単サイト近似
テンプレート:出典の明記 単サイト近似(たんサイトきんじ、テンプレート:Lang-en-short)または単一サイト近似とは、多重散乱理論における総散乱行列T において、ポテンシャルがランダムな場合に平均操作で行われる近似のこと。
詳細
ここでは、置換型の不規則二元合金を考え、格子の配置は周期的であるが、ポテンシャル(二元合金なのでポテンシャルは2種類ある)の配置がランダムであるとする。
多重散乱理論から、ここで総散乱行列T は、
- <math> T = \sum_n t_n + \sum_n t_n \tilde{G} \sum_{m \ne n} t_m + \sum_n t_n \tilde{G} \sum_{m \ne n} t_m \tilde{G} \sum_{p \ne m} t_p + \cdot \cdot \cdot </math>
である(→参照:多重散乱理論)。不規則二元合金では、2種類のポテンシャルをそれぞれA、Bとして、それに対応するt行列をtA、tBとする。従って、ポテンシャルがランダムに配置されている場合、上式の各項のt行列の和においてtA、tBがランダムに出てくることとなる。これをそのまま扱うことは現実には不可能で、何らかの平均化(平均操作)を行う必要がある。つまり、
- <math>\begin{align}T\quad\to\quad\langle T \rangle &= \left\langle \sum_n t_n + \sum_n t_n \tilde{G} \sum_{m \ne n} t_m + \sum_n t_n \tilde{G} \sum_{m \ne n} t_m \tilde{G} \sum_{p \ne m} t_p + \cdot \cdot \cdot \right\rangle \\
&= \sum_n \left\langle t_n \right\rangle + \sum_n \left\langle t_n \tilde{G} \sum_{m \ne n} t_m \right\rangle + \sum_n \left\langle t_n \tilde{G} \sum_{m \ne n} t_m \tilde{G} \sum_{p \ne m} t_p \right\rangle + \cdot \cdot \cdot \end{align} </math>
とする。< >は平均操作を意味する。ここで、上式最右辺の第三項に着目すると、これは3つのt行列の積の形となっている。そして、これにはtntmtn、tmtntmのような項が存在する。4次以上の項でも同様で、同一サイト同士の積が残ってしまう。これは平均化にとって甚だ面倒なこととなる。簡単のために1次と2次の場合を考え、ポテンシャルA、ポテンシャルBの濃度比をx:1-x(=y)として平均操作の結果を以下に示す。
1次の平均は、
- <math> \langle t_n \rangle \to \begin{cases} x t_A, & n = \mbox{A } \\ (1-x) t_B, & n = \mbox{B} \end{cases}</math>
2次の平均は、
- <math> \langle t_n t_m \rangle \to \begin{cases} x^2 {t_A}^2, & n \ne m, \quad n = \mbox{A}, \quad m = \mbox{A} \\ x {t_A}^2, & n = m, \quad n = m = \mbox{A} \end{cases} </math>
となる。2次の場合、nまたはmがBの場合は省略(本当は2次の項の場合、n = mとなることはないが、ここでは便宜上n = mの場合を示した)。
1次の場合は良いとして、2次では<math> n =\, m </math>と<math> n \ne m </math>の場合とで平均の結果が異なる。つまり、3次以上の項では、t行列の積で同一サイトが含まれ場合と、そうでない場合とで平均操作を場合分けする必要がある。これを現実に行うこは不可能である。実際の平均操作では同一サイトが含まれるt行列の積の項を全て無視し、面倒な場合分けを行わないものとする。これが単サイト近似である。この近似により3次の項の平均操作を例にとると、
- <math> \left\langle t_n t_m t_p \right\rangle = \left\langle t_n \right\rangle \left\langle t_m \right\rangle \left\langle t_p \right\rangle </math>
と各t行列毎の平均操作の積で表すことができる(ここで、<math> \tilde{G} </math>は省略した)。また、<math> \tilde{G} </math>は周期的なポテンシャル部分によるグリーン関数なので平均操作に対して不変である。
- <math> \tilde{G} = \left\langle \tilde{G} \right\rangle </math>
以上から、単サイト近似における総散乱行列Tの平均<T>は、
- <math> \left\langle T \right\rangle = \sum_n \left\langle t_n \right\rangle + \sum_n \left\langle t_n \right\rangle \tilde{G} \sum_{m \ne n} \left\langle t_m \right\rangle + \sum_n \left\langle t_n \right\rangle \tilde{G} \sum_{m \ne n} \left\langle t_m \right\rangle \tilde{G} \sum_{p \ne m, n} \left\langle t_p \right\rangle + \cdot \cdot \cdot </math>
となる。平均操作を施した状態密度D(E)は(D0(E)は自由電子の状態密度)、
<math> \begin{align} D(E) - D_0(E) &= {2 \over {N \pi} } \mathrm{Im Tr} {d \over {dE} } \{ x \ln T_A + y \ln T_B \} \\ &= - {2 \over {N \pi} } \mathrm{Im Tr} \{ x T_A {d \over {dE} } (\tau_A^{-1} - B) + y T_B {d \over {dE} } (\tau_B^{-1} -B) \} \\ &= - {2 \over {N \pi} } \mathrm{Im Tr} \sum_{n} [x \left\langle T_{nn} \right\rangle_{n = A} {d \tau_A^{-1} \over {dE} } + y \left\langle T_{nn} \right\rangle_{n = B} {d \tau_B^{-1} \over {dE} } - \sum_{n_1} \left\langle T_{nn_1} \right\rangle {d \over {dE} } B_{{n_1}n} ] \end{align} </math>
となる。係数2はスピンの縮重度。Imは虚数部分、Trはトレース(跡)を取ることを意味する。更に平均操作は添え字nに対して独立なので、n=0(を原点として)で代表させる(N倍する必要あり。N:全サイト数)。また< Tnn >はフーリエ変換により、
- <math> \left\langle T_{nn} \right\rangle \to T_{\mathbf{q}}^{eff} = [ \tau_{eff}^{-1} - B_{\mathbf{q}} ]^{-1} </math>
として、
- <math> D(E) - D_0(E) = - {2 \over {\pi} } \mathrm{Im Tr} \left[x \left\langle T_{00} \right\rangle_{0 = A} {d \tau_A^{-1} \over {dE} } + y \left\langle T_{00} \right\rangle_{0 = B} {d \tau_B^{-1} \over {dE} } - {1 \over N} \sum_{\mathbf{q}} T_{\mathbf{q}}^{eff} {d B_{\mathbf{q}} \over {dE} } \right] </math>
となる。これが不規則二元合金の状態密度を与える基本式となる。尚、Bqは構造定数(<math> \, B_{{n_1}n} </math>)をフーリエ変換したものである。