ガンマ関数
数学においてガンマ関数(ガンマかんすう、テンプレート:Lang-en-short)とは、階乗の概念を一般化した特殊関数。 互いに同値となるいくつかの定義が存在するが、1729年、数学者オイラーが階乗の一般化として、最初に導入した。
目次
定義
実部が正となる複素数<math>z</math>について、次の積分で定義される関数 テンプレート:Indent をガンマ関数と呼ぶ[1]。この積分は、ルシャンドルの定義にしたがって、第二種オイラー積分とも呼ばれる。元は階乗の一般化としてオイラーが得たもので、<math>\Gamma</math>という記号は、ルジャンドルが用いたものである。それ以前は<math>\Pi(x)</math>などと表記していた(ただし<math>\Pi(x)=\Gamma(x+1)</math>)。
一般の複素数<math>z</math>については、解析接続もしくは次の無限乗積で定義される。 テンプレート:Indent</math>}}
基本的性質
ガンマ関数は、階乗の複素数への拡張としてオイラーによって考案されたものであり、自然数<math>n</math>について
テンプレート:Indent
が成立する。
実際、オイラー積分による定義から
テンプレート:Indent\,dt=(z-1)\Gamma(z-1)</math>
<math>\Gamma(1)=\int_{t=0}^{\infty}{e^{-t}}\,dt=\left[-e^{-t}\right]_{t=0}^{\infty}=1</math>}}
であり、自然数<math>n</math>について<math>\Gamma(n+1)=n!</math>が成り立つ。従って、ガンマ関数は階乗の定義域を複素平面に拡張したものといえる。そのような関数は無数に存在するが、正の実軸上で対数凸である解析関数という条件を付ければ、それは一意に定まりガンマ関数に他ならない(→ボーア・モレルップの定理)。右半平面においてオイラー積分で定義されたガンマ関数は全平面に有理型に解析接続する。ガンマ関数は零点を持たず、原点と負の整数に一位の極を持つ。その留数は、
テンプレート:Indent
である。また、非整数でのガンマ関数の値のうちでおそらく最も有名なのは、ガウス積分になる以下の場合であろう。
テンプレート:Indent
これより、自然数<math>n</math>について
テンプレート:Indent\sqrt{\pi}</math>}}
が成立することがわかる。ここで !! は二重階乗を表す。この性質を利用して高次元球の体積と表面積を求めることができる。
定義の整合性
定義の積分表示と乗積表示が一致することを示す。
テンプレート:Indentdt</math>}}
とすれば<math>\lim_{n\to\infty}{(1-t/n)^n}=e^{-t}</math>であるから<math>\lim_{n\to\infty}{G_n(z)}=\int^{\infin}_{0}t^{z-1}e^{-t}dt</math>である。<math>t=nu</math>の置換により
テンプレート:Indentdu</math>}}
<math>n^{z}</math>を除く部分を<math>g_n(z)</math>として
テンプレート:Indentdu=\left[\frac{u^z}{z}\right]_{u=0}^{1}=\frac{1}{z}</math>
<math>g_n(z)=\int_{0}^{1}{\left(\frac{u^{z}}{z}\right)'(1-u)^{n}}du=\frac{n}{z}\int_{u=0}^{1}{u^{z}(1-u)^{n-1}}du=\frac{n}{z}g_{n-1}(z+1)</math>}}
これにより
テンプレート:Indent</math>}}
を得る。故に
テンプレート:Indent</math>}}
である。
ワイエルシュトラスの乗積表示
オイラーの乗積表示からオイラーの定数<math>\gamma=\lim_{n\to\infty}\left(\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k}-\log{n}\right)</math>を括り出すとワイエルシュトラスの乗積表示が得られる。ワイエルシュトラスはガンマ関数が負の整数に極を持つことを嫌って逆数を用いた。ガンマ関数の逆数は複素平面全体で正則である。 テンプレート:Indent{n^zn!}=\lim_{n\to\infty}zn^{-z}\left(\prod_{k=1}^{n}{e^{z/k}}\right)\left(\prod_{m=1}^{n}{\frac{z+m}{m}}e^{-z/m}\right)=ze^{{\gamma}z}\prod_{m=1}^{\infty}\left(1+\frac{z}{m}\right)e^{-z/m}</math>}}
ハンケルの積分表示
ガンマ関数は次の周回積分で表される[2]。積分経路は正の無限大から実軸の上側に沿って原点に至り、原点を正の向きに回り、実軸の下側に沿って無限大に戻るものとする。但し、その偏角は<math>-\pi\le\arg(-t)\le\pi,0\le\arg(s)\le2\pi</math>とする。 テンプレート:Indent これをハンケルの積分表示と呼ぶ。このハンケルの積分表示は、積分経路を適当に変形し、数値積分でガンマ関数の値を求めるために使われることがある[3]。
ハンケルの積分表示の導出
極座標表示<math>(-t)=re^{i\theta}</math>を用いると、実軸の上側に沿う部分は<math>\theta=-\pi</math>で<math>r=\infty</math>から<math>r=\delta</math>まで、原点を回る部分は<math>r=\delta</math>で<math>\theta=-\pi</math>から<math>\theta=\pi</math>まで、実軸の下側に沿う部分は<math>\theta=\pi</math>で<math>r=\delta</math>から<math>r=\infty</math>までとなる。 テンプレート:Indent となり テンプレート:Indent を得る。
乗法公式
次の恒等式をガウスの乗法公式(multiplication formula)という。
テンプレート:Indent{(2\pi)^{(n-1)/2}}\prod_{k=0}^{n-1}{\Gamma{\left(z+\frac{k}{n}\right)}}</math>}}
この証明を示す。両辺の比を<math>f(z)</math>とすると
テンプレート:Indent}{(2\pi)^{(n-1)/2}\Gamma(nz)}\\
\end{align}</math>
<math>\begin{align}f(z+1)
&=\frac{n^{nz-1/2}n^n\left[\prod_{k=0}^{n-1}\left(z+\frac{k}{n}\right)\Gamma{\left(z+\frac{k}{n}\right)}\right]}{(2\pi)^{(n-1)/2}\left[\prod_{k=0}^{n-1}(nz+k)\right]\Gamma(nz)}\\
&=\frac{n^{nz-1/2}\left[\prod_{k=0}^{n-1}\left(nz+k\right)\right]\prod_{k=0}^{n-1}\Gamma{\left(z+\frac{k}{n}\right)}}{(2\pi)^{(n-1)/2}\left[\prod_{k=0}^{n-1}(nz+k)\right]\Gamma(nz)}\\
&=f(z)\\
\end{align}</math>}}
故に、任意に大きな自然数<math>m</math>について<math>f(z+m)=f(z)</math>が成立する。スターリングの公式により
テンプレート:Indent{z+k/n}}\left(\frac{z+k/n}{e}\right)^{z+k/n}}\right]}{(2\pi)^{(n-1)/2}\sqrt{\frac{2{\pi}}{nz}}\left(\frac{nz}{e}\right)^{nz}}\\
&=\lim_{\real{z}\to+\infty}z^{1/2}\left[\prod_{k=0}^{n-1}z^{k/n-1/2}(1+k/nz)^{z+k/n-1/2}e^{-k/n}\right]\\
&=\lim_{\real{z}\to+\infty}z^{1/2}\left[\prod_{k=0}^{n-1}z^{k/n-1/2}e^{k/n}e^{-k/n}\right]\\
&=1
\end{align}</math>}}
途中で
テンプレート:Indent
を適用した。
テンプレート:Indent
であり、故に
テンプレート:Indent{(2\pi)^{(n-1)/2}}\prod_{k=0}^{n-1}{\Gamma{\left(z+\frac{k}{n}\right)}}</math>}}
が成立する。
微分方程式
<math>(x,\ y,\ y_1,\ \ldots ,\ y_n)</math>を変数とする多項式<math>F(x,\ y,\ y_1,\ \ldots ,\ y_n)</math>に対し、 テンプレート:Indent の形で表される微分方程式を代数的微分方程式という。ガンマ関数はいかなる代数的微分方程式も満たさないことが知られている。ヘルダーが1887年に最初に証明を与えた後 [4]、テンプレート:仮リンク[5]、テンプレート:仮リンク[6] [7]、テンプレート:仮リンク[8]、ハウスドルフ[9]により、別証明や一般化がなされた。
いくつかの具体的な値
テンプレート:Indent {3} \approx 2.363\,</math>
<math>\Gamma\left(-\frac{1}{2}\right)\,= -2\sqrt{\pi} \approx -3.545\,</math>
<math>\Gamma\left(\frac{1}{2}\right)\,= \sqrt{\pi} \approx 1.772\,</math>
<math>\Gamma(1)\,=0!=1 \,</math>
<math>\Gamma\left(\frac{3}{2}\right)\,= \frac {\sqrt{\pi}} {2} \approx 0.886\,</math>
<math>\Gamma(2)\,=1!=1 \,</math>
<math>\Gamma\left(\frac{5}{2}\right)\,= \frac {3 \sqrt{\pi}} {4} \approx 1.329\,</math>
<math>\Gamma(3)\,=2!=2 \,</math>
<math>\Gamma\left(\frac{7}{2}\right)\,= \frac {15\sqrt{\pi}} {8} \approx 3.323\,</math>
<math>\Gamma(4)\,=3!=6 \,</math>
}}
ポリガンマ関数
ガンマ関数の対数微分
- <math>\psi(z)=\frac{d}{dz}\log \Gamma(z)</math>
をディガンマ関数(Digamma function)と呼ぶ。同様の対数微分を繰り返した関数
- <math>\psi^{(n)}(z)=\frac{d^n}{dz^n}\log \Gamma(z)</math>
を、ポリガンマ関数(Polygamma function)と呼ぶ。