プロテオグリカン
プロテオグリカン(Proteoglycan)は、糖とタンパク質の複合体で、糖タンパク質の一種である。「プロテオ」はプロテイン、つまりタンパク質、「グリカン」は多糖類を意味する。
動物成分の多糖(グリコサミノグリカン:glycosaminoglycan)の研究中に見つけ出された成分である。グリコサミノグリカンとしては、ムコ多糖として全身に存在するヒアルロン酸や軟骨から分離されたコンドロイチン硫酸(1889)などが有名であるが、これらのグリコサミノグリカンの構造解析を行っている中で、1970年にグリコサミノグリカンとコアタンパク質(CoreProtein)が一定の結合様式で結合した糖タンパク質が発見され、プロテオグリカンと命名された。
構造
プロテオグリカンは、一定の結合様式を持った分子の総称で、コアタンパク質のアミノ酸であるセリンと糖質のキシロース←ガラクトース←ガラクトース←グルクロン酸が結合しコンドロイチン硫酸などの2糖単位で連続する多糖体が結合した化合物である。
その後、コンドロイチン硫酸は、プロテオグリカンの部分構造であることがわかってきている。
生体成分として多様な機能性を持つと考えられるプロテオグリカンは、もっとも重要な生体成分であり、主要な各種臓器、脳、皮膚を始めとした体全体の組織中の細胞外マトリックスや細胞表面に存在するほか、関節軟骨の主成分としても存在している。
プロテオグリカンは、組織形成や伝達物質としての役割など、組織維持修復に関係する成分である。また、プロテオグリカンは、コラーゲンやヒアルロン酸とマトリックスを作ることで身体組織や皮膚組織を維持している。
神経系や免疫系などと共に高等多細胞動物にしか存在しない組織であり、プロテオグリカンが多細胞動物以外で認められることは無いと考えられる。
各組織のプロテオグリカンは、その組織細胞で合成される。組織の細胞外マトリックス成分であるヒアルロン酸は、細胞膜で合成されるが、プロテオグリカンは、ゴルジ体内で生合成される。細胞外に放出されたコラーゲンやヒアルロン酸、プロテオグリカンは会合構造をとることで組織を維持する。巨大なプロテオグリカンが分子単体で存在することは難しい [1]。
概要
プロテオグリカンの構造研究や生理活性は、1970年ごろより徐々に見出されるようになり、近年かなりの研究報告が認められるようになってきた。
弘前大学の高垣啓一教授が、4%酢酸溶液を使うことで、鮭の鼻軟骨からプロテオグリカンを抽出する方法を発見した。これにより、今まで有害試薬でしか抽出できなかったプロテオグリカンを、食品や化粧品にも使用できる精製方法が確立された。 酢酸溶液で抽出されたものは、NaCl飽和エタノールと分子量膜により精製され、試薬(和光純薬)として販売されている。さらに、弘前大学や企業から多くの研究発表がされているほか、医療素材・化粧品原料としての応用が期待されている。
高垣教授が開発した方法で抽出されたプロテオグリカンは、コンドロイチン硫酸型のプロテオグリカンであり、タンパク質などの分子量測定に用いる電気泳動法により344KD、ゲルろ過分子量約45万である。
アルカリ溶液による抽出方法の発見と、サケの鼻軟骨を原料とすることにより、生産の低コスト化が実現した[2]。アルカリ溶液による抽出された鮭鼻軟骨由来プロテオグリカンの特徴は、ゲルろ過分子量約120万ダルトンと、非変性であることである。
種類
サイズによるプロテオグリカンの分類も可能で、大きいプロテオグリカンの例はアグリカンやバーシカン等を含み、スモールロイシンリッチプロテオグリカンはデコリン、ビグリカン、フィブロモジュリン、ルミカン等を含む。
- コンドロイチン硫酸(関連するデルマタン硫酸を含む)プロテオグリカン
- アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシンなど。
- ヘパラン硫酸(ヘパリンを含む)
- パールカン、セルグリシン、シンデカン、グリピカンなど。
- ケラタン硫酸
- ルミカン、ケラトカン、アグリカンなど。
- デルマタン硫酸
- デコリンなど。
- ヒアルロン酸
脚注
参考文献
- 新生化学実験講座,糖質Ⅱ,第1版(1991),第3巻
- 渡辺秀人,木全弘治,蛋白質核酸酵素,48(8),916-922(2003)
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