アリス・ミラー
アリス・ミラー(Alice Miller、1923年1月12日 - 2010年4月14日[1])は、幼児虐待とその社会への影響に関する研究で有名なスイスの心理学者、元精神分析家。
経歴
1923年、ポーランド Piotrków Trybunalskiに生まれる。1946年にスイスに移住。バーゼルにて哲学、心理学、社会学の博士号を取得。1986年に名誉毀損防止同盟よりJanusz Korczak Literary Awardを授与される。
主張
臨床経験の豊富さ及びその質の高さと、その著述の多さでは、世界的に注目されている。日本でも多くの本が訳出されている。ミラーは、人間社会の暴力性の根源を、幼児に対して加えられる暴力に求める。三歳までの子供は、親をはじめとする大人に対して全く抵抗することができず、自分でその場を離れることもできない。それゆえ、その間に幼児に暴力が加えられた場合、生き延びるためには、自分に暴力が加えられることを「正しいことだ」と肯定せざるをえない。このような形で暴力を肯定して屈服した子供は、その屈辱や悲しみを隠蔽し、その上に「正しい」人格(偽りの自己)を構成する。しかし、隠蔽されても屈辱や悲しみはそのまま生き延びており、それが絶えざる不安を惹き起こす。大人になってからも、それは一向に減少することなく継続し、何らかの機会にそれが他者に対する暴力として発揮される。特に暴力の対象となるのが、抵抗される心配もなく、またその暴力の行使を「しつけ」として正当化しうる自分の子供である。このような暴力の連鎖が、犯罪や反社会的行為の源泉であるとする。
「暴力」の定義
ミラーが危険性を指摘するのは、単に物理的な暴力に関するものばかりではない。子供を突き放したり脅迫したりするような、言語や態度による暴力もまた、同様の悪影響がある。これは特にいわゆる「成功者」に広くみられるものであり、彼らは子供のころから条件付の愛情しか与えられなかった者が多いという。親から真の愛情を与えられず、何か親を喜ばせたときだけ少しだけの「愛情」を与えられるという育ち方をした者は、他人に気に入られたり、褒められたりするために、大変な力を発揮することができるようになり、社会的成功をおさめることが多い。このような人物は、不安を紛らわせるために、他人を自分の思い通りに操作することに喜びを感じ、これが政府や組織による暴力に帰結する。しかし、このような形での達成には、なんらの満足をも伴わず、不安は決して解消されず、ほんの少しの成功の陰りだけで、大変なダメージを受ける。
ナチズムの分析
ヒトラーとその支持者を注意深く観察し、ナチズムが子供への暴力の一つの表現であると考える。というのも、ヒトラーの世代が子供だったころ、シュレーバー教育に代表される非常に厳格で暴力的な教育方法がドイツに広がっており、子供たちは家庭でも学校でも激しい暴力に晒されていた。ヒトラーも父親から日常的な殴打を受けて育っており、彼の政策は自分が受けた暴力を、全人類に対して「やり返す」性質のものであり、ドイツの多くの国民も、そのような政策を自分自身の衝動に一致していると感じて、支持したのではないか、としている。
影響
彼女の著書、"THE DRAMA OF THE GIFTED CHILD"(邦題:才能ある子のドラマ)は心理学の古典となっており、初版から30周年を記念して、 ドイツでは2007年に、アメリカでは2008年に、ハード・カヴァーで出版されている。この本はベストセラー、かつ、ロングセラーであり、 未だ多くの人々の共感を得ている。特に、カウンセリング・精神療法等を生業とする者には必読の書である。
"FOR YOUR OWN GOOD"(魂の殺人)は現在インターネット上で無料で読むことができる。[2] この本は人間の破壊性の根源は児童虐待にあると結論付けている。アリス・ミラーの諸著作の中でも特に重要な意味を持っている。
主な著作
- 才能ある子のドラマ 真の自己を求めて
- 魂の殺人 親は子どもに何をしたか
- 禁じられた知 精神分析と子どもの真実
- 「子どもの絵」成人女性の絵画が語るある子ども時代
- BANISHED KNOWLEDGE (未邦訳)
- 真実をとく鍵 作品がうつしだす幼児体験
- 沈黙の壁を打ち砕く 子どもの魂を殺さないために
- 子ども時代の扉をひらく 七つの物語
- 闇からの目覚め 虐待の連鎖を断つ
- THE BODY NEVER LIES (未邦訳)
- Free from Lies: Discovering Your True Needs (未邦訳)