心裡留保
テンプレート:Ambox テンプレート:Pathnav 心裡留保(しんりりゅうほ)とは、意思表示を行う者(表意者)が自己の真意と表示行為の内容との食い違いを自覚しながらなす意思表示。
- 日本の民法は、以下で条数のみ記載する。
概説
日本の民法上は「表意者がその真意でないことを知ってした」意思表示と表現され(93条)、虚偽表示や錯誤とともに意思の不存在(意思の欠缺)の一種とされる。なお、94条の虚偽表示が「通謀虚偽表示」と呼ばれるのに対し、93条の心裡留保は「単独虚偽表示」とも呼ばれる[1]。
心裡留保の効果
当事者間の関係
- 原則
- 原則として、意思表示は表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない(93条本文)。心裡留保においては表意者保護の必要性が全くない以上、表意者が表示したとおりの効果を生じることとして意思表示を信頼した相手方さらには第三者の保護を図ろうとする趣旨である[2][3]。
- 例外
- 例外的に意思表示の相手方が表意者の真意を知り(悪意)又は知ることができたとき(有過失)は、その意思表示は無効となる(93条但書)。相手方の悪意・有過失の立証責任は表意者側にある[4]。
以上から日本の民法は心裡留保につき原則として有効としつつ(表示主義の現れ)、相手方が表意者の真意について悪意又は有過失である場合には無効となる(意思主義の現れ)として折衷的な立場をとる[5]。
第三者との関係
94条の虚偽表示(通謀虚偽表示)とは異なり93条の心裡留保には第三者保護の規定がない点が問題となる。通説[6]・判例[7]はこの場合にも94条2項を類推適用し、第三者は善意であれば保護されるとする[8]。Aが真意では譲渡するつもりもないのに自らの所有物をBに譲渡し、Aからの譲渡が真意でないことを知りまたは知ることができたBがさらにそれをCに譲渡した場合、93条但書によってAB間の譲渡が無効とされてしまうと転得者Cは不利益を被ることになるが、Cは善意であれば94条2項の類推適用により保護される。
適用範囲
- 単独行為
- 身分行為
代理権濫用への類推適用
民法93条ただし書の本来的効力・適用場面は上述のとおりであるが、判例により代理権濫用の事例について同規定が類推適用され、重要な役割を果たしている。
代理権濫用は、形式的には本来与えられている代理権の範囲に含まれる行為だが、着服など本人を害する背信的意図が動機となっている場合である。例えば,本人Xから土地の売却を任された代理人Aが、これを奇貨として代金を横領する意図で相手方Yに土地を売却するような場合である。代理権の範囲内での行為である以上、売買契約の法律効果は本人Xに帰属する(よって無権代理とは異なるが、無権代理の一類型と考える立場もある)。この時,意思表示の相手方Yが代理人Aの横領の意図を知り、又は知り得たような場合の規律が問題となる。
代理人は法律効果を本人に帰属させる意思があるものの、経済的効果は自己または第三者へ帰属させるのが真意であり、ここに表示と真意との食い違いがある。この経済的効果についての表示と真意の食い違いを基礎として、本来は法律効果のそれについての規定である93条ただし書が類推適用される。すなわち、原則として代理人がした売却等の意思表示は有効として取り扱われるが、相手方Yが横領の真意について知り、または知ることができた場合には代理人の右意思表示は無効となり,本人への効果帰属が否定されることとなる。