タクロリムス
テンプレート:Drugbox タクロリムス(tacrolimus)は、免疫抑制剤の一種で、臓器移植または骨髄移植を行った患者の拒絶反応を抑制する薬剤である。また、アトピー性皮膚炎に対する塗布剤、関節リウマチ治療薬としても用いられる。
概要
1984年、藤沢薬品工業(現アステラス製薬)の研究により筑波山の土壌細菌(ストレプトマイセス・ツクバエンシス)より分離された。23員環マクロライド・マクロラクタム構造を持つ。
1993年5月に肝臓移植時の拒絶反応抑制剤として認可され、後に腎臓、肺、骨髄などの移植に用いられた。さらにアトピー性皮膚炎、重症筋無力症、関節リウマチ、ループス腎炎へも適応が拡大された。
生理作用
タクロリムスは細胞内でまずFKBP (FK506 binding protein) と複合体を形成し、これがさらにカルシニューリンに結合する。そしてそのNFAT脱リン酸化反応を阻害することにより、IL-2に代表される種々のサイトカインの発現を抑制する。これにより、細胞傷害性T細胞の分化増殖を抑制、細胞性免疫・体液性免疫の両方を抑制する。
このメカニズムはハーバード大学のスチュアート・シュライバーによって解明された。シュライバーはタクロリムスをツールとして様々な生命現象の解明を行っており、これらの研究はケミカルバイオロジーという一分野を切り開く先駆けとなったことで知られる。
適応症
製品により本邦で認可された適応症は異なる。
- プログラフ®
- 腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植における拒絶反応の抑制
- 骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病(GVHD)の抑制
- 重症筋無力症
- 関節リウマチ
- ループス腎炎
- 潰瘍性大腸炎
- 多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎
- グラセプター®
- 腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植における拒絶反応の抑制
- 骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病(GVHD)の抑制
副作用
- 腎機能障害 (血清クレアチニン値上昇など)
- 高血糖
- 高血圧
- 消化器症状(悪心・嘔吐・食思不振など)
- 免疫抑制による日和見感染など。
- プロトピック軟膏の場合、肌の灼熱感・疼痛などの刺激、ざ瘡、ざ瘡様皮疹、丘疹、皮膚乾燥、接触性皮膚炎、紅斑、酒さ様皮膚炎、浮腫などが起こる場合がある。また、塗布後に紫外線が当たると免疫抑制作用により皮膚癌のリスクが起きうるので、日光浴やPUVA療法には注意が必要。
名称
タクロリムス(Tacrolimus)の名は、筑波で発見されたマクロライド系免疫抑制剤(Tsukuba macrolide immunosuppressant)というところから命名されている。開発コードナンバーはFK506であり、論文などではこちらの名称が使われることも多い。
臓器移植用医薬品としての商品名はプログラフ®で、1993年に藤沢薬品から発売された。2008年に1日1回投与でプログラフの1日分(1錠を2回)の効果をもたらす経口徐放性製剤タイプのグラセプター®(海外ではアドバグラフ®もしくはプログラフXL®)が発売されている。アトピー性皮膚炎用外用剤としては1999年にプロトピック®軟膏として発売されている。山之内製薬との合併により2005年以降はアステラス製薬の製品となっている。その後、プロトピックは医療用皮膚薬の専門メーカーであるマルホにプロモーション提携した後に日本国内の販売権利を売却している。