ボイジャー2号
テンプレート:宇宙機 ボイジャー2号(Voyager 2)は、1977年に打ち上げられたNASAの無人宇宙探査機。
姉妹機であるボイジャー1号と同型だが、2号は土星接近の際に1号と異なる軌道をとり、タイタンへの接近をせずに土星でのスイングバイを行って天王星と海王星に向かった。これにより、ボイジャー2号はこの二つの惑星を訪れた最初にして現在のところ唯一の探査機となり、また木星・土星・天王星・海王星の「グランドツアー」を初めて実現した探査機となった。このグランドツアーはこれら4惑星の幾何学的配置が約175年に一度という稀な条件を満たしたこの時期にのみ実現可能なものであった[1]。
ボイジャー探査機の搭載装置の詳細についてはボイジャー計画を参照。
ミッション計画と打上げ
元々ボイジャー2号はマリナー計画の一部「マリナー12号」として計画された。
ボイジャー2号は1977年8月20日にアメリカ・フロリダ州ケープカナベラル空軍基地LC41発射台からタイタンIIIEセントールロケットによって打ち上げられた。
ボイジャー2号の打上げの際、ボイジャー計画の地上クルーは同時期に打上げを予定していたボイジャー1号に生じた問題に集中していたため、ボイジャー2号に重要な起動コマンドを送信することを忘れていた。このためにボイジャー2号のメインの高利得アンテナが停止する状態となった。幸い、地上クルーは探査機の低利得アンテナを使って交信を確立することができ、高利得アンテナを再起動することができた。
木星
ボイジャー2号は1979年7月9日に木星に最接近した。この時の観測で大赤斑は反時計回りに回転していることが判明した。さらに、新たな衛星アドラステアを発見した。
土星
土星への最接近は1981年8月25日に行われた。 ボイジャー2号は地球から見て土星の裏側にいる際に、レーダーを用いて土星の上層大気の観測を行い、温度及び密度分布を測定した。この観測により、土星大気の最上部(気圧70mb (7.0kPa))での温度は70Kで、最下層部(気圧1200mb (120kPa))では温度は143Kに上昇していることを発見した。また北極では他の部分に比べて温度が約10K低いことも明らかになったが、これは季節によって変動している可能性もある。
実は本来のミッションは土星探査で全て完了だったが、ボイジャー2号は軌道の関係上天王星まで行くことが可能だったため、関係者は議会で予算追加を訴えた。予算が得られなければ地上の管制を打ち切らねばならなかったが、粘り強い活動が実を結んで予算追加は承認された。また、これより後に海王星探査が追加承認されている。
土星フライバイの後、ボイジャー2号のカメラ架台が一時的に動かなくなる不具合が起こり、延長されたミッションが危機にさらされることとなった。幸いにもミッションチームは問題を解決することができ、探査機は天王星探査へと向かった。
天王星
天王星への最接近は1986年1月24日に行われた。ボイジャー2号の天王星訪問はわずか24時間弱であったが、天王星についての多くの情報をもたらした。以下に述べる環や衛星・大気についての情報に加え、天王星の1日の長さや磁場の存在などの情報である。
ボイジャー2号は天王星の未知の衛星を新たに10個発見した。また天王星の97.77°傾いた自転軸によって生じたユニークな大気の性質を調査したり、天王星の環の調査を行った。この調査で天王星の環は、木星や土星と性質が異なり、形成時期も天王星より若いことが判明した。ある天体が天王星の潮汐力により破壊され、形成されたと考えられている。またボイジャー2号は天王星に磁場が存在することも発見している。
また天王星の5大衛星の一つ、ミランダも観測した。ミランダの表面は深さ20km以上におよぶ巨大な渓谷などがあり、複雑な地形であった。過去に何らかの破壊的な地殻変動があったと考えられている。
海王星
海王星への最接近は1989年8月25日に行われた。ボイジャー2号は、海王星は太陽から受ける熱より多い熱を放射しているということを発見(報告)した。海王星はボイジャー2号が探査できる最後の惑星だったため、ボイジャー1号が土星とタイタンに接近した際と同様に、接近後の探査機の軌道を気にせずに海王星の衛星トリトンへの近接フライバイを行った。これは結果的に賢明な判断となり、この接近によってトリトンの表面が興味深い特徴を持っていることが明らかになった。ボイジャー2号は、海王星の衛星を新たに6つ発見した。また、海王星の環が同心円状で海王星を一周していることも確認した(それまではとぎれとぎれしか存在せず一周していないと考えられていた)。
ボイジャー2号はまた海王星表面の大暗斑 (Great Dark Spot) も発見した。しかし1994年のハッブル宇宙望遠鏡による観測では大暗斑は消失している。
なお、ボイジャー2号が、海王星を訪れた唯一の探索機である。
太陽系からの離脱
ボイジャー2号の惑星探査ミッションは終了したため、現在ボイジャー2号は太陽圏を越えた領域で太陽系がどのようになっているかを調べる星間空間ミッションとしてNASAによって運用されている。
2011年8月20日現在、ボイジャー2号は太陽から約144億2445万km(96.163AU)の距離にあり、太陽との相対速度で15.456km/s(3.260 AU/年)の速さで太陽系から脱出しつつある。ボイジャー2号はまだ太陽系から完全に脱出してはいないが、その途中にあると考えられている。
2010年4月22日、ボイジャー2号から地球に送信されたデータが読み取り不可能な状態になっていることが発見された。 5月1日にはその原因が観測したデータを地球に送信するためのフォーマットに変換するシステムに異常があるためと判明した[2][3]。NASAはボイジャー2号のコンピューターを5月19日にリセットし、23日にはデータが正常に送信されていることを確認した[4]。
ボイジャー2号は、ボイジャー1号と共に、太陽系の外から来る紫外線の波長域の1つ「ライマンアルファ線」を観測している。その中には、地球からの観測では知られていなかった線源も含まれている。ライマンアルファ線は、地球からの観測では、星間物質に散乱される太陽放射のせいでうまく捕らえることができないものである。
ボイジャー2号との通信は2030年頃までは保たれるものと考えられている。
ボイジャーとの交信がいつまで保たれるかは、電力や、燃料などの制約もあるが、一番厳しい制約は太陽センサーの感度だと考えられる。すなわち、同宇宙機は、太陽と恒星カノープスの方向を基準に地球の方向を計算し交信用の高利得アンテナを地球に向け続けている。 しかし、太陽から同宇宙機が離れるにつれ太陽センサーに届く太陽光が弱くなり、太陽の活動状況にもよるが2013年頃に太陽光の強度が太陽センサーの感度を下回ると予想されている。このとき探査機は地球の方向を計算出来ず高利得アンテナの向きも地球の方向から外れることになり、同探査機と地球との交信が途絶する。
脚注
関連項目
外部リンク
- NASA ボイジャー計画公式サイト
- ボイジャー探査機の寿命
- Spacecraft escaping the Solar System - 探査機の現在位置と軌道図
- ミッション状況
参考文献
- Saturn Science Results
- Uranus Science Results
- 「太陽系はここまでわかった」リチャード・コーフィールド著、水谷淳訳、文芸春秋、2008年