猿まわし
猿まわし、猿回し(さるまわし)とは、猿使いの口上や太鼓の音に合わせて猿が踊りや寸劇などを見せる大道芸の一種。猿飼、猿曳、猿舞、野猿まわしなどとも呼ばれている。
概要
テンプレート:See also 猿を使った芸は奈良時代に中国から伝わったとされている。昔から馬の守護神と考えられてきた猿を使った芸は、武家での厩舎の悪魔払いや厄病除けの祈祷の際に重宝され、初春の祝福芸を司るものとして、御所や高家への出入りも許されていた。それが室町時代以降から徐々に宗教性を失い、猿の芸だけが独立して、季節に関係なく大道芸として普及していった。
インドでは賤民が馬と共に猿を連れて芸を見せるという風習が有った[1]。
歴史
江戸時代には、全国各地の城下町や在方に存在し、「猿曳(引)」「猿飼」「猿屋」などの呼称で呼ばれる猿まわし師の集団が存在し、地方や都市への巡業も行った。近世期の猿引の一部は賤視身分で、風俗統制や身分差別が敷かれることもあった。当時、猿まわし師は猿飼(さるかい)と呼ばれ、旅籠に泊まることが許されず、地方巡業の際はその土地の長吏や猿飼の家に泊まらなければならなかった[2]。新春の厩の禊ぎのために宮中に赴く者は大和もしくは京都の者、幕府へは尾張、三河、遠江の者と決まっていた[3]。
猿まわしの本来の職掌は、牛馬舎とくに厩(うまや)の祈祷にあった。猿は馬や牛の病気を祓い、健康を守る力をもつとする信仰・思想があり、そのために猿まわしは猿を連れあるき、牛馬舎の前で舞わせたのである。大道や広場、各家の軒先で猿に芸をさせ、見物料を取ることは、そこから派生した芸能であった。[4]
明治以降は、多くの猿まわし師が転業を余儀なくされ、江戸・紀州・周防の3系統が残されて活動した。大正時代に東京で廻しているのは主に山口県熊毛郡の者だった[3]。昭和初期になると、猿まわしを営むのは、ほぼ山口県光市浅江高州地域のみとなり、この地域の芸人集団が全国に猿まわしの巡業を行なうようになった。
猿まわし師には「親方」と「子方」があり、子方は猿まわし芸を演じるのみで、調教は親方が行なっていた。
高州の猿まわしは、明治時代後半から大正時代にかけてもっとも盛んだったが、昭和に入ると徐々に衰え始める。職業としての厳しさ、「大道芸である猿まわしが道路交通法に違反している」ことによる警察の厳しい取締り、テキ屋の圧迫などから、昭和30年代(1955年 - 1964年)に猿まわしはいったん絶滅した[5]。
しかし、1970年に小沢昭一が消えゆく日本の放浪芸の調査中に光市の猿まわしと出合ったことをきっかけに、1978年(昭和53年)に周防猿まわしの会が猿まわしを復活させ、現在は再び人気芸能となっている。
猿回しが登場する作品
- 浄瑠璃『近頃河原の達引』- 心中を扱った浄瑠璃作品で、人形浄瑠璃や歌舞伎の人気演目のひとつ。主人公の遊女の兄として猿回しの与次郎が登場し、盲目の母を助ける孝行者として描かれる。この話は実話を元に創作されたもので、ある心中事件があった元文3年に、京都の東堀川に住んでいた丹後屋佐吉という猿回しが盲目の母親に孝行を尽くしたことで表彰され、それらを題材に作られた。与次郎というのは京都の非人頭の通称で、享保年間に名高かった「叩きの与次郎(門口で扇を叩きながら祝言や歌を披露して生活する人たちのことで、京都悲田院の与次郎が始めたことからそう呼ばれた)」から名を借りて使われた。[6]
- 落語『堀川(猿回し、堀川猿回しとも)』- 上記の『近頃河原達引』をパロディにした落語。
文献
関連項目
- 村崎義正
- 村崎太郎
- 村崎五郎
- 菊千代
- ゆりありく - 漫才をする人と猿まわしのコンビ
- ウォークマン - 周防猿まわしの会所属の猿、チョロ松がCMに登場
- 周防猿まわしの会
- 靫猿 - 猿まわしが出てくる狂言の演目
- 日光猿軍団
- 旅芸人
- 村崎修二
脚注
- ↑ 〜「申」を食べる 〜 脳までも食べなさる千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌ダイヤモンド・オンライン 猿曵はもともと厩の祈祷を業とした民間の陰陽師だったのである。日本に馬が渡来したときに、馬医の呪術として、猿を使う文化も伝わったのだ。その源流はインドにあり、ガンダーヴァの賤民は馬と共に猿を連れ歩き、芸を見せ歩いていたという。
- ↑ http://www.asahi-net.or.jp/~mg5s-hsgw/tkburaku/history/sarukai.html
- ↑ 3.0 3.1 『娯楽業者の群 : 社会研究』権田保之助著 実業之日本社 大正12
- ↑ 筒井[2013:2]
- ↑ これは村崎義正らの著書にある記述だが、1975年放送のテレビドラマ「猿の軍団」14話「猿の国もお正月」には、輪くぐりをしたり、自転車に乗る、日本猿らしき猿まわしの猿が「日常的な風景」として登場している。
- ↑ 『文楽浄瑠璃物語』竹本住太夫著 (正文館書店, 1943)
外部リンク
- 17世紀の絵巻に描かれた猿回しスミソニアン博物館
- 1910年代の猿回しの様子 江南信國撮影。