重水炉
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重水炉(じゅうすいろ)は、減速材に重水を用いる原子炉のこと。
重水は高価で、高速中性子の減速能力は軽水に劣る。しかし、中性子吸収量が小さく(軽水の300分の1)減速材として優れており、燃料として安価な天然ウランを使用できる。このため、天然ウラン資源が豊富なカナダが開発に取り組み、1960年代に重水減速重水冷却圧力管型炉(CANDU炉)を実用化した。
現在商業運転されている重水炉は全てこのCANDU炉およびその発展型であり、2010年1月末現在、運転中43基、建設中7基、計画中4基[1]となっている。
主な重水炉
- CANDU炉(重水減速重水冷却圧力管型加圧水炉)
- 圧力容器型重水炉[2] アルゼンチンで休止中及び建設中[3]の、軽水炉と構造が近い商業炉
- 新型転換炉(重水減速軽水冷却圧力管型沸騰水炉):日本が開発したふげん(ATR)
- ガス冷却重水炉(重水減速炭酸ガス冷却圧力管型沸騰水炉)
特徴
- 濃縮されていない天然ウランは価格が安く、ウラン資源が豊かな国では大きな利点となる。ただし、実際の商業運転では効率を上げるため濃縮ウランが用いられる。天然ウランの主成分であるウラン238は中性子捕獲によりプルトニウム239となるが、これは発電に寄与する一方、使用済み核燃料中の超ウラン元素を増やしてしまう。
- 核兵器の製造に適する(核拡散防止に不利)
- 軽水炉よりプルトニウム、トリウムの生産効率が高く、濃縮工場無しで兵器転用が可能で、核拡散リスクが高い。実際、インドはCIRUS(CANDU炉)で生成したプルトニウムから原子爆弾を製造し、核武装が懸念されているイランも、核開発を重水炉により進めている。
- 重水が大量に必要
- 発電炉ではトン単位で使用しなければならない重水は、天然水中に微量(0.015574%)しか存在せず、高価である。1968年の記録にはポンド当り28.5USドル(2,250円/100g)とあるし、2004年現在、試薬用の純度99%の重水は15,000円 / 100gである。
- 重水の純度維持が必要
- 減速材である重水の濃度は効率に直結し、濃度管理が必要となる。原子炉級重水は濃度99.75wt%以上が要求されるが、運転中に中性子を吸収して放射性のトリチウムが生成したり、冷却剤が軽水の場合はこれが混入するなどして濃度が低下(劣化重水)するので、再濃縮プラントを併設する必要がある。
- トリチウムの発生
参考資料
- ↑ http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=02-01-01-05 財)高度情報科学技術研究機構
- ↑ http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=03-02-05-02
- ↑ http://es.wikipedia.org/wiki/Central_nuclear_Atucha