分散関係
テンプレート:出典の明記 分散関係(ぶんさんかんけい、テンプレート:Lang-en-short[1])は、波において、角周波数(角振動数)と波数の間の関係。特に角周波数 ω を波数 k の関数で表した式のことを言う。
概要
フーリエ変換により、波動は特定の波数 k のみをもつ、単色波 ei(kx -ω t ) の集まりに分解することができる。このとき、波数 k と角周波数 ω が、系の性質に応じて満たす関係
- <math> \omega =\omega(k) \, </math>
を、分散関係、または分散式という。波数と角周波数の対応関係が複数存在する場合もあり、それぞれの関係を波のモードと呼ぶことがある。
特に、波数と角周波数が比例関係
- <math>\omega =vk \, </math>
で表されるときに、分散がないという。また、波数と角周波数が比例関係にない場合、系は分散的もしくは分散系であるという。分散がない波においては、
- <math>e^{i(kx-\omega t)}=e^{ik(x- vt)} \,</math>
となり、各単色波の成分は波数に依らず、一定速度 v で進むため、波形が崩れず、そのまま伝播する。
分散関係が与えられると、波動の性質を示すいくつかの重要な指標を導くことができる。波の位相部分が一定 kx - ω t =φo で伝わる速度 vp は、これを時間で微分して、
- <math> v_p = \frac{dx}{dt} = \frac{\omega}{k} </math>
で与えられる。これを位相速度という。また、一方で様々な波数を持つ波の集まりである波束において、その群速度は、
- <math> v_g=\frac{d \omega(k)}{dk} </math>
で与えられる。
分散がない場合には、
- <math>v_p=v, \quad v_g=v \,</math>
であるから、「分散がない」という条件は「位相速度と群速度が一致する」ことと等価である。
通常の波動方程式
- <math>\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}</math>
に従う波動現象においては、 ei(kx -ω t )を考えると、
- <math>\omega =c k \,</math>
の関係が満たされており、分散がない波となる。
光学における分散
自然光などの白色光をプリズムに通すと、透過した光は虹のように各色ごとに分光される。この現象は光学においては分散と呼ばれる。これは、白色光が角振動数の異なる電磁場から構成されており、媒質となるプリズム中においてそれぞれの屈折率n が角振動数ωによって異なることに起因する。このとき、媒質中を伝播する電磁波の位相速度は屈折率 n (ω)と真空中の光速度c を用いて、
- <math> c(\omega)= \frac{c}{n(\omega)} \,</math>
と表される。このとき、対応する分散関係は
- <math> \omega= c(\omega)k \,</math>
となる。分散関係という語は、光学におけるこの分散現象に由来する。
例
水面波
深さがh である水の層において、重力と表面張力を考慮した水面波の分散関係は以下を満たす[2]。
- <math>\omega=|k| \sqrt{ \biggl ( \frac{g}{k}+ \frac{\sigma k}{\rho} \biggr) \tanh{kh} }</math>
ここで、g は重力加速度、σは表面張力、ρは水の密度である。
フォノン
固体におけるフォノンのモデルとして、2種類の原子から構成される一次元の格子の振動を考える。このとき、この格子系の周期を2a とし、2つの原子の質量をm1、m2、結合の定数をf とすると、分散関係は
- <math>
\omega^2= \frac{f}{m_\mu} \left ( 1 \pm \sqrt{1-\frac{4m_\mu^{\, 2}}{m_1m_2} \sin^2{ka} } \right ), \quad \frac{1}{m_\mu}=\frac{1}{m_1} + \frac{1}{m_2} </math> となる[3]。符号が - の場合が音響モードに対応し、+ の場合が光学モードに相当する。特に|q |→0としたときの長波長極限では、音響モードでは、
- <math> \omega = \sqrt{ \frac{2f}{m_1+m_2}} a|k| </math>
光学モードでは
- <math> \omega = \sqrt{ \frac{2f}{m_\mu}} = \sqrt{ \frac{2(m_1+m_2)f}{m_1m_2} } </math>
となる。
相対論的な電子
相対論な場の量子論において、電子はディラック方程式で記述される。このとき、電子は以下の分散関係を満たす[4]。
- <math> \omega= \sqrt{(ck)^2+\biggl ( \frac{mc^2}{\hbar} \biggr)^2} </math>
ここで、m は電子の質量、c は光速度である。
脚注
関連項目
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 巽友正『流体力学 (新物理学シリーズ21)』培風館 (1995) ISBN 978-4563024215
- ↑ Neil W. Ashcroft and N.David Mermin , Solid State Physics , Thomson Learning (1976); アシュクロフト, マーミン (著), 松原 武生, 町田 一成 (翻訳) 『固体物理の基礎 (下・1) 固体フォノンの諸問題 (物理学叢書 48)』 吉岡書店 (1982) ISBN 978-4842702025
- ↑ 西島和彦 『相対論的量子力学 (新物理学シリーズ 13)』 培風館 (1973) ISBN 978-4563024130