ジャック・ルノ
テンプレート:Portal クラシック音楽 ジャック・ルノ(Jacques Lenot, 1945年 - )はフランスの作曲家。
基本的には独学だが、マウリツィオ・カーゲル、シルヴァーノ・ブッソッティ、カールハインツ・シュトックハウゼン、フランコ・ドナトーニのマスタークラス等を受講した後、オリヴィエ・メシアンの推挙でロワイアンフェスティバルで1968年にデビュー。「ドナトーニとの出会いが作風を決定的にした」と語る彼は、現在でもエクリチュールの完成度を追究する硬派の作曲家である。ピアノ独奏作品からオペラまで幅広いジャンルで作品を生み出しており、近年の創作力の充実振りが著しい。
独奏作品では単一の音価の急速な連続によるすがすがしさが特徴であり、ピアノ独奏の為の「12の練習曲」の第5番が典型例とみなせる。室内楽作品では複数の楽器に非合理時価を割り当てた巧妙なリズム語法が聞き物である。演奏の困難度はデビュー当初から有名であり、未初演の作品が四分の一以上に及ぶ点がこれを裏付ける。音色のバランスが如何なる時にも崩れない点に、フランスの伝統美を見出す聴衆も多いことであろう。スペクトル楽派のように未聴感を追究するわけではなく、一つの素材のヴァリエーションに造形感覚を与える点が、ドナトーニの剥き出しの粗さとは異なっている。
1992年のメシアン没後、既存の出版社との契約はほぼ全て打ち切り、自社レーベルを立ち上げた。この背景には、作品の純度を求める余りフランスの楽壇から遠のいたことや、演奏の困難度のために多くの演奏家が離れたことも影響している。しかし、この選択は彼にとって賢明であった。作曲から18年間演奏されることのなかったピアノ独奏の為の「六つの最初の練習曲」はフランスで彗星のようにデビューしたウィンストン・チョイによって、ほぼ完璧な演奏が成された。「弦楽四重奏曲第二番」はロザムンデ弦楽四重奏団により、これも素晴らしい演奏が達成されている。以前のルノ作品について回った「フランス版ドナトーニ」という汚名は、近年の演奏家の水準の向上によって、返上されつつある。
フランスの作曲家は権力に迎合する者と孤高を貫く者がどの時代にも同じ割合で見受けられるが、独学を選んだ彼はいつまでも後者である。2007年にはオペラの上演が予定されているが、初演はパリではなくジュネーヴで行われる。