イエスタデイ・アンド・トゥデイ

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イエスタデイ・アンド・トゥデイ』("Yesterday" ... and Today) は、1966年6月にアメリカ合衆国で発売されたビートルズ11作目のアルバムである。

解説

『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』は米キャピトル・レコードの編集アルバムである。ビートルズ・オリジナル・アルバムの『4人はアイドル』、『ラバー・ソウル』、『リボルバー』の各アルバムの収録曲の一部に、シングルとして発表された「恋を抱きしめよう」、「デイ・トリッパー」の2曲を加えて編集されたものである。この年にビートルズは最後のアメリカ・ツアーを行っているが、このアルバムについて、アメリカのプレスからインタヴューを受けたジョージ・ハリスンは、「我々は、『イエスタディ・アンド・トゥデイ』というアルバムはリリースしていない」と皮肉交じりで応えている。

なお米キャピトル盤の本作には「アイム・オンリー・スリーピング」や「恋を抱きしめよう」、「デイ・トリッパー」などに英国とは別のミキシング・ヴァージョンを用いているが、日本盤は米キャピトル盤とは異なり、オーダーをそのままに英国のマスター・テープを並べ替えて編集したものである。

『ビルボード』誌アルバム・チャートでは、5週連続第1位を獲得し、年間ランキング17位を記録している。『キャッシュボックス』誌では、2週第1位を獲得し、1966年度年間ランキング46位だった。アメリカだけで200万枚以上のセールスを記録している。

ブッチャー・カバー

『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』のオリジナル・ジャケットの写真は、白衣を着たビートルズの4人がバラバラになった赤ん坊の人形と肉片を持って笑っているものであった。ビートルズがキャピトルにこのジャケット写真を提供した理由は「自分たちのオリジナリティを無視して複数のアルバムから曲を寄せ集め(以前には英国未発表の作品が米国で先にリリースされたケースもあった)、1枚のアルバムとして発売していた当時の米国キャピトル・レコードの姿勢に抗議したいから」であったとかつて言われていたが、実際には「ポップ・スターのアルバムジャケットの常識を破りたい」という意図を持ったイギリス人カメラマン、ロバート・ウィテカー[1]の発案によるものである[2][3]。このフォト・セッションは、1966年3月25日に行われた。ジョンとポールはウィテカーのアイディアを聞いて熱烈に支持を表明したが、ジョージは悪趣味さに閉口し、リンゴは乗り気ではなかった[3]。実際は、メンバー自身もこの写真に乗り気でなかったと「アンソロジー」本で語っている。

ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインは、ビートルズとウィテカーがエプスタインのオフィスで初対面した同年3月23日にポートレートとして撮影された、トランクを囲んでメンバーが並んでいる写真を(後に「トランク・カバー」と呼ばれる。後述)本アルバムのジャケットとしてアメリカに送るつもりでいた[2]。「レイン」と「ペイパーバック・ライター」のプロモーション・フィルム撮影の際に、エプスタインがトランク・カバーの見本刷りらしき写真を見ている写真が、トランク・カバーが当初決定していたことの証拠であるという[2]。また、エプスタインは、フォト・セッションにおける写真を見て「大事なビートルズに肉屋の格好をさせられるか」と激怒し、写真を破棄しようとした[3]。しかし、ジョンとポールがフォト・セッションで撮影した写真の使用を強硬に主張したために、エプスタインは二人の意見を入れて変更することとなった[3]

しかし発売直前になって、キャピトル・レコードのセールスマンやレコード販売店から「こんなグロテスクなジャケットは売りたくない」という苦情が殺到し、キャピトル・レコードは発売日5日前の1966年6月10日に急遽、アルバムの回収を全米の販売店に通知する事態に陥った[2]。結果、ジャケット・デザインは当初予定されていたというトランクと4人が写っている写真に変更された[2]。オリジナル・ジャケットはその後「ブッチャー・カバー[1]」と呼ばれるようになり、変更後のデザインはブッチャー・カバーと区別するため「トランク・カバー」と呼ばれている。回収が間に合わず、ごく少数出回ったブッチャー・カバー『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』は現在高価なコレクターズ・アイテムとなっている[4]

販売会社在庫の未販売ブッチャー・カバー・ジャケットの『イエスタデイ・アンド・トゥデイ』は、その上からトランク・カバーを貼り付けて出荷された。これを湯気を当てて慎重に剥がしたものは「ピールド・カバー」と呼ばれている。ブッチャー・カバーほどではないがこちらも希少価値はあり高価で取引されている。なおブッチャー・カバーに使用された写真は後に『レアリティーズ Vol.2』のインナーに使用された。

サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』以降のビートルズのアルバムが、イギリス発売と同じ内容で米国でも発売されるようになったの[5]は、この一連の騒動が端緒となっている。

収録曲

アナログA面

  1. ドライヴ・マイ・カー - Drive My Car
    演奏時間:(2'30")、リード・ヴォーカル:ポール・マッカートニー
    アルバム『ラバー・ソウル』からの収録。
  2. アイム・オンリー・スリーピング - I'm Only Sleeping (Lennon - McCartney)
    演奏時間:(3'01")、リード・ヴォーカル:ジョン・レノン
    英国に先がけてリリースされた楽曲である。オリジナルはアルバム『リボルバー』に収録された。
    米キャピトル・ステレオ盤は間奏部の逆回転ギターのミキシングが異なる。
    米キャピトル・モノラル盤は一部逆回転ギターのミキシングが異なる。
  3. ひとりぼっちのあいつ - Nowhere Man
    演奏時間:(2'45")、リード・ヴォーカル:ジョン・レノン
    アルバム『ラバー・ソウル』からの収録。
  4. ドクター・ロバート - Doctor Robert (Lennon - McCartney)
    演奏時間:(2'15")、リード・ヴォーカル:ジョン・レノン
    英国に先がけてリリースされた楽曲である。オリジナルはアルバム『リボルバー』に収録された。
    米キャピトル・モノラル盤はエンディングにジョンの"Okay fab"という声が入る。
  5. イエスタデイ - Yesterday (Lennon - McCartney)
    演奏時間:(2'08")、リード・ヴォーカル:ポール・マッカートニー
    アルバム『4人はアイドル』からの収録であるが、アメリカでは既発シングル曲であった。
  6. アクト・ナチュラリー - Act Naturally (Morrison - Russell)
    演奏時間:(2'33")、リード・ヴォーカル:リンゴ・スター
    アルバム『4人はアイドル』からの収録であるが、アメリカでは既発シングル曲であった。
    バック・オーウェンズのカヴァー曲。

アナログB面

  1. アンド・ユア・バード・キャン・シング - And Your Bird Can Sing (Lennon - McCartney)
    演奏時間:(2'01")、リード・ヴォーカル:ジョン・レノン
    英国に先がけてリリースされた楽曲である。オリジナルはアルバム『リボルバー』に収録された。
  2. 恋をするなら - If I Needed Someone (Harrison)
    演奏時間:(2'24")、リード・ヴォーカル:ジョージ・ハリスン
    アルバム『ラバー・ソウル』からの収録。
  3. 恋を抱きしめよう - We Can Work It Out (Lennon - McCartney)
    演奏時間:(2'15")、リード・ヴォーカル:ポール・マッカートニー
    既発シングル曲。
    米キャピトル・ステレオ盤は中間部のオルガンのミキシングが異なる。
  4. 消えた恋 - What Goes On (Lennon - McCartney - Starky)
    演奏時間:(2'51")、リード・ヴォーカル:リンゴ・スター
    アルバム『ラバー・ソウル』からの収録。
    本盤のタイトル表記には"What Goes On?"とクエスチョン・マークが入る。
  5. デイ・トリッパー - Day Tripper (Lennon - McCartney)
    演奏時間:(2'48")、リード・ヴォーカル:ジョン・レノン
    既発シングル曲。
    米キャピトル・ステレオ盤は冒頭のギターのミキシングが異なる。

脚注

  1. テンプレート:Cite web
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 第4章 ビートルズアメリカ盤最大の謎を解く!?、p.140-p.141.
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 朝日新聞どらく、エンタメ、『この日のビートルズ 甲虫日記』、2009年3月25日
  4. 女優藤田朋子は、1990年頃のテレビ探偵団で、26万円でオリジナル・ジャケットの本アルバムを購入したと語っている。
  5. ただし米キャピトル盤『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』にはサージェント・ペパー・インナー・グルーヴ は収録されなかった。

参考文献

  • 中山康樹小川隆夫著『ビートルズ アメリカ盤のすべて』、集英社インターナショナル、2004年 ISBN 4797671327
    • 第4章『ビートルズ・アメリカ盤最大の謎を解く!?』、Part1『伝説の"ブッチャー・カヴァー"の真実』、同書、p.140-P.141.

テンプレート:ビートルズのアルバム