カワサキ・ZZR1100
カワサキ・ZZR1100(ゼットゼットアールせんひゃく)は、川崎重工業が1989年の東京モーターショーで発表し、1990年から市販されたZZRシリーズの大型自動二輪車(オートバイ)である。北米名はニンジャZX-11である。
目次
概要
ツアラー然とした地味な外観もあり当初はあまり注目を集めることはなかったが、二輪雑誌などの各種性能テストで類まれな高性能を発揮したことから人気を博した。特に最高速度は290km/h前後に達し、1990年以降、1996年にホンダからCBR1100XXが発売されるまでの長きに渡って世界最速の市販車の座を維持し続けた。
最高速度の秘密は、第一に極めて空気抵抗が少ないカウリング(400ccのオートバイと同程度)を採用したこと、第二に同クラスの市販車としては初めてラム圧過給機構を採用したことにある。このラム圧過給とは、車体の進行方向に向けて空気吸入口を設け、速度の上昇に伴う走行風によりエアボックス内を加圧することによって、自然吸気(NA)でありながら過給器と類似の効果を求める仕組みである。ZZR1100では最高速付近でカタログデータより約5%~10%ほど実出力を高めることに成功している。
初期モデルのC型は1990年から1993年まで生産され、1993年からモデルチェンジしたD型に移行し、D型は2003年で生産を終了した。 当初は最高速度ばかりのバイクと思われていたが、大型バイクとしての重さを感じさせない軽快なハンドリングや、穏やかな低回転域のエンジン特性などにより車格を感じさせない扱いやすさも評価され、ツーリングにも使えるマルチなバイクとして長岐に渡り人気を呼んだ。
開発当初ZX-10を越えるものということでZX-11の開発をスタート。「ZZR」の名称はこのモデルから始まり、北米だけ“ZX-○○”というかたちの名称を継承する。この“ZX-○○”は、統一されたモデルの名称としてはZX-12Rまで使われなかった。
排気量1052cc、エンジン出力147hp(静止時)、輸出専用車。なお、仕向け地によりエンジンの仕様は多岐に渡るので、購入時には確認することをお勧めする。確認方法は、フレーム番号をカワサキお客様相談室で問い合わせすると当該仕向け地を知ることができる。フルパワーが確認されているのは、以下となる。欧州一般仕様、ギリシャ仕様、オランダ仕様、イタリア仕様、ノルウェー仕様、スペイン仕様、デンマーク仕様、南アフリカ仕様、オーストラリア仕様、北米仕様(除くカリフォルニア州)など。逆にパワー規制が明確な仕向け地は、フランス仕様(106PS)、ドイツ仕様(100PS)、フィンランド仕様(72PS)、イギリス仕様(125PS)、北米(カリフォルニア州)仕様(馬力不明)
沿革
C1
- 1989年の東京モーターショーで発表、1990年に販売。
- 車体前面のラム圧ダクトのネットカバーが平面。
- 一部の最初期型はエキゾーストエンドの形状がその後と異なる。
- 市販車テストで各種のレコードを記録した。
- 乾燥重量228kg
C2
- 1991年。C1での好成績を受け人気が沸騰。プレミアムが生じ、日本国内の逆輸入価格が一時180万円まで高騰。
- ラム圧ダクトのネットカバーが防塵効果を高めるため曲面に。
- キャブレターへのラム圧過給装置が若干の変更。
- ハブダンパーの耐久性不足に若干の対策を加えた。
- キャブレターセッティングを変更。
C3
- 1992年。日本国内(明石工場)でのC型の製造はこれが最後。
- GPz900R以来変更を受けていなかったトランスミッションをより大きな負荷に耐えられるよう改良。
C4
- 1993年。米国(リンカーン工場)だけで生産されたため北米仕様のみ。
- 基本的にC3と同じだが、D1と同じトランスミッションを持つ。D1と併売されたモデル。
D1
- 1993年。大幅なモデルチェンジを受け、デザインや車体などを全面的に変更したもの。
- 基本性能はC型と変わらず。
- アウトプットシャフトが長くなり、ドライブスプロケットがGPz900Rと同じ、オフセット0のものになる。
- C型で頻発したトランスミッショントラブルの対策としてドッグの形状やギヤ比などをさらに変更。
- ラム圧機構に大幅な変更が加えられた。吸気口が二つになった他、エアボックスの容量拡大、エアフィルタの面積拡大など。
- 燃料タンクの容量拡大(21L→24L)、燃料計の追加。余談だが実測にて25L入ったという実例もある、C型ではリザーブの切り替えがなかった(警告灯2個が点灯するのみ)。リザーブ時給油すると18L入るので、7Lの予備タンク容量となる。
- 乾燥重量やや増加(233kg)。快適性を重視してC/D値(前面投影面積)が増加したことと相まって最高速度がやや低下したと言われるが、もっともこれは後述のタイヤサイズ変更による最終減速比の変化も考慮すべき事柄である。
- クランクシャフトやピストン形状が耐久性を重視した変更を受けた他、排ガス対策のため、排気ポートに新気導入装置が全仕様に導入された。(C型はカルフォルニア仕様のみ)
- シリンダヘッドのカムジャーナル部分のオイル穴が○から楕円状になって潤滑性をあげている。
- リヤタイヤのサイズが170/60-17から180/55-17へ変更される、ホイールサイズは同じ5.50in。
- フレームに関して、C型は先代モデルであるZX-10と同形式の押出し式であるが、D型は強度分布を管理しやすいプレスによる合わせ式となった、これは同世代のZX-R750と同一手法である。
- ブレーキに関して、フロントディスクは310mmから320mmへと大径化、穴のパターンが左右対称になる事により左右共通部品となる、このディスク板は、同世代のZX-R750・ZX-9R等と共通部品、リヤはキャリパーが片押し2ポッドから対向ピストン(2ポッド)となる。
- その他車体周りでは、ステムシャフト部の強度向上(倒立フォークであるZX-750と同サイズのベアリング採用)、アクスルシャフトの大径化、これらにより乗り心地はC型よりもゴツい印象となった。
D2
D3
- ヨーロッパにて(当時)施行される87/56セカンドステージ(騒音対策)に対応し、マイナーチェンジが実施された。
- エキゾーストパイプの集合部からサイレンサーまでの内部側に3重構造の吸音材の追加
- エアクリーナーの構造変更
- スプロケットを45Tから44Tへ変更
- ツイントリップメーターを廃止し、デジタル時計に変更
- ミッション内のスプリング変更によるシフトフィールの向上
- 北米・カナダ仕様については、スプロケットは45Tのままである。
D4
D5
- ラム圧ダクトにエアチャンバーが追加。
D6
D7
- フレーム色がこれまでのD1~D6とは違いブラック色となる。
D8
D9
G1
- 排気ガス対策で触媒を装着。ドイツ仕様車が中心であるが、その他の構造及び形状はD型に準じる。
エンジン
ZXT10CE
シリンダーは原型になったGPZシリーズに共通のスタッドボルトを使用せず、ウエットライナーでスリーブを直接冷却するという、他社ではあまり見られない構造を持つ。シリンダートップはクローズドデッキだが、ZZRではボアが76φと、既に極限近くまで拡大されているため、サイアミーズ構造で水密を保っている。シリンダーヘッドはZX-10にも採用されたダウンドラフト式の吸気機構を踏襲し、ピストンヘッドはバルブ挟み角が狭角になったこともあって、GPZに見られたペントルーフで高圧縮を狙うものではなく、燃焼効率を高め、効率よく爆圧を受け止められるフラットな形状に改められた。バルブはロッカーアームを介して駆動されるが、GPZとは異なりロッカーアームはバルブごとに独立し、慣性重量を低減することで高回転時の追従性を高めている。元々1983年に発表された水冷第一世代である、GPZ900R系の古いエンジンレイアウトを用いている都合上、大きく重いクランクケース周りなどに技術的制約が多く、その後の飛躍的な性能向上は望めないという難点も抱えていた。
水冷4気筒DOHC16バルブ1052cc、最高出力147ps/108kW(10500rpm)(フルパワー仕様)
各種対策・リコール
ZZR1100は純粋な輸出専用車であるため、メーカーは製造物責任を負わない。よって下記はリコールとして正式に届けられたものではないことに注意。
- C型ドライブスプロケットワッシャー(対策済み車両にはフレームにステッカーを貼る)
- C型リヤブレーキホースガイド
製造後、かなり時間が経ており、カワサキモータースジャパンより燃料ホースキットが出ている。これは定期交換推奨部品という位置付けで、燃料ラインのゴムホースが経年劣化し最悪燃料漏れを起こす恐れがあるためである。この燃料ホース類は車検時の点検項目にあり、使用者が定期点検を実施すべき事項である。(タイヤと同じ) D1~D2のメーターステーが振動により折れる。D3以降は補強されている