し element(2, B). の糖衣構文
B#book.author.
%% タプルの要素置き換え setelement(2, B, "F. Herbert"). の糖衣構文
B#book{author="F. Herbert"}.
%% レコードのパターンマッチの部分はタプルのパターンマッチ printCover({Title, Author, _, _}) の糖衣構文
printCover(#book{title=Title, author=Author})
-> io:format("~p by ~s~n", [Title, Author]).
Haskell
Haskell では、中置記法a+b
は、関数を適用する文(+) a b
に対する糖衣構文である。
Java
Javaの配列の宣言と初期化の記法
String[] strs = new String[3];
strs[0] = "a";
strs[1] = "b";
strs[2] = "c";
は
String[] strs = { "a", "b", "c" };
と書ける[5]。String
以外のオブジェクトでも可能である。
後者は「あらかじめ決まったいくつかの文字列から文字列の配列を作りたい」という記述者の思考を、より良く反映している。
Perl
Perlの条件文の記法
if ($boolean) {
print "Syntax sugar\n";
}
は
print "Syntax sugar\n" if $boolean;
と書ける。
Perlの開発者ラリー・ウォールによればこれは糖衣構文であるが、プログラマの中にはこれを読みにくいと感じる者も多い。それは、「読み書きのしやすさ」が主観に基づくためである。