船舶油濁損害賠償保障法

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船舶油濁損害賠償保障法(せんぱくゆだくそんがいばいしょうほしょうほう)とは、船舶に積載されていた油による油濁損害に関する船舶所有者等の責任や被害者の損害賠償請求権の保障について規定した日本の法律である。

もともと、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(船主責任制限法)に対する特則としての意味を持つ法律であるが、2005年3月1日から施行された改正法の成立経緯から、保険未加入の外国船舶の入港を阻止するための法律として注目されるようになった。

沿革

1967年、リベリア船籍タンカーであるトリー・キャニオン号がドーバー海峡において座礁し、大型の油濁汚染事故を引き起こした。そして、同事故を切っ掛けに、海運業界において油濁事故に関する国際的な保険組合を結成することにより損害を補償する動きが出てきた。

また、国際連合の専門機関である国際海事機関 (IMO) の前身である政府間海事協議機関 (IMCO) も油濁汚染損害に関する条約案を検討し、1969年には「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」が成立。1971年には、同条約の補充のための国際基金の目的とした「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約」が成立した。

本法は上記の条約を国内法化したものである。なお、成立当初の名称は「油濁損害賠償保障法」であったが、2004年の法改正により名称が「船舶油濁損害賠償保障法」に改められた(改正法の施行は2005年3月1日)。

タンカー油濁損害賠償責任

損害賠償責任及び責任制限

ばら積みの油(油、重油、潤滑油その他の蒸発しにくい油で政令で定めるもの)を輸送するタンカーから流出・排出された油による汚染により損害を生じた場合、原則として、当該タンカーの所有者は無過失責任に近い損害賠償責任を負う(3条)。

その反面において、タンカー所有者は上記損害賠償責任の範囲を制限することができる(5条〜9条)。これは、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(船主責任制限法)において船主の責任制限が認められるのと同趣旨によるものであるが、タンカーに起因する大型の油濁汚染による損害賠償である点に鑑み、本法において特例が定められているものである。

タンカー油濁損害賠償保障契約

油濁損害賠償に基づく被害者の損害賠償請求権を保障する観点から、2000トンを超えるばら積みの輸送に供する日本国籍のタンカーについては、船主相互保険組合や保険会社との間でタンカー油濁損害賠償保障契約を締結することが強制されている。また、日本国籍以外のタンカーについては、上記契約が締結されていなければ、2000トンを超えるばら積みの油を積載して日本国内の港に入港したり出港したりすることができない(13条)。上記契約における保険金額は、当然、タンカー所有者の責任制限額を満たす必要がある。

国際基金からの補償

油濁損害賠償に基づく被害者の損害賠償請求権を保障するため、被害者は、条約に基づいて設立された国際基金に対し、賠償を受けることができなかった損害の金額について補償を求めることができる(22条)。

また、上記基金の資金源とするため、日本の港に陸揚げされた原油等を1年間に15万トンを超えてタンカーから受け取る者は、年次拠出金を国際基金に納付しなければならない(30条)。

責任制限手続

船主責任制限法と同様、タンカー所有者の責任制限手続に関する規定が設けられている(31条〜39条)。

一般船舶油濁損害賠償責任

新設経緯

2004年の法改正(2005年3月1日施行)により、一般船舶(旅客又はばら積みの油以外の貨物その他の物品の海上輸送のための船舟類)からの燃料油の流出等による損害賠償責任や保障契約に関する規定が新設された。新設された規定は条約を国内法化したものではなく、日本国沿岸において一般船舶の座礁事故が多く発生していることに鑑み、それに対応するために規定されたものであるとされている。

損害賠償責任及び責任制限

一般船舶から流出・排出された燃料油により損害を生じた場合、原則として当該船舶所有者及び船舶賃借人は、無過失責任に近い損害賠償責任を負う(39条の2)。

その反面において、船舶所有者及び船舶賃借人の損害賠償責任の範囲を制限することができるのはタンカーの場合と同様であるが、タンカー所有者の場合と異なり、責任制限の内容は船主責任制限法の定めによる。

一般船舶油濁損害賠償等保障契約

被害者の損害賠償請求権を保障する観点から、総トン数が100トン以上の日本国籍の一般船舶については、船主相互保険組合や保険会社との間で一般油濁損害賠償保障契約を締結することが強制されている(39条の4第1項)。

また、日本国籍以外の総トン数100トン以上の一般船舶については、上記契約が締結されていなければ、日本国内の港に入港したり出港したりすることができない(39条の4第2項)。北朝鮮船籍の船舶は上記のような保障契約を締結している割合が著しく低いとされており、そのような船舶による事故が日本国沿岸で発生した場合、被害者の救済が乏しくなる。このような危機意識から、保障契約未締結の船舶の入港を阻止する目的でこのような規定を置くことになった。

関連項目