トリスタン和音
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テンプレート:Portal クラシック音楽 トリスタン和音(―わおん)は、
- ヘ(F)、ロ(H)、嬰ニ(Dis)、嬰ト(Gis)
からなる和音で和声学で言う「導七の和音」又は「減五短七の和音」[1](Half-diminished seventh chord<英語版>)の一種である。また一般に同じ音程(下から順に増4度、長3度、完全4度)からなる和音をもいう。この和音がリヒャルト・ワーグナーのトリスタンとイゾルデの冒頭に現れることから名づけられた。
この和音の和声上の機能についてはいろいろな解釈が可能であり、調性的には曖昧である。
この和音はエンハーモニック(異名同音)により、変ト長調Ⅶ7または変ホ短調Ⅱ7の
- へ(F) - 変イ(As) - 変ハ(Ces) - 変ホ(Es)
とも、またイ短調ドッペルドミナント7のロ(H) - 嬰ニ(Dis) - 嬰ヘ(Fis) - イ(A)の第五音を下方変異させた
- ロ(H) - 嬰ニ(Dis) - ヘ(F) - イ(A)
(嬰ト(Gis)は倚音または経過音である)とも解釈でき、第五音の下方変異したドッペルドミナントの第二転回形であるテンプレート:仮リンクの一種、テンプレート:仮リンクとして捉えることもできる。
ワーグナーはこれによって和音の機能よりも音、響きを強調したといえる。
当時は”和声の危機”と騒がれたが、のちに同種の和音はブルックナーの交響曲やマーラー、ドビュッシーなどにより利用され、たとえば『牧神の午後への前奏曲』や『子供の領分』(ゴリヴォーグのケークウォーク)に頻繁にみられる。またこれを発展させた形として、スクリャービンの「神秘和音」がある。