ギターシンセサイザー

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ギターシンセサイザーGuitar Synthesizer)とは、広義には信号処理技術を使って、ギターでシンセサイザーと同様な音色を実現する装置や楽器のことである。

また狭義には、シンセサイザーを駆動するコントローラーデバイスとしてギターを使う方式を指す事が多い。この方式では、ギターの振動音程及び音量情報に変換し、そのデータでシンセサイザーをコントロールする。

ギターシンセサイザーは最初1970年頃にエフェクタの形で登場したが(広義の定義)、1970年代後半から「ギターによるシンセサイザーのコントロール」が重視されるようになった(狭義の定義)。その後1990年代前半DSPによるモデリング処理が導入されると、狭義の定義には収まりきらなく、モデリングギターという新しい造語で区別されるようになった。

構造

代表的なアナログ・ギター・シンセサイザー(以下ギターシンセ)の例を示す。

まず、ギターの弦振動を拾うピックアップには、6弦独立ピックアップ(Hexa Divided PickUP)の使用が一般的である[1]。これは、各弦の振動を個別に捉える特殊なピックアップで、和音の入力を避けることを目的としている[2]
ファイル:Roland Divided PickUP GK-3.jpg
6弦独立ピックアップのひとつ、Roland GK-3

入力された音声信号はヘッドアンプによって増幅され、エンベロープ・フォロワー(以下EF/Envelope Follower)とコンパレーター[3]に送られる。コンパレーターで整形された信号は、周波数・電圧変換回路 (Frequency to Voltage Converter、以下FVC) に入力される[4]。これは、矩形波を微分したスパイク波でコンデンサーを充電することで周波数を電圧に変換する回路で、入力周波数に比例した電圧が出力される。FVCの出力はHz/V方式なので、必要に応じて1V/Oct方式への変換を行う。EFで取り出されたエンヴェロープ(Envelope/ENV)信号電圧はVCAVCFをコントロールする。ENV信号を元にGATE信号をジェネレートし、エンベロープ・ジェネレーター(EG)やピッチ固定用のサンプル&ホールド(S/H)をコントロールすることもあるが、調整が難しく、ギター演奏のニュアンスを重視する場合は、あまり必要のない機能かもしれない。実際、GR-300ではEGやS/Hは省略されている。

実用化の歴史

ギターシンセは、基本的に弦振動という不安定な物理現象をデータに変換する構造のため、その実用化が難しく、安定して演奏を行える製品の登場はシンセサイザーへのMIDI/マイコンシステムの導入を待たねばならなかった。

ローランド社から1977年に発表されたGR-500モノフォニック・ギターシンセサイザーは、MIDI導入以前に発表された最初の実用可能なギターシンセサイザーだろう。

このシステムは6弦独立ピックアップを搭載した専用のギター・コントローラーと、24ピンケーブルで接続されるシンセサイザー本体で構成されていた。シンセ音源はモノフォニックだが、6弦独立ピックアップからの信号にはそれぞれ個別にファズ・エフェクト回路が設けられていた。その他のプロダクションモデルとしてはアープ社のモノシンセ、Odysseyシリーズをベースに開発されたAVATAR(1977)が有名だった。こちらも、システムの構成はGR-500とほぼ同等である。ただ、いずれのモデルにも言えたことだが、そのプレイヤビリティーは必ずしも良好とは言い難い代物だったようだ(ジョン・マクラフリンジェフ・ベックがネガティブな発言のインタビューを残している)。ただし、同時期(1979-1982)に当時ニューヨーク在住の日本人ギタリスト川崎燎がGR-500を基にして改良、開発した彼独自のギターシンセとそれを駆使して録音された一連のアルバム群の成果は現在でも一目/一聴に値する[5]

アープではほぼ同時期にCENTAURというポリフォニック・ギターシンセのプロトタイプが製作されていたが、そのプロジェクトは膨大な資金を費やして頓挫している。アープの斜陽はこのCENTAURの失敗によるという。

そして1980年代初頭にローランドGR-500の後継機種、GR-300[6]が発表される。この製品は初の実用的ポリフォニック・ギターシンセであり、その良好なプレイヤビリティーから多くのミュージシャンに支持されることになる。システム構成は、GR-500シリーズと同じく、6弦独立ピックアップを搭載した専用ギター・コントローラーと、24ピンケーブルで接続されるシンセサイザー本体である[7]。回路構成は、6弦独立のファズとFVC、VCOが2機、ENVコントロールされるVCA、それらをミックスした後にモノラルのVCF、となっている。ギター側からは、VCFのFrequencyとResonance、VCALFOによるAM変調 Depth、及びディストーション/生音/シンセ音のミックスのコントロールが可能。GRシリーズでは他に、GR-100という6弦独立VCFユニットがある。

その後、GR-700という過渡期を経てMIDIとデジタル音源が統合されたGR-1シリーズが発売され、本格的なギターシンセサイザーの時代が始まる。

ファイル:Aplusguitarsetup.png
A+ MIDI Guitar & Garageband の設定 (2011) by WKode
2011年三月、 WKode は世界の最初のiPhone MIDI ギター・アプリ を公開した。 安くて簡単にセットアップができる。 DSMidiWifi Server で Garageband, Logic, Reason, Kore, Kontakt, Ableton Live, 等ソフトの全ての楽器をコントローする事ができる。 パソコンとワイヤレス・ルーターだけが必要になる。

MIDI以降のギターシンセが持つ問題

デジタル化以降のギターシンセは動作がステーブルになり、積極的にEGをコントロールすることで、ギターでもピアノのようなタッチで演奏することが可能になったが、反面FVCの動作原理はアナログ時代から変化はなく、周波数が低くなるにつれてセトリングタイムが増大する物理的な問題は解決していない。この遅れを解消するためにピックが弦に接触する際のスクラッチ音を分析するものや[8]、ネック内に、磁気スイッチを仕込んで演奏ポジション情報を得るもの[9]、超音波で演奏ポジション情報を得るもの[10]など、各社とも研究を重ねているが、未だに決定的な製品は現れていない。また、専用音源の場合は比較的反応が速いのだが、MIDI経由で外部音源をコントロールした場合には、さらに遅れが出てしまうようだ。


脚注

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  1. 6弦独立ピックアップは、マグネティック・コイル方式のものと、サドル下にセットされたピエゾ方式のものに大別される。コイル方式はギターへの設置が簡単だが、反応速度はピエゾ方式に軍配があがる。当時Rolandでは、ピックアップを搭載した専用のギター型コントローラーが採用されていて、ヴォリューム奏法やフィルターワークなど、弦振動以外の演奏情報をシンセサイザー本体に送信することが可能だった。
  2. モノフォニック(単音)とポリフォニック(多声):1970年代初期に登場したエフェクター型ギターシンセサイザー(広義のギターシンセ)は、ノーマルなギターの出力をそのまま受ける仕様だった(たとえば後の製品だが Electro-Harmonics の MicroGuitarSynthesizer 等)。他方、ポリフォニック仕様のギターシンセサイザー(狭義のギターシンセ)は、ギターの各弦に対応するモノフォニック・シンセサイザーの集合であるため、対応するギター型コントローラーには、6弦独立ピックアップ(HexaDividedPU)の使用が必須だった。1974年 360 systemsはポリフォニック・ギターシンセを開発、著名ジャズロックギタリストが試奏した事が確認されている。音源部は外付けでEMUモジュラーやminimoogを接続可能、後にはOberheim SEMを内蔵した製品も発売している。 [1] 一方、1977年発売のアープAVATARやローランドGR500は、シンセ部がモノフォニックだった。アープは1975年よりポリフォニック・ギターシンセ CENTAUR IVの開発を開始したが、製品化に必要な要素技術の開発は難航し(たとえばポリフォニック音源の開発等)、1977年にプロジェクト建て直しを図って機構をずっと簡略化したモノフォニック版のAVATARを発売した(HexaDividedPU採用)。同年にはローランドも最初の製品を発売し「弦の振動を確実に拾う」という名目でHexaDividedPUを採用している。モノフォニックでHexDividedPUを採用した理由は、和音の入力は誤動作の原因となるからで、(詳細は不明だが、)誤動作を防止するために、後発優先の選択機能を持たせた回路が組まれていた可能性もあるテンプレート:要出典。このほかローランドGR500は、HexaDividedPU出力を波形整形の上フィルターで音作りする、広義のギターシンセ機能(富士ローランドGR100に通じる機能)も提供していた。
  3. コンパレーターはその構造上、入力される信号の立ち上がり及び減衰時に対する反応の遅れが問題になる。80年代にヤマハが特許を取得した自動追従コンパレーターは通常のスレッショルド(閾値)が固定された回路とは異なり、入力された信号のエンベロープによって、スレッショルドが可変する。信号レベルの低い立ち上がり時でも素早く動作するのが特徴。
  4. 動作精度を簡単に得るにはVFC-32などのモノリシックICを使用するのが良いだろう。
  5. [2]
  6. 当時のローランドは富士弦楽器製造(現・フジゲン)と合弁で富士ローランド(株)設立していた。ギター本体とピックアップは富士弦楽器/グレコ製で、以下のようなGR-300に対応したラインアップがあった。ストラトキャスター型のシェイプで固定ブリッジのG-202、ストラト・タイプでトレモロ・ブリッジのG-505、グレコオリジナル・シェイプのG-303(パット・メセニー愛用で有名)、そのスルーネックタイプのG-808などである。従って、厳密にはGR-500からGR-700までのギターシンセサイザーシステムは「富士ローランド」の製品となる。
  7. パット・メセニーは現在もローランド・GR-300とG-303のコンビネーションを愛用し続けている。その付き合いは、アルバム「オフランプ」(Offramp/1982年)発表以来だから、20年以上も使い続けていることになる。後にシンクラヴィア・デジタル・シンセサイザーが導入された時も、GR-300は退役することなく引き続き活躍していた。当時、G-303には巨大なシンクラヴィア専用リモートコントローラーが内蔵(というか巨大なバルジを追加)されていて、シンクラヴィア本体との通信は、GRの24ピンケーブルに巻き付けたリボン・ケーブルで行っていた。シンクラヴィア退役後のG-303はノーマルな仕様に戻っている。使用法は至ってオーソドックスなスタイルで、ほとんどのシーンで原音のオクターブ上にピッチを上げ、VCFのFrequencyを絞り気味、Resonanceはゼロといったセッティングを好んでいるようだ。
  8. ドイツAXONGuitarMIDIコンバーター はピックのスクラッチ音から出音の音程を予測する。学習機能があり、演奏者毎のクセを覚え込むことでデータの確度を上げることができるという。
  9. イギリスSynthAxe社SynthAxe(コントローラ):アラン・ホールズワースリー・リトナーの使用で有名になるも、会社は倒産の憂き目に遭う。本体はコントローラーに徹することで、ギターのシルエットに縛られない独特のデザインを採用していた。システム自体がかなり高価なことと、動作に対応したコンピュータがATARIの、しかもかなり旧いタイプの物しか対応していない事、さらに耐久性に問題があったらしい。ピッキングする弦とフィンガリングする弦が発音する為の「トリガー」として分割されており、しかも角度が付けられていることが外観上の特徴である。またフレットが完全に等間隔で並んでいた点もユニークな点であった。さらにボディにはコントロールパッドやブレスコントローラーなども取り付けられていた。
  10. ヤマハG10(ギター型コントローラー)・G10C(専用MIDIコンバーター):全弦にエレキギターのG弦を使用し、ブリッジから超音波を出し押弦位置を把握する。ブリッジ部分にはベンディング検出用のセンサーもある。

参考文献

関連項目

外部リンク