複素共役
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
数学の複素共役、複素共軛(ふくそきょうやく, complex conjugation/complex conjugate)は、ある複素数にたいし、その虚部の符号をいれかえたもの。つまり、ある実数a,bがあり、iを虚数単位とすると、
- <math> z=a+ib \,</math>
に対して、
- <math>\overline{z} = a - ib\, </math>
がzの複素共役な数である。複素共役をあらわすのには上線がよく使われる。 上付きのアスタリスク(z*)なども使われるが、行列での随伴行列などとの混乱を避けるためにあまり使われない。
性質
- <math>z\,</math>が実数 ⇔ <math>\overline{z}=z</math>
- <math>z\,</math>が純虚数 ⇔ <math>\overline{z}=-z</math>
- <math>\overline{\overline{z}}=z.</math> (対合)
- <math>|z|=|\overline{z}|.</math>
- <math>z + \overline{z} = 2 \,\Re z.</math>
- <math>z - \overline{z} = 2 i \,\Im z.</math>
- <math>z\overline{z} = |z|^2.</math>
- 特に <math>z^{-1} = \frac{\bar{z}}{|z|^{2}},\,(z \ne 0).</math>
- <math>\overline{z+w} = \overline{z} + \overline{w}.</math>
- <math>\overline{zw} = \overline{z} \cdot \overline{w}.</math>
- <math>\overline{\left(\frac{z}{w}\right)} = \frac{\overline{z}}{\overline{w}},\,(w \ne 0)</math>。
特に、複素数 z が実数係数の多項式 f(x) の根となるならば z の共役複素数 z も f(x) の根となることがわかる(1746年:ダランベール)。すなわち、f(x) が実数係数多項式ならば
- <math>f(z) = 0 \iff f(\bar z) = 0</math>
が成り立つ。
より一般的に、実軸(またはその開集合)上の実数値をとる実解析的関数について、その解析接続は複素共役な複素数に対して複素共役な値を与える。たとえば複素解析において
- <math>\exp(\overline{z}) = \overline{\exp(z)}\,\!</math>
- <math>\log(\overline{z}) = \overline{\log(z)}\,\!</math>(ただし実軸のある領域上で実数値をとる分枝の、複素共役について対称的な領域への拡張について)
という性質がなりたつ。
また、定義よりあきらかにzとその複素共役のみでzの実部と虚部、または極形式であらわされた複素数の絶対値と偏角をあらわすことができる。
- <math>x = \operatorname{Re}\,(z) = (z + \overline{z})/2</math>
- <math>y = \operatorname{Im}\,(z) = (z - \overline{z})/2i</math>
- <math>\rho = \left| z \right| = \sqrt {z \cdot \overline{z}}</math>
- <math>e^{i\theta} = z/\left| z \right| = e^{i\arg z} = \sqrt {z/\overline{z}}.</math>