交換関係
交換関係(こうかんかんけい、テンプレート:Lang-en-short)は演算子としてあらわされた物理量が満たす量子力学特有の関係。 テンプレート:Indent
定義
二つの演算子(<math>A</math>、<math>B</math> とする)に対して、
<math>AB-BA\equiv[A,B]</math>
を交換子[1]と言う。交換子も演算子であり、特に <math>A</math>、<math>B</math> がともにエルミートであるとき、交換子は歪エルミートとなる。量子力学において、この交換子を規定する関係が交換関係である。
普通の数はかける順序を逆にしても値は同じだが、量子力学における演算子は必ずしもそうではなく、<math>[A, B]</math> が <math>0</math> にならない場合がある。<math>[A, B] = 0</math> のとき、<math>A</math> と <math>B</math> は可換である、あるいは <math>A</math> と <math>B</math> は交換するという。<math>[A, B] \neq 0</math> のとき、<math>A</math> と <math>B</math> は非可換である、あるいは <math>A</math> と <math>B</math> は交換しないという。
性質
交換子で定義される交換関係は次の性質を満たす。
- <math>[A,A]=0</math>
- <math>[A,B]=-[B,A]</math> (交代性)
- <math>[A,B+C]=[A,B]+[A,C]</math> (線形性)
- <math>[A,BC]=[A, B]C+B[A,C]</math> (ライプニッツ則)
- <math>[[A,B],C]+[[B,C],A]+[[C,A],B]=0</math> (ヤコビの恒等式)
正準交換関係
演算子には物理量に対応するものがあり、特に正準共役な変数同士の交換関係を正準交換関係[2]と言う。正準共役な関係にある、座標と運動量において、座標を <math>q_i</math>、運動量を <math>p_j</math> とすると、
- <math>[q_i,p_j]=q_i p_j-p_j q_i=i \hbar \delta_{ij}</math>
という 交換関係が成り立つ(<math>\hbar=h/2\pi</math>で <math>h</math> はプランク定数)。勿論、古典論では上記の結果はゼロ(<math>[q,p]=0</math>)となる。
反交換関係
<math>AB+BA\equiv\{A,B\}</math>
を反交換子[3]といい、これから規定される関係を、反交換関係 と言う。特に正準共役な変数同士の反交換関係を正準反交換関係[4]と言う。<math>[A,\, B]_{+}</math>という表式もしばしば用いられる。反交換子もまた演算子であり、特に <math>A</math>、<math>B</math> がともにエルミートであるとき、反交換子もまたエルミートとなる。反交換関係はフェルミ粒子などを扱う際に用いられる。
ポアソンの括弧式
解析力学において、 正準座標 <math>q</math> と 正準運動量 <math>p</math> の関数 <math>A(q,p)</math> と <math>B(q,p)</math> に対して、
- <math>\{A,B\}\equiv\frac{\partial A}{\partial q}\frac{\partial B}{\partial p}-\frac{\partial A}{\partial p}\frac{\partial B}{\partial q}</math>
で定められる量をポアソンの括弧式という。 ポアソンの括弧式は次のような関係式を満たしている。
- <math>\{A,A\}=0</math>
- <math>\{A,B\}=-\{B,A\}</math>
- <math>\{aA+bB,C\}=a\{A,C\}+b\{B,C\}</math> (<math>a</math>、<math>b</math> は定数)
- <math>\{AB,C\}=A\{B,C\}+\{A,C\}B</math>
- <math>\{A,\{B,C\}\} + \{B,\{C,A\}\}+\{C,\{A,B\}\}=0</math> (ヤコビの恒等式)
- <math>\{q,p\}=1</math>
交換関係と同様の関係式を満たしており、量子力学での交換関係は古典力学のポアソンの括弧式に相当する。(正準量子化の項も参照)