尿素回路
尿素回路(にょうそかいろ、Urea cycle)、またはオルニチン回路(Ornithine cycle)と呼ばれるこの回路は、肝臓の細胞の、ミトコンドリアと細胞質において、アンモニアから尿素を生成する代謝回路である[1]。この代謝回路は、1932年にハンス・クレブスとクルツ・ヘンゼライトによって初めて発見された。(クレブスのクエン酸回路は1937年に発見)。ほとんどの脊椎動物がこの回路を有し、これら一連の反応は肝細胞のミトコンドリア、サイトゾル内で起こる。
回路の調節
尿素回路の反応速度はN-アセチルグルタミン酸の濃度に依存している。なぜなら第一段階の反応であるアンモニアと炭酸からカルバモイルリン酸を生成する反応を触媒する酵素:カルバモイルリン酸シンテターゼ I (CPS I)は、N-アセチルグルタミン酸によってアロステリックに活性化されるためである。
アミノ酸分解の速度が上がるとその脱アミノ反応によりグルタミン酸の合成速度が上がり、これがシグナルとなってN-アセチルグルタミン酸の合成速度が上がる。その結果、CPS I が活性化されて尿素回路が活発になる。N-アセチルグルタミン酸はグルタミン酸N-アセチルトランスフェラーゼによってグルタミン酸とアセチルCoAから合成され、特異的ヒドラーゼによって分解される。
尿素回路の反応系
反応系の第4段階で生成したフマル酸はクエン酸回路と同じ経路でオキサロ酢酸に変えられ糖新生に使われる。
段階 | 反応物 | 生成物 | 酵素 | 場所 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
酵素名 | 略号 | EC番号 | ||||
1 | アンモニア + 炭酸 + 2ATP | 2ADP + リン酸 + カルバモイルリン酸 | カルバモイルリン酸シンテターゼI | CPS I | 6.3.4.16 | ミトコンドリア |
2 | カルバモイルリン酸 + オルニチン | シトルリン + リン酸 | オルニチントランスカルバモイラーゼ | OTC | 2.1.3.3 | |
3 | シトルリン + アスパラギン酸 + ATP | AMP + ピロリン酸 + アルギニノコハク酸 | アルギニノコハク酸シンテターゼ | ASS | 6.3.4.5 | 細胞質基質 (ミトコンドリア外) |
4 | アルギニノコハク酸 | フマル酸 + アルギニン | アルギニノコハク酸リアーゼ | ASL | 4.3.2.1 | |
5 | アルギニン + 水 | 尿素 + オルニチン | アルギナーゼ | ARG I | 3.5.3.1 |
- 尿素回路の反応
1 L-オルニチン
2 カルバモイルリン酸
3 L-シトルリン
4 アルギニノコハク酸
5 フマル酸
6 L-アルギニン
7 尿素
L-Asp L-アスパラギン酸
CPS-1 カルバモイルリン酸シンターゼI
OTC オルニチントランスカルバモイラーゼ
ASS アルギニノコハク酸シンターゼ
ASL アルギニノコハク酸リアーゼ
ARG1 アルギナーゼ1
カルバモイルリン酸シンターゼ(CPS)
真核生物には、カルバモイルリン酸シンターゼI (CPS I) とカルバモイルリン酸シンターゼII (CPS II) の2種類のカルバモイルリン酸シンターゼがある。ミトコンドリアにあるCPS Iはアンモニアからカルバモイルリン酸を合成して尿素回路にそれを供給し、サイトゾルにあるCPS IIはグルタミンのアミノ基からカルバモイルリン酸を合成してオロト酸を経由するピリミジン塩基の生合成経路に供給している。