原子力基本法
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原子力基本法(げんしりょくきほんほう、昭和30年12月19日法律第186号)は、原子力の研究、開発及び利用の促進に関して定めた日本の法律。
沿革
- 1955(昭和30)年12月に、中曽根康弘元首相らが中心となって法案を作成し、自民党と社会党の共同提案で成立した。科学者の国会といわれる日本学術会議が主張した「公開・民主・自主」の3原則が盛り込まれている。
- 1978(昭和53)年、原子力船むつの放射線漏れ事故(1974年)を受け、基本方針に「安全の確保を旨として」の文言を追加し、原子力安全委員会を創設した。
- 2012(平成24)年6月、福島第一原発事故(2011年)を受け、原子力規制委員会設置法が成立した。その法律の附則第12条で、原子力基本法が改正され、原子力規制委員会と原子力防災会議が設置され、原子力安全委員会が削除された。原子力委員会は温存された。と同時に、(基本方針)第二条に1項「原子力利用の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」を追加した。この追加条項は当時政権にいた民主党の提案であったが、「並びに我が国の安全保障」の文言の追加は自民党の主張であった。
- 2012(平成24)年6月(衆議院)、2013(平成25)年3月(参議院)、「原子力の利用を推進する」目的を持つ原子力基本法を廃止してそれに代わる基本法となるべく、それぞれに脱原発基本法案が議員立法で提案された[1][2]。
基本構造
- 第1条 - 目的
- 原子力の研究開発、利用の促進(エネルギー資源の確保、学術の進歩、産業の振興)をもって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与する。
- 第2条 - 原子力開発利用の基本方針
- 平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。(民主・自主・公開の平和利用3原則)
- 第3条 - 定義
- 「原子力」とは、原子核変換の過程において原子核から放出されるすべての種類のエネルギーをいう。
- 「核燃料物質」とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、政令で定めるものをいう。
- 「核原料物質」とは、ウラン鉱、トリウム鉱その他核燃料物質の原料となる物質であつて、政令で定めるものをいう。
- 「原子炉」とは、核燃料物質を燃料として使用する装置をいう。ただし、政令で定めるものを除く。
- 「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるものをいう。
- 第4,5,6条 - 推進体制
- 総理府に原子力委員会(推進)及び原子力安全委員会(安全規制)を設置し、運営を法律で定める。
- 第7条 - 開発機関
- 原子力に関する基礎的研究及び応用の研究、核燃料サイクルを確立するための技術開発、核燃料物質に関する技術開発等は、独立行政法人日本原子力研究開発機構において行う。
- 第8,9,10,11条 - 核原料物質の管理
- 鉱業法にウラン鉱、トリウム鉱を加え(鉱業法の一部を改正する法律 法律第百九十三号)鉱業権により試掘、採掘を規制する。また、核原料物質の輸入、輸出、譲渡、譲受け及び精錬は政府の指定する者に限つてこれを行わしめる。
- 第12,13条 - 核燃料物質の管理
- 核燃料物質の生産・輸入・輸出・所有・所持・譲渡・譲受け・使用・輸送を規制する。
- 第14,15,16条 - 原子炉の管理
- 原子炉の建設・改造・移動・譲渡・譲受けを規制する。また、原子炉の操作開始前に運転計画を定めて、政府の認可を受けなければならない。
- 第17,18条 - 知的財産の管理
- 特許法第九十三条を定める(特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる)。 また、原子力に関する特許発明、技術等の国外流出に係る契約の締結を規制する。
- 第20条 - 放射線障害の防止
- 放射性物質及び放射線発生装置に係る製造、販売、使用、測定等に対する規制その他保安及び保健上の措置を法律で定める。
- 第21条 - 補償
- 土地に関する権利、鉱業権又は租鉱権その他の権利に関し、権利者及び関係人に損失を与えた場合においては、正当な補償を行わなければならない。