棘皮動物
棘皮動物(きょくひどうぶつ)とは、棘皮動物門 (Echinodermata) に属する生物の総称である。ウニ、ヒトデ、クモヒトデ、ナマコなどが棘皮動物に属する。
棘皮動物という名称は、echinoderm というギリシャ語由来のラテン語を直訳したもので、echinoderm とは echinos(ハリネズミ)のような derma(皮)を持つものという意味である。その名が示す通り、元来ウニを対象としてつけられた名称であるが、ヒトデ、ナマコなど、ウニと類縁関係にある、トゲをもたない動物も、棘皮動物に含まれる。
目次
- 1 概説
- 2 外部形態
- 3 内部構造
- 4 生殖と発生
- 5 生活など
- 6 再生について
- 7 分類
- 7.1 ヒトデ綱(海星綱)Asteroidea
- 7.2 シャリンヒトデ綱 Concentricycloidea
- 7.3 ウミユリ綱 Crinoidea
- 7.4 ウニ綱 Echinoidea
- 7.5 ナマコ綱 Holothuroidea
- 7.6 クモヒトデ綱(蛇尾綱)Ophiuroidea
- 7.7 ウミリンゴ綱 Cystoidea
- 7.8 ウミツボミ綱 Blastoidea
- 7.9 座ヒトデ綱 Edrioasteroidea
- 7.10 エオクリノイド綱 Eocrinoidea
- 7.11 パラクリノイド綱 Paracrinoidea
- 7.12 エドリオブラストイド綱 Edrioblastoidea
- 7.13 パラブラストイド綱 Parablastoidea
- 7.14 螺板綱 Helicoplacoidea
- 7.15 蛇函綱 Ophiocistioidea
- 7.16 円盤綱 Cyclocystoidea
- 8 参考文献
- 9 関連項目
概説
棘皮動物に含まれる動物は、動物界全体から見ても特異な構造を持つ。体は五放射相称で、その軸を上下方向に据えたものが多く、そのため進行方向を決めるような前後の体軸は存在しない。例外はナマコで、口が前であり、明確な腹背があるものも多いが、これも五放射相称から二次的に導かれたことは明確である。また、頭部が存在せず、そこに存在するような分化した感覚器や中枢神経の分化も見られない。
体内では非常に広大な真体腔があるが、血管系の退化傾向が激しく、また独立した排出系も見られない。それに代わって発達しているのが水管系という構造で、これは体外から海水を取り込んで体内を流すと言う奇妙なものである。これは幼生の体腔から発達したもので、体内に伸びて各部から管足という管を体外にのばす。これは運動や摂食に関わると同時に、その表面でガス交換や排出も行っている。
棘皮動物のもう一つの特徴は、体が殻や棘で覆われることで、それらは多数の部分に分かれ、運動が可能となっている。それらの一部は体表に露出するが、かなりの部分が皮膚の下にあり、内骨格を構成する。一見柔軟に見えるナマコではそれらは細かな骨片として皮膚内に分散している。
他方で、その発生の初期は後口動物の標準的なものであり、多くの点から我々を含む脊椎動物と系統的に遠いものではないことが伺える。上記のような特殊性の一つは、この群が左右相称動物から固着性を経て、そこで放射相称の体制に変化し、現在のような体制を持つに至ったためと考えられる。
外部形態
基本的には五放射相称の形を取る。実際にはヒトデ類やクモヒトデでは成長するに連れて軸を増加させる例、分裂によって減少する例もある。この五つの対称軸は主に水管系の配置によって決まっている。五本の放射水管からは体外に管足が並び、この列のある位置を歩帯、それらの間を間歩帯という。棘皮動物は小さな骨片の集まった構造を持ち、その一部は体外にあって鱗や棘として配置するが、それらの配置もこの軸と密接に関連する。
口は体の一端にあり、これが歩帯の配置の中心となる。現生の多くの群では口を下にするが、ウミユリ類ではこれを上に向け、ナマコ類では前方を向く。肛門は口の反対側が多いが、ウミユリ類では同じ側に開く。
ウニとナマコ以外のものでは歩帯の伸びる五つの方向に胴体から細長く突出する部分が区別され、これを腕という。腕は胴体部からやや自由に動くことが出来て、運動や摂食の際に役立つ。これらの類では歩帯は胴体から腕の口側面にだけ伸びる。腕は二叉分枝するものもある。ウニ、ナマコでは腕はなく、歩帯は胴体に沿って口から肛門まで伸びる。
ナマコ以外の類では体軸がごく短くなっており、頭部として見なせる構造は存在しない。また、感覚器官は目立つものではなく、その配置も全体に広がっている。体には進行方向を示すものはない。ナマコでは口側が進行方向と見なせる例が多く、また全身の形も左右相称的であるが、やはり頭部は区別できない。
内部構造
体壁には骨片が埋もれている。骨片はウニでは互いにつながって殻を構成し、それ以外のものでは関節的につながって柔軟な動きを可能にする。ナマコではさらに細かくなって分散的である。また、ウニでは口の部分によく発達した骨質の顎がある。
体内は広大な真体腔があるのが普通で、その中を消化管がとぐろを巻く。消化管は比較的単純なのが普通。
生殖と発生
普通は雌雄異体で体外受精。特別な配偶行動は見られず、一定季節の一定の時間に放卵放精が行われる、というのが普通。ただし、他個体の放出が引き金になる例もある。ヒトデ類でペアを組んで生殖を行う例が知られる他、ウミユリ類、クモヒトデ類などで幼生までを雌の体内で保育する例も知られる。
普通はごく小さな卵であり、卵割は等割、放射卵割。胞胚の前後で孵化、全身に繊毛を持って泳ぎ始める。体腔は原腸から形成される袋を起源とする。
初期の幼生は左右相称でいくつかの繊毛帯を持つ。その形からプルテウス(ウニ・クモヒトデ)、ドリオラリア(ウミユリ)、アウリキュラリア(ナマコ)などと呼ばれる。これらは往々にして水底に付着し、その体の一部から生態の体が形成される形の変態を遂げる。
生活など
すべてが海産で、わずかに汽水域に出現するものがある程度。しかし海中では極めて広範囲に見られ、寒帯から熱帯、潮間帯から深海底までどこにでも住んでいるものがある。時に深海底ではこの類が密集してみられる場合がある。
多くは動きの鈍い動物であり、海底の岩に付着していたり、泥に埋もれていたり、といったものが多い。もっともよく動くものはクモヒトデとウミシダで、これらは腕の運動範囲が広いため、これを振るように動かして移動する、ウミシダでは短時間ならば遊泳することが出来るものもある。深海産のナマコにはゼラチン状の体を持ってゆっくりだが大きく跳躍するように動いたり、遊泳するものが知られる。それ以外の動物は管足を使って移動し、動きは速くない。
ウミユリ・クモヒトデ・ナマコはデトリタスなどを摂食している。ヒトデ類には活発な捕食者が含まれる。ウニはしっかりした歯で海藻などを食う。
再生について
棘皮動物は再生力が強いものが多いのでも知られる。クモヒトデ、ウミユリでは腕が容易く切れ、自切がよく見られる。ヒトデ、クモヒトデでは胴体部が引き裂かれても再生し、分断すると二匹になる。ヒトデでは腕だけからも本体が再生されるものもある。自然の状態でもこのような形で分裂で増えるものも知られる。
ナマコは強く刺激すると内臓を体外に放出するものがある。これも再生する。
分類
テンプレート:Sister 棘皮動物は、ウミユリ類、ヒトデ類、シャリンヒトデ類、クモヒトデ類、ウニ類、ナマコ類の6つのグループに分けられる。現生する棘皮動物はこれら6綱のみだが、その他多くの絶滅した綱が知られている。化石は古生代以降に発見され、その量は動物化石としては多い方に属する。ウミユリやウニを主成分とする石灰岩もあるほどである。
棘皮動物に含まれる各群について様々な分子系統学的研究がなされているが、ウミユリ類が最も早く分岐したという点以外には、各グループ間の類縁関係について一致した結果は得られていない。これは、棘皮動物の進化の過程で、多くの収斂や逆転が起こったためと考えられる。
棘皮動物とその他の動物群の関係では、新口動物であること、発生等の証拠から祖先が左右対称動物であることなどが推察されるが、はっきりしたことはわかっていない。
ヒトデ綱(海星綱)Asteroidea
ヒトデ類は、体の下側にある口を中心にして、5本またはそれ以上の放射相称の脚をもつ、星型をした棘皮動物である。たいていは、5の倍数からなる放射相称の脚をもつ。
シャリンヒトデ綱 Concentricycloidea
シャリンヒトデ類は、1986年に発見された棘皮動物のグループである。直径1cm弱の円盤状をした体の周囲に縁棘と呼ばれる細かい脚が多数、同心円状に並んでいる。ヒトデ綱ニチリンヒトデ目の1科として分類される場合もある。
ウミユリ綱 Crinoidea
ウミユリ類は、形状が植物のユリに似ていることから名付けられた。茎をもち、体の上側に口と肛門をもつ。腕と呼ばれる花びらにあたる部分を広げ、海中を浮遊する食物を捕らえる。多くの種が固着生活をしているが、腕を用いて茎を引きずりながら移動することが可能である。また、ウミシダ類(ウミシダ目)は成体になると茎を切り離し、自由生活を送るようになる。
ウニ綱 Echinoidea
ウニ類は、球状の殻をもち、その周囲が棘で覆われている。棘と管足を用いて海底を移動する。体の下側にある口には5本の鋭い歯をもち、これを用いて海草などを食べる。
ナマコ綱 Holothuroidea
ナマコ類は、前後に口と肛門をもち、円筒状の形状をしている。骨格はあまり発達しておらず、体は柔らかい。
クモヒトデ綱(蛇尾綱)Ophiuroidea
クモヒトデ類は、円盤状の体を中心に、細長い腕が放射状に伸びた形状をしている。ヒトデ類と異なり、円盤状の体と腕が明確に区別できる。
ウミリンゴ綱 Cystoidea
ウミリンゴ類は、オルドビス紀からデボン紀に生息していた。層状の板から成る茎を持ち、下部は分枝した根状で、上部には多角形の板で出来た萼部がありその上部に口と肛門があった。ウミユリと同様に、固着生活をしていた。
ウミツボミ綱 Blastoidea
ウミツボミ類は、シルル紀からペルム紀に生息した。ウミユリ、ウミリンゴ同様の構造の茎を持ち、その一端は分枝し海底に固着していた。もう一方の端には萼部があり、これはおよそ15個の板で構成され、また萼部には口及び肛門があった。萼部からは多数の腕が伸びていた。
座ヒトデ綱 Edrioasteroidea
座ヒトデ類は、カンブリア紀から石炭紀に生息した。形状は平たい球状で、海底や腕足類に固着していた。
エオクリノイド綱 Eocrinoidea
原始ウミユリ類とも呼ばれる。カンブリア紀からシルル紀に生息した。
パラクリノイド綱 Paracrinoidea
オルドビス紀中期に生息した。
エドリオブラストイド綱 Edrioblastoidea
オルドビス紀中期に生息した。
パラブラストイド綱 Parablastoidea
オルドビス紀初期から中期に生息した。
螺板綱 Helicoplacoidea
カンブリア紀初期に生息した。五放射相称でない棘皮動物。
蛇函綱 Ophiocistioidea
円盤綱 Cyclocystoidea
オルドビス紀からデボン紀に生息した。
参考文献
- 岡田要,『新日本動物図鑑』,1976,図鑑の北隆館
- 西村三郎編著(1992)『原色検索日本海岸動物図鑑』保育社
- 椎野季雄,『水産無脊椎動物学』,(1969),培風館
関連項目
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