シヴァ
シヴァ(शिव, Śiva)は、ヒンドゥー教の3最高神の一柱。創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌに対してシヴァ神は破壊を司る。シヴァ神を信仰する派をシヴァ教という[1]。
日本では慣用的にシバともいう。
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概要
ヴェーダ神話に登場する暴風雨神ルドラを前身とし、『リグ・ヴェーダ』では、「シヴァ」はルドラの別名として現われている。暴風雨は、破壊的な風水害ももたらすが、同時に土地に水をもたらして植物を育てるという二面性がある。このような災いと恩恵を共にもたらす性格は、後のシヴァにも受け継がれている。
ヒンドゥー教の三神一体(トリムールティ)論では、3つの重要な神の1人として扱われ、世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目をしている。
シヴァの妻はパールヴァティーで、その間の子供がガネーシャ(歓喜天)である。軍神スカンダ(韋駄天)は、シヴァの精をアグニやガンガーに媒介させてもうけた子である。
また、シヴァ神の乗物はナンディンと呼ばれる牛で、ナンディンも神として崇拝されている。通常、シヴァの寺院の前にはナンディンが祭られている。
姿
シヴァの姿が人間的に描かれる時には、皮膚の色は青黒い色で、三日月の髪飾りをした髪の毛は長く頭の上に巻いてあり、裸に短い腰巻だけを纏った苦行者の姿で、片手に先が3つに分かれた「トリシューラ」と呼ばれる鉾を持っている。「ピナーカ」と呼ばれる弓を持つ場合もあるが、しばしばトリシューラと混同されている。別の腕には、ダムルーと呼ばれるワンハンドサイズの両面太鼓を持つ。首に蛇を巻いている姿でも描かれる。両目の間には第3の目が開いており、彼が怒る時には激しい炎(パスパタという投げ槍として現す事も)が出て来て全てを焼き尽くすとされる。額には白く横に3本の線が描かれる。腰巻は多くの場合虎の皮で描かれる。四面四臂の姿でも描かれる。
頭頂部からは小さな噴水の様に水が吹き出しており、絵画で描かれる場合には頭髪の中ではガンガー女神が口から水を噴出しているものも多い。これはヒマラヤ山脈におけるガンジス川の始まりの水を示す。また、首を持ち上げたコブラとともに描かれる。
ヒマラヤのカイラーサ山がシヴァの住いで、瞑想に励んでいるとも言われる。サドゥと呼ばれるヒンドゥー教の修行者の一部、特にヒマラヤ周辺の修行者は、上のシヴァの姿に良く似た姿をしている。
シヴァが第3の目を得た理由についてはこんな逸話がある。シヴァの瞑想中に、彼がかまってくれないので退屈したパールヴァティーが両手で彼の両目を塞いだ所、たちまち世界が闇に包まれた。すると、シヴァの額に第3の目が現れ、そこから炎が噴出されてヒマラヤの山々を燃やし、世界を再び明るくしたという。
異名
シヴァは教学上は破壊神であるが、民間信仰ではそれにとどまらない様々な性格を持ち、それに従って様々な異名を持つ。
マハーカーラ(大いなる暗黒)とも呼ばれ、世界を破壊するときに恐ろしい黒い姿で現れるという。マハーカーラは漢訳仏典では大黒天と意訳される。日本では神道の大国主の「大国」が「ダイコク」とも読める事から同一視され、七福神の1人として、シヴァの名前を使っていないが日本ではなじみ深い神である。 ピナーカを保持していることから「ピナーカパーニ」(ピナーカを持ちし者)と言う呼び名も持つ。
またマヘーシュヴァラ(テンプレート:IAST)とも呼ばれ、漢訳仏典では大自在天あるいは摩醯首羅と訳される。降三世明王の仏像は足下にシヴァとパールヴァティーを踏みつけた姿で刻まれるのが一般的である(詳細は降三世明王を参照)。
ナタラージャ(踊りの王)とも呼ばれ、丸い炎の中で片足をあげて踊っている姿の彫像で描かれる。
乳海攪拌の折にマンダラ山を回す綱となった大蛇ヴァースキが、苦しむあまり猛毒(ハラーハラ)を吐き出して世界が滅びかかったため、シヴァ神が毒を飲み干し、その際に喉が青くなったため、ニーラカンタ(青い喉)(テンプレート:IAST)とも呼ばれる。
また、「金で出来た都市」、「銀で出来た都市」、「鉄でできた都市」の3つの悪魔の都市をトリシューラで焼き尽くしたので、三都破壊者とも呼ばれる。
ハラとも呼ばれ、ハリと呼ばれるヴィシュヌに対応する。
その他、バイラヴァ(恐怖すべき者)、ガンガーダラ(ガンジスを支える神)、シャルベーシャ(有翼の獅子)、パシュパティ(獣の王)、マハーデーヴァ(偉大なる神)、シャンカラ、等などと呼ばれ、その名は1,000を超える。
シヴァの妃
シヴァ神の信仰を語るには、その妻たちの存在は欠かせない。シヴァ神妃たちはシヴァ神の最初の妻サティーが死亡した際、それを嘆き悲しんだシヴァは、彼女の体を抱き上げて都市を破壊しながら世界を放浪した。それを見かねたヴィシュヌ神がチャクラでサティーの死骸を切り刻み、シヴァを正気に戻した。そのとき、世界にサティーの肉片が飛び散り、落ちた地がシヴァの聖地となり、肉片はそれぞれシヴァの妃としてよみがえったとされる。シヴァ神の妃は正妻は、前述のようにパールヴァティー神が位置づけられているが、その他にも数百の妃が存在すると言われる。古い時代に見られたシヴァ神の暴力性や破壊性は、シヴァ神の異名や神妃たちに吸収され、ドゥルガーやカーリーのような破壊衝動の激しい女神となった。シヴァの神妃の中でも正妻に位置づけられるパールヴァティ自身がサティーの転生とされる事から、数百に上るシヴァの神妃たちのすべてがパールヴァティのそれぞれの一面を示すものだとも解釈が可能である。こうしたシヴァ神妃たちは、ヒンドゥー教が拡大する過程で、各地の土着の女神信仰を吸収するために多くの女神たちにシヴァの妃の地位を与えるための解釈と考えられる。
主なシヴァ神妃
- サティー
- パールヴァティ女神
- ドゥルガー女神 アスラの王によってマヒシャによって天界が占領された時、神々の怒りの炎から出現した女神。十本の腕を持つ姿で描かれる。
- カーリー女神 アスラと戦うドゥルガー女神の憤怒から生まれた女神 十本の腕と真っ黒でやせ細った体、生首のネックレスをした姿で描かれる
シヴァリンガ
ヒンドゥー教のシヴァの寺院では、上の姿ではなく神体としてシヴァリンガがシンボルとして安置されており、それが礼拝の対象になっている。シヴァリンガは、リンガとヨーニの2つの部分からなり、内側が受け皿状の円形または方形のテーブルの横に油が流れ出る腕が付いているヨーニの中心部に、リンガと呼ばれる先の丸い円柱が立っている。
ヨーニは女性器の象徴で、リンガは男性器の象徴であり、性交した状態を示す。ただし、我々は性交しているシヴァを女性器の内側から見ている形になっている。これは、シヴァ神が女性と性交をして現われたのがこの世界で、それが我々の住んでいる世界という意味になっている。
リンガは半貴石を使って作られることが多い。新しい寺院では黒い石を使うことが多いが、古い寺院では赤黒い石を使ったり、白い石を使ったものもある。ヨーニは普通の岩であることが多い。個人が寺院以外の場所で礼拝する際には砂や土を盛り上げて作ることが多い。
ギャラリー
- Shiva and Uma 14th century.jpg
シヴァとその妻ウマー(パールヴァティー)14世紀作品
- Statuette of dancing Shiva, the Nataraja.jpg
ナタラージャ(踊りの王)