ハイヌウェレ型神話
ハイヌウェレ型神話(ハイヌウェレがたしんわ、ハイヌヴェレとも[1])とは、世界各地に見られる食物起源神話の型式の一つで、殺された神の死体から作物が生まれたとするものである。その名前は、ドイツの民俗学者であるテンプレート:仮リンクが、その典型例としたインドネシア・セラム島のテンプレート:仮リンクの神話に登場する女神の名前から命名したものである[2]。
ヴェマーレ族のハイヌウェレの神話は次のようなものである。ココヤシの花から生まれたハイヌウェレという少女は、様々な宝物を大便として排出することができた。あるとき、踊りを舞いながらその宝物を村人に配ったところ、村人たちは気味悪がって彼女を生き埋めにして殺してしまった。ハイヌウェレの父親は、掘り出した死体を切り刻んであちこちに埋めた。すると、彼女の死体からは様々な種類の芋が発生し、人々の主食となった。[1]
この形の神話は、東南アジア、オセアニア、南北アメリカ大陸に広く分布している。それらはみな、芋類を栽培して主食としていた民族である。イェンゼンは、このような民族は原始的な作物栽培文化を持つ「古栽培民」と分類した。彼らの儀礼には、生贄の人間や家畜など動物を屠った後で肉の一部を皆で食べ、残りを畑に撒く習慣があり、これは神話と儀礼とを密接に結びつける例とされた[3]。
日本神話のオオゲツヒメや保食神(ウケモチ)・ワクムスビにもハイヌウェレ型の説話が見られ(日本神話における食物起源神話を参照)[4]、東南アジアやオセアニアから伝わったものと考えられる。しかし、日本神話においては、発生したのは宝物や芋類ではなく五穀である。よって、日本神話に挿入されたのは、東南アジアから一旦中国南方部を経由して日本に伝わった話ではないかと考えられている。『山海経』には、中国南部にある食物神・后稷の墓の周りには、穀物が自然に生じているとの記述がある。
脚注
関連項目
参考文献
- 吉田敦彦 『昔話の考古学-山姥と縄文の女神』 中央公論社〈中公新書〉、1992年、140-169頁、ISBN 978-4121010681