ゾルピデム
ゾルピデム(Zolpidem)は睡眠導入剤に用いられる化合物である。イミダゾピリジン系に分類されるため、非ベンゾジアゼピン系の薬剤である。脳のGABAA受容体のω1サブタイプに作用することで効果を示す。日本での先発品の商品名はマイスリーで、アステラス製薬が販売する。アメリカではアンビエン(Ambien)、欧州ではStilnoxとして販売される。
ゾルピデム酒石酸塩として薬剤に含有される。同じく睡眠導入剤としてトリアゾラム(ハルシオン)と同様に超短時間作用型であり、寝付きの悪さの改善薬として出される。
他害行為を誘発する傾向はアメリカで認可された睡眠薬ではハルシオンに次ぐ[1]。アメリカでは2013年に、女性ではゾルピデムの排出が遅いことから、推奨用量を5mgに半減した[2]。副作用には、夢遊行動、昼間の眠気、めまい、幻覚などがある[3]。骨折などの傷害リスクが高まる傾向がある[4]。台湾の国民保険データの解析によれば、脳卒中[5]、心筋梗塞[6]、癌[7]のリスク増加が見いだされている。
向精神薬に関する条約のスケジュールIVに指定されている[8]。日本では、薬事法に基づき処方箋医薬品でありまた習慣性医薬品に指定されている。麻薬及び向精神薬取締法における第3種向精神薬である[9]。実際の日本の薬物乱用症例の中でも乱用されやすい[10]。
目次
開発
ゾルピデムは、フランスのサノフィ・サンテラボ社(現サノフィ)が開発し、1992年に世界で初めて販売が開始される。日本では2000年8月に藤沢薬品工業から発売されたが、山之内製薬に吸収合併されたアステラス製薬が継承している。日本で2012年6月に、ゾルピデムの後発医薬品も販売が開始されている。
効能・効果
不眠症に適応があるが、統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く[11]。
なお、先述したように超短時間作用型の睡眠導入剤であるため、早朝覚醒(夜中に何度も目が覚めるなど)には用いられない。この場合は、ベンゾジアゼピン系などの中間作用型の薬(ニトラゼパムなど)が使用される。
成人は1日1回、就寝直前に服用する。服用後、ゾルピデムは速やかに胃腸から吸収され、0.8時間で血中濃度が最大なった後、速やかに減少する(消失半減期は2.1-2.3時間)[11]
血中濃度が最大になるまでの時間が非常に短く、また消失半減期も非常に短いため、翌朝に眠気や倦怠感などが残りにくいとされる。
剤形
5mgおよび10mgのフィルムコート錠。通常は「1シート10錠」だが、先発薬のマイスリーの場合は「1シート14錠」のタイプも存在する。
用法・用量
通常、成人には酒石酸ゾルピデムとして1回5mg - 10mgを就寝直前に経口投与する。なお、高齢者には1回5mgから投与を開始する。年齢、症状、疾患により適宜増減するが、最大量は1日10mgを超えてはいけない。
アメリカでは2013年には、女性のほうがゾルピデムの排出がゆっくりということから、推奨用量を5mgに半減した[2]。覚醒を必要とする作業に支障をきたさないようにし、運転事故のリスクを低減する目的である。
禁忌
重症筋無力症、急性狭隅角緑内障には禁忌となる。日本の添付文書では、禁忌よりも先に夢遊行動の警告が書かれているがこれについては、副作用の項にて後述する。
作用機序
GABAA受容体複合体のベンゾジアゼピン結合部位(ωサブタイプ)に作用し、γ-アミノ酪酸 (GABA) の作用を増強する。ω受容体には2つのサブタイプがあり、ω1サブタイプは催眠鎮静作用に、ω2サブタイプは抗痙攣作用、抗不安作用及び筋弛緩作用に深く関与しているものと考えられている。ゾルピデムはトリアゾラム(ハルシオン)などのベンゾジアゼピン系睡眠導入剤と比較してω1選択性が高く、催眠鎮静作用に比べて、抗不安作用、抗痙攣作用や、筋弛緩作用が弱いのが特徴とされる。また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて反復投与による耐性や依存は形成されにくいが、耐性が生じることはあるため、連用によって効き目が落ちてくる場合はある。
副作用
一般的な副作用としては、起床後の眠気やふらつき、倦怠感などが挙げられる。稀に生ずる重大な副作用としては、依存の形成、呼吸抑制、一過性前向性健忘などがある。
日本や添付文書に夢遊行動の警告が書かれている[11]。アメリカでも同様である。
夢遊行動
日本の医薬品添付文書では警告表示にて、もうろう状態や夢遊行動があらわれることがあり、記憶がない場合があることが記されている[11]。このような場合には、薬剤を中止することと記載されている[11]。このような警告は、他の非ベンゾジアゼピン系の薬剤であるゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)、またベンゾジアゼピン系のトリアゾラム(ハルシオン)でも同様である[12]。2007年には、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、睡眠時に自動車の運転を行う(夢遊行動)といった記載を、すべての睡眠薬に対し行った[13]。
アメリカ食品医薬品局 (FDA) によれば、睡眠中に車を運転しようとしたり、食事をするなど異常な行動をひき起こす危険性があることが報告されている。
2008年2月、オーストラリアのテンプレート:仮リンクは「ゾルピデムには睡眠歩行・睡眠運転・奇妙な行動などの危険な睡眠関連の行動を引き越す可能性が存在する。ゾルピデムはアルコールと共に摂取してはならない。他の中枢神経抑制薬物との併用には注意を要する。使用は最大で4週間に限られ、かつ厳密な医学的管理下でなければならない。」とのブラックボックス警告を行った[14]。
販売会社である仏サノフィ社は、夢遊病の症例は確率が1000人に1人以下のまれな副作用であると声明を出している。
救急医療の利用
テンプレート:仮リンク(SAMHSA)は、ゾルピデムによる救急医療の利用が、2005年の6,111件から、2010年の19,487件へと、5年間で約3.2倍となったことを警告し、他の薬との相互作用がない単体での副作用でも7,792件とその40%を占めている[3]。夢遊行動、昼間の眠気、めまい、幻覚などの副作用が生じうる[3]。
がんや脳卒中などのリスク増加
台湾の人口の約99%を占める国民健康保険のデータベースを解析し、ゾルピデムを使用していた睡眠障害のない群でも脳卒中のリスクが、使用しない者に比較して1.37倍であることが見いだされ、使用量の増加がリスクの上昇につながっていることが見いだされた[5]。同様に台湾の国民保険のデータベースを解析し、急性心筋梗塞のリスクは、睡眠障害のない群1.35倍、ある群1.33倍とほぼ同様であった [6]。同様に台湾の国民保険のデータベースを解析し、ゾルピデムを使用しない者に比べ、あらゆる癌を含めて癌のリスクの1.68倍の増加[7]
コホート研究から、特に18-54歳の層でも、睡眠薬を使用しない者に比べて頭部外傷や骨折などの傷害のリスクが1.7倍であり、それ以上の高齢者の1.57倍よりも高かった[4]。
他害
アメリカ食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(AERS)のデータから、殺人や暴力など他害行為の発生率は、睡眠薬のグループでは、トリアゾラム(ハルシオン)の8.7倍に次ぐ、ゾルピデムにおける6.7倍である[1]。
依存と離脱
世界保健機関は、1999年にゾルピデムを向精神薬に関する条約のスケジュールIVに指定した[8]。
上述のようなゾルピデムの依存形成の可能性が低いという売り込みをよそに、日本の薬物乱用症例においてベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系を含めて上位5位に入る[10]。
医療文献では、ゾルピデムの長期的な使用は薬物の耐性の形成や薬物依存、反跳性不眠、中枢神経系関連の副作用に関連する。ゾルピデムは短期的な使用に限られ、最小有効量の投与にとどめることが推奨される。非薬物療法が睡眠の質の改善に推奨される[15]。動物での試験では、げっ歯類ではゾルピデムは耐性形成の可能性がベンゾジアゼピンよりも少ないが、霊長類では耐性形成の可能性はベンゾジアゼピンと同じであった[16]。耐性はいくつかの人ではわずか数週間で形成された。ゾルピデムの突然の中止は、長期間・高用量で服用された場合は特に、精神錯乱、発作、または他の深刻な影響を与える可能性がある[17][18][19]。
薬物耐性や身体的依存が形成された場合、治療は通常、離脱症状を最小限に抑えるために数ヶ月にわたって徐々に減量を行う。これはベンゾジアゼピン離脱症候群と同様である。これに失敗した場合、一部の患者では別の方法への切り替えが必要となる場合がある。ジアゼパムまたはクロルジアゼポキシドなどの、長時間作用型ベンゾジアゼピンに置換し徐々に減量していく。時には治療困難な薬物依存者の治療に、フルマゼニルを用いた迅速な解毒入院を用いることができる[20]。
意識障害回復の可否
また、1999年に遷延性意識障害となった人へ投与したところ意識が一時的に回復(その後薬の効果が無くなると共に昏睡状態に戻る)したことから、現在その効果についての臨床試験が行われており、一部の被験者には実際に効果が出ている報告も上がっている。
60人の被験者にて調査したところそのような効果は確認できなかった[21]。
脚注
参考文献
- テンプレート:PDFlink - (2011年4月5日 (JST) 閲覧)
関連項目
テンプレート:睡眠導入剤と鎮静剤
テンプレート:Pharm-stub
- ↑ 1.0 1.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 2.0 2.1 テンプレート:Cite press release
- ↑ 3.0 3.1 3.2 テンプレート:Cite web
- ↑ 4.0 4.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 5.0 5.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 6.0 6.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 7.0 7.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 8.0 8.1 テンプレート:Cite report
- ↑ テンプレート:Cite report
- ↑ 10.0 10.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 11.0 11.1 11.2 11.3 11.4 テンプレート:PDFlink
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- ↑ テンプレート:Cite journal
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