対戦車ロケット弾
対戦車ロケット弾(たいせんしゃロケットだん)は、ロケット弾化された対戦車擲弾。誘導機能を有さない点で対戦車ミサイルと区別される。
概要
対戦車ロケット弾は、専ら歩兵が用いる対戦車兵器として、車両類の装甲や建造物の壁を貫通することを期待される。一般にモンロー/ノイマン効果を利用した成形炸薬弾の弾頭を持ち、無誘導でも命中が期待できる近距離で使用される。
RPG-7に代表される対戦車ロケット弾は大きな成功を収めた。歩兵が持ち歩く安価軽便な対戦車ロケット弾が高価な戦車を撃破しうることは戦術に変革をもたらした。戦車は成形炸薬弾に対抗することを半ばあきらめ、装甲を薄くして機動力で避けるものとすらされた。これがいわゆる第2世代主力戦車である。しかし、爆発反応装甲や複合装甲が開発されると、従来の対戦車ロケット弾が主力戦車の装甲を貫徹することは再び困難になった。
対戦車ロケット擲弾発射器は歩兵が携行できる簡便な火力投射手段として多目的に使用されることがある。対柔目標用には榴弾やサーモバリック弾頭が適しているが一般的な成形炸薬弾でも飛び散る破片がある程度の殺傷力を持つ。
構造
対戦車ロケット弾は、弾頭部とロケットモーター(ブースター)部に分けられる。発射器を含める場合もある。
弾頭部
多くの対戦車ロケット弾は無反動砲の原理で射出される。このため弾丸の飛翔速度は同口径の他の直射火器と比較して低速である。ロケット弾を有効な対戦車兵器にすることができたのは成形炸薬弾(HEAT)と組み合わせる着想からである。ロケット擲弾発射器は初速、つまり飛翔体の速度が遅いため、徹甲弾などで戦車の装甲を貫通することが困難だった。かと言って、大口径榴弾砲のように榴弾の爆発エネルギーだけで戦車を破壊することもできなかった。ところが、モンロー/ノイマン効果利用した成形炸薬弾ならば爆発エネルギーを一点に集中する事で装甲を貫通することができる。このため初速に関わらず貫通力を発揮することが可能で、ロケット擲弾発射器による有効な対戦車戦闘を可能にした。ロケット擲弾発射器は砲の内部にかかる圧力が低いため、構造を簡易軽量にすることができる。そのため、歩兵の個人携行が容易な対戦車ロケット擲弾発射器が製作可能であった。長年成形炸薬弾頭が一貫して採用されてきたが、近年では大きな運動エネルギーで装甲を貫通するCKEMなども開発されている。
ほとんどの種類の弾頭は翼を持つ。これは旋動安定方式ではモンロー/ノイマン効果のメタルジェットが遠心力で分散してしまい貫徹力が落ちるので、弾丸の旋回を最小限にするために翼安定方式が採用されているためである。
特殊な弾頭として、110mm個人携帯対戦車弾に採用されているプローブ付き成形炸薬弾頭は、弾頭先端に長さを調節できるプローブと呼ばれる信管の一部がついておりスタンドオフを変えることによってHEAT指向にも榴弾(HE)指向にもできる。他に、RPG-7のPG-7VR弾頭は、2つの成形炸薬が1列に並んだタンデム式弾頭を搭載しており爆発反応装甲を無力化できる。
ロケットモーター(ブースター)
撃発当初から作動する推進装置をロケットモーターと呼び、弾薬が投射された後に空中で作動を開始する推進装置をロケットブースターと呼ぶ。使用される火薬は、主にダブルベース火薬を使用したプロペラントである。
歴史
成形炸薬弾を利用する対戦車ロケット弾が実用化されるまでの歩兵は運動エネルギーを利用した対戦車兵器に頼っていた。つまり対戦車銃や対戦車砲である。しかし、戦車の装甲が強化されると、これらの銃砲も陳腐化もしくは大型化を余儀なくされ、運用が難しくなった。一方で爆薬の化学エネルギーを利用して戦車を破壊するには大量の爆薬を設置する必要があり、有効な投射手段がなかった。そのため戦車戦闘は梱包爆薬、人の手で戦車に設置する肉薄攻撃を行う必要があった。大口径の榴弾砲ならば榴弾の威力で戦車にダメージを与えることもできたが、歩兵の運用する小型の火砲ではそれも難しかった。
一方で成形炸薬ならば爆発力を一点に集中することで、装甲を貫通することができた。成型炸薬を利用した対戦車兵器には吸着地雷などがあったが肉薄攻撃であるため、大きな危険が伴った。そのためロケット擲弾発射器や無反動砲で成形炸薬弾を投射することができるようになったことは歩兵の対戦車戦闘に取って重要な転機となった。
第二次世界大戦
第二次世界大戦ではモンロー効果を利用したロケット弾とその発射装置が携帯型対戦車兵器として各国で実戦化され、配備された。このため、肉薄攻撃を行わずに歩兵が戦車を撃破することが可能になった。
代表的なのは、アメリカ軍のM9ロケットランチャー(通称バズーカ)と、ドイツ軍のパンツァーシュレックである。
冷戦時代
ソ連はパンツァーファウストを参考にした対戦車擲弾発射器としてRPG-2を広く配備していたが、その対戦車擲弾をロケット弾化したものとしてRPG-7が開発された。第四次中東戦争では、RPG-7とサガー対戦車ミサイルを装備するエジプト軍歩兵部隊がイスラエルの戦車部隊に大損害を与え、RPG-7は東側諸国全体で採用される成功作となった。
現代
現代の戦車の特殊な装甲を貫徹するために対戦車ロケットはいっそう大型化すると同時に、成形炸薬弾を2重に備えるダンデム弾頭などが配備されている。代表的なものにAT-4、RPG-29、パンツァーファウスト3などが挙げられる。一方で対戦車ロケット弾の大型化は、兵士が携行できる弾薬の減少という弊害ももたらした。これ以上、大型化すると歩兵が持ち歩けなくなるため、威力向上の限界にも直面している。
従来のRPG-7やM72 LAWでは主力戦車に対抗するには力不足になってしまったが、その軽便さから使用され続けられている。この「戦車には力不足だが、軽車両や非装甲目標に対する攻撃ならば十分な威力を持つ安価簡便な多目的ロケット弾」というコンセプトから、新たにSMAWなどが開発された。