ゲーム理論
テンプレート:経済学のサイドバー ゲーム理論(ゲームりろん、テンプレート:Lang-en-short)は戦略的意思決定に関する理論であり、より一般的には「合理的な意思決定者間の紛争と協力の数理モデル」を研究する応用数学の一分野である[1][2]。
概要
ゲーム理論の始まりはエルンスト・ツェルメロによる集合論によるボードゲームのチェスの分析に始まる。さらに、エミール・ボレルもフォン・ノイマンに先駆けてゼロ和2人ゲームを研究していた。ゲーム理論の発展に最初の飛躍をもたらしたフォン・ノイマンはゲーム理論の枠組みを以下のように体系化し、さらにそれらについてWell-definedな数学的意味づけを与えた。
- ゲームを支配するルール
- ゲームにおける目的達成に向けた行動(戦略)の意思決定を行う主体(プレイヤー)
- プレイヤーの選択可能な行動(戦略)
- プレイヤーの意思決定を左右する情報
以下は上記の体系化されたゲーム理論の数学的意味づけである(各要素は前述の4つの定義に対応している)。ゲーム理論で扱われる対象は現在でも以下意味付けがWell-definedであることを前提としていることが多い。
- プレイヤー及びゲーム全体の制約条件
- プレイヤーの集合
- 各プレイヤーのとりうる行動の集合
- 各プレイヤーの行動の関数となる利得集合
例えば、チェスのようなゲームならば、対局する2名のプレイヤーがおり、各プレイヤーは盤上の駒がとることのできる全ての動きを計算可能で、かつ双方とも盤上の駒の配置情報を全て知ることが可能な環境にあり、偶発的な事象は起こりえない。以上がルールとして特徴付けられることになる。
ゲーム理論の分析は、基本的にこのような戦略的な状況における未来の行動を予測したり、過去の行動を客観的に評価することを目的としている。つまりゲーム理論とは、あるルールのもとで各プレイヤーがとると考えられる最適な行動の組合せの解を求めることである。
ゲーム理論の分析では、各プレイヤーの行動が相互の利害に影響することを考慮しなければならない。つまり、プレイヤーAはある行動を選択する前に、自分の利益を最大にするためには相手のプレイヤーBが敵対的な行動に出ることを考慮しなければならない。
ゲーム理論にはいくつかの主要な分類があり、以下はその一例である。
- プレイヤー間の関係を表現する用語として各プレイヤーが相談することなく自己決定のみによって行動する非協力ゲーム(non-cooperative game)と互いに相談を通じて行動を規制しあう協力ゲーム(cooperative game)
- プレイヤーが行動を一回だけ選択して終了する一段階ゲーム(one-stage game)と複数の段階にわたって選択がなされる多段階ゲーム(multi-stage game)
- ゲームにおいて全ての一連の行動を戦略と呼ぶが、プレイヤーが採る戦略の数が有限である有限ゲームと戦略が有限とは言い切れない無限ゲーム
- 情報を参照することが可能である完全情報ゲーム、情報を参照することが可能とは言い切れない不完全情報ゲーム
ゲーム理論はこのような表現方法でプレイヤー間の情報構造や意思決定、利害関係、協力関係を数学的に表現することを可能としている。
研究史
紛争や対立における戦略的局面を数学的に解析しようとする試みは19世紀以前より行われていたが、それらの考えを体系的に整理した人物として測度論の権威であったエミール・ボレルが知られている。フォン・ノイマンはそれらの試みにさらなる理論的意味付けを与え、理論体系を構築し1928年に『ゲーム理論(Zur Theorie der Gesellschaftsspiele)」を、1937年に『均斉成長経路の定式化とブラウワーの定理の一般化(Über ein ökonomisches Gleichungssystem und eine Verallgemeinerung des Brouwerschen Fixpunksatzes)』発表した。これらの論文には「対象モデルをコンパクト凸集合として扱い、それに対してブラウワーの不動点定理を適用する」という現在のゲーム理論における主流ともいえる手法がすでに用いられていた。1928年の『ゲーム理論』でミニマックス定理の証明がなされたことでゲーム理論の応用数学としての枠組みが明確化されるようになった。しかしながらこれらの論文は不動点定理を経済学の均衡問題に適用すると言う面での新しさはあったものの数学的には目新しい要素はなく、理論の適用対象となるモデルも限定されており、かつ用途も分かりにくいものであったため、大きく取り上げられることはなかった。
ノイマンはこの後、経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンと共にゲーム理論を経済学の世界へと持ち込み、1944年に『ゲーム理論と経済行動(Theory of Games and Economic Behavior)』を共著で発表した。この論文では経済的に紛争状態にある諸主体とその利害関係、不完全情報、合理的決定、偶然などの因子の存在についての分析から開始され、実際的な情勢は理論的に定式化できるゲームにモデル化されている。この活動はジョン・ナッシュ、ラインハルト・ゼルテン、ジョン・ハーサニ、ロバート・オーマン、トーマス・シェリング、ロイド・シャープレー、ジョン・メイナード=スミスなど、数学的慧眼を持つ若者達を引きつけ、ゲーム理論は学問の世界で次第に広がった。
20世紀半ばのゲーム理論研究の中心地は1948年に米空軍の研究機関として創設されたランド研究所であった。ランド研究所ではゲーム理論に力学系や集合論、離散数学、組合せ最適化等の手法を取り入れる試みが行われ、これらによってゲーム理論は飛躍的な発展を遂げた。
後にリーマン多様体の研究に関して大きな功績を残す数学者ジョン・ナッシュはプリンストン大学の博士課程在学中にゲーム理論に関心を寄せ、非ゼロ和ゲームについて研究を行った。ナッシュは角谷の不動点定理を一般化しn人有限ゲームには最低でも一つの均衡点、つまりプレーヤーが相互に最適な戦略を取り合って手を変えない状態(ナッシュ均衡)が存在することを証明した。これは非零和ゲームに均衡点が存在することを明らかにした意味で画期的な発見であった。
1950年代にはハロルド・クーンらによって完全情報や行動戦略などの概念が定義され、完全情報ゲームにおける均衡点の存在と完全情報ゲームでの行動戦略と混合戦略が同値であることが証明された。また協力ゲームにおける安定集合の存在を踏まえてロイド・シャープレーによって一般n人協力ゲームにおける代表的な解であるシャープレイ値が明らかにされた。
1950年、アメリカ合衆国ランド研究所のメリル・フラッドは人間の不合理性をゲーム理論の方法で解明する研究を進め、ナッシュの均衡理論に反するような不合理な行動に着目した。ナッシュ均衡点の解とは後からゲームを振り返って双方が自分の戦略に満足できる選択肢の組合せであったが、フラッドはメルヴィン・ドレッシャーと共同して現実の人間の行動を観察する実験研究を行った。そしてフラッド・ドレッシャー実験の結果から被験者がナッシュ均衡点である行動がむしろ稀であることを報告した。同じくランド研究所の顧問であったアルバート・タッカーはこの実験結果を紹介するために、よく知られている囚人のジレンマの物語を作り上げた。囚人のジレンマでは全体の利得に反して個々人の利得を最大化せざるをえないことを示唆していた。同時にこれはゲーム理論が単一のミニマックス、ナッシュ均衡に基づいて戦略を立案する合理的プレーヤーの存在について見直しを要請する結果でもあった。
ゲーム理論の応用
現在のゲーム理論は純粋数学としての解析的研究のみに留まらず、生物学(進化的に安定な戦略)や工学といった自然科学はもちろんのこと、経済学、経営学、心理学、社会学、政治学など社会科学への応用も多く見られ、特に経済学において大きな成功をおさめている。
ゲーム理論を駆使することでノーベル経済学賞を受賞した学者や候補と目される学者は少なくない(1994年:ジョン・F・ナッシュ、ラインハルト・ゼルテン、ジョン・C・ハーサニーの3名、2005年:ロバート・オーマンとトーマス・シェリングの2名)。また、ゲーム理論に強い影響を受けた情報の非対称性をもつ市場分析によって、ジョージ・アカロフ、マイケル・スペンス、ジョセフ・スティグリッツの3名が2001年に経済学賞を受賞した。
経済学への影響
以前のミクロ経済学においては、他の経済主体の行動が自分の利得に影響を与えることはなかった。しかし、現実の経済現象においては、例えばライバル企業の動向が自社の利益を左右するように、自分の利得が他の経済主体の行動に影響を受けていると考えるのが自然である。このとき、自分の最適な行動は他者の行動によって変わり、他者にとって最適な行動は自分の行動により変わる。このように、最適な戦略が相互に依存し、相手の戦略を読み合う必要が生じるような状況をゲーム理論は分析対象としている。
最適な戦略が相互に依存し合う状況は多く見られ、ミクロ経済学だけではなく他の経済学の分野、さらには政治学や心理学、生物学においてもゲーム理論は応用されている。
脚注
- ↑ ロジャー・マイヤーソン Game Theory: Analysis of Conflict Harvard University Press, p. 1. Chapter-preview links, pp. vii–xi.
- ↑ ロバート・オーマン The New Palgrave Dictionary of Economics, 2nd Edition. Abstract.
参考文献
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関連項目
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外部リンク