コホート研究

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コホート研究こほーとけんきゅう、cohort study)とは分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。要因対照研究(factor-control study)とも呼ばれる。

ある基盤(地域、職業など)を元に行なう研究では実験的な介入は行なわない。主に一回の調査を行なう「横断研究」と、二回以上にわたり調査を行なう「縦断研究」があり、後者の中で特に最初の調査の対象者集団をコホートと呼ぶ。コホート研究はこの集団を前向きに追跡しているので、曝露から疾病発生までの過程を時間を追って観察することができる。したがって、疾病の自然史を調べることができる、観察の時間的な順序や論理の流れが実験に近い、複数の疾病についての調査が可能である(特定の曝露の広範な健康影響を調べることができる)、という利点がある一方で、対象としている疾病の発生が稀である場合には、大規模なコホートを長期間追跡する必要があり、時間とコストがかかるという欠点がある(→下記の「利点と欠点」の項目を参照のこと)。

薬剤疫学・産業疫学などで、過去の曝露状況が記録として残っている場合には(診療記録、職業コホートなど)、過去にさかのぼって、コホート研究の情報を得ることができる。時間的な順序は逆転するが、この情報を使って、通常のコホート研究と同じように曝露状況と疾病の発生の関連を調べる研究方法を後ろ向きコホート研究(historical cohort study)という。

観察の対象となる集団は必ずしも人間ではなく、例えばある物質を与えたマウスと与えないマウスの間での発生率を調べるような研究もコホート研究と呼ばれる。

代表的なコホート研究

以下に代表的なコホート研究をあげる.

原爆被爆者における健康影響調査

原爆被爆者寿命調査、成人健康調査など[1]

喫煙や食習慣などの生活習慣とがん死亡などの関連を検討するための大規模計画調査(いわゆる「久山町研究」)

通常は「久山町研究」とよばれる。福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象に脳卒中、心血管疾患などの疫学調査を九州大学が1961年から実施しているもの。世界的に高く評価された精度の高い研究である。開始したのは九州大学教授勝木司馬之助である。追跡率は99%以上であり,全町民の詳細で長期間な研究は,世界でも例を見ないコホート研究である。 テンプレート:See also

国立がんセンター多目的コホート調査・文部科学省コホート調査

  • 放射線作業者のがん死亡追跡調査
  • 低周波電磁界と小児がんリスクの関連に関する調査
  • 高周波電磁界と脳腫瘍の関連に関する国際調査

低レベルの職業・環境曝露に伴うリスク評価の一環として国の援助の基に研究[2]

フラミンガム研究

米国NHIが米国北部のマサシューセッツ州フラミンガム町(住民28000人)で行っているコホート研究.1961年から開始している.[3]

利点と欠点

コホート研究はしばしば症例対照研究と対比される。コホート研究はこれから起きる未来の事象を追跡し解析するのに対し、症例対照研究は全て起こってしまった過去のことを解析するものである。症例対照研究と比較した場合のコホート研究の利点と欠点を以下に記す。

利点

  • 危険因子の寄与危険度がわかる
  • 事象の発生順序がわかる
  • 複数の結果因子が同時に調べられる
  • 予測因子の測定バイアスが少ない(間違った結論を導きにくい)

欠点

  • 稀な疾患に不向き
  • 研究の時間と費用がかかる(そのため頻繁には行えない)
  • 多数の脱落がないように追跡しなければならない

関連項目

参考文献

  1. 第19期日本学術会議 予防医学研究連絡委員会報告 衛生学・公衆衛生学の将来展望 「がんの予防」秋葉 澄伯(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  2. 第19期日本学術会議 予防医学研究連絡委員会報告 衛生学・公衆衛生学の将来展望 「がんの予防」秋葉 澄伯(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  3. 嶋 康晃 世界の心臓を救った町―フラミンガム研究の55年 ライフサイエンス出版 2011

青山英康 監修「今日の疫学」第2版、真興社、2005年、ISBN 4-260-10637-6


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