虫
日本語の虫(むし)の概念は時代や個人による差もあるが、今日では主に水中以外の節足動物を指し、広義には獣・鳥・魚類以外の小動物全般を指す。
「むし」の範疇
節足動物としては、昆虫、クモ(クモ綱)、ムカデ(多足類)、ダンゴムシ(甲殻類)などが「むし」である。また昆虫の幼虫であるイモムシやウジムシも含む。これらはほとんどの人が「むし」と考える。エビ・カニは節足動物だが区別され、「むし」とは普通呼ばない。
ミミズなどのいわゆる蠕虫も含むことがある。カタツムリも別名「デンデンムシ」と呼ばれるなど、陸貝は虫の範疇に入ることもある。ヘビも、現在ではややまれだが、「長虫」と呼ばれることがある。
分類学において、小さな動物で「ムシ」の名を与えられているものは多い。たとえば
単細胞生物の運動性のあるもの、つまり原生動物でもゾウリムシ・ラッパムシなどがある。
いずれにしても、節足動物の陸生を主体とする分類群(多足亜門、六脚亜門、鋏角亜門の蛛形綱、甲殻類のワラジムシ亜目)が中心となる。
漢字
虫という漢字の由来は、ヘビをかたどった象形文字で、本来はヘビ、特にマムシに代表される毒を持ったヘビを指した。読みは「キ」であって、「蟲」とは明確に異なる文字であった。
蟲という漢字は、元は「生物全般」を示す文字であり、こちらが本来「チュウ」と読む文字である。古文書においては「羽蟲」(鳥)・「毛蟲」(獣)・「鱗蟲」(魚および爬虫類)・「介蟲」(カメ、甲殻類および貝類)・「裸蟲」(ヒト)などという表現が見られる。しかし、かなり早い時期から画数の多い「蟲」の略字として「虫」が使われるようになり、本来別字源の「虫」と混用される過程で「蟲」本来の生物全般を指す意味合いは失われていき、発音ももっぱら「チュウ」とされるようになり、意味合いも本来の「虫」と混化してヘビ類ないしそれよりも小さい小動物に対して用いる文字へと変化していった。
貝の種類を表す漢字には虫偏のものが多い(「蛤」など)。
架空の神獣である「竜(龍)」に関しても虫偏を用いる漢字が散見される。「蛟」(ミズチ、水中に住まうとされる竜、蛟竜(こうりゅう)、水霊(みずち)とも呼ばれる)、蜃(シン)(同じく水中に住まうとされる竜、「蜃気楼」は「蜃」の吐く息が昇華してできる現象だと考えられていた)、虹(コウ、にじ、「虹」は天に舞う竜の化身だと考えられていた、虹蛇(こうだ、にじへび)という表現も用いられる)などといった表記が代表的なものである。ただ、竜(龍)に関する文字については、架空の「生物」として「蟲」の意を付与した虫偏を用いているのか、「ヘビの神獣化」として「虫」の意を付与した虫偏を用いているのかには賛否が分かれる。
学術用語の爬虫類は、種の多い代表的な爬虫類であるトカゲ類をイメージして、「爬蟲類」(這い回る生き物)として命名されたものであるという説と、「爬虫類」(足があり地をつかんで這うヘビ)として命名されたという説がある。前者は「蟲」の本来の意味を用いた説であり、後者は「虫」の本来の意味を用いた説であるテンプレート:要出典。
近年では主にサブカルチャー分野を中心に、「蟲」という漢字が、現代では使用頻度が少なくなっていることや、その文字の持つ画数の多い複雑なイメージから、かえって新鮮なものとして受け止められ、本来の漢字「蟲」の持つ生物全般の意味合いではなく、一部限定的な生物ないし特殊な存在として、漫画『風の谷のナウシカ』や『蟲師』の作品内に代表されるように、「異形な存在」を表現することに使われることも散見される。
ことわざ・慣用句
体内の架空、仮想の生物の意味で用いるもの
- 三尸の虫(さんしのむし)
- 中国の道教に由来する庚申信仰(三尸説)。人間の体内には、三種類の虫がいて、庚申の日に眠りにつくと、この三つの虫が体から抜け出して天上に上がり、直近にその人物が行った悪行を天帝に報告、天帝はその罪状に応じてその人物の寿命を制限短縮するという信仰が古来からあり、庚申の夜には皆が集って賑やかに雑談し決して眠らず、三尸の虫を体外に出さないという庚申講が各地で盛んに行われた。
- 虫の知らせ
- 予感。体内にいる「虫」が、通常では知り得ないようなことや、遠方で起こる事件を予言してくれたように感じること。
- 虫が(の)いい
- 自分勝手なこと。
- 虫の居所が悪い
- 機嫌が悪いこと。体内にいる「虫」の居場所が落ち着かないと、その人の機嫌も悪くなると信じられていたことから。
- 虫が(の)好かない
- 気に入らないこと。
- 獅子身中の虫
- 身内でありながら害をなす分子のこと。
- 腹の虫
- 腹の虫が治まらない : 不満が治まらないこと。
- 腹の虫が鳴く : 空腹で腹から音が出ること。
実際の虫のイメージで用いるもの
- 虫の息
- 瀕死の状態。呼吸が、小さな虫、生物のように小さく、頼りないことからの連想だが、実際の呼吸を示して使うわけではない。
- 悪い虫が付く
- 良くない人が親しくなること。
- 虫酸が走る
- 嫌悪感を抱くこと。
- 虫も殺さぬ
- おとなしく穏やかなこと。
- 飛んで火に入る夏の虫(とんでひにいるなつのむし)
- 自ら危険、失敗に飛び込むこと。向日性の飛翔昆虫が、夜間の灯火に勝手に寄ってきて身を焦がし身を滅ぼすさまから。
- 蓼食う虫も好きずき
- 好みは人による、という感嘆の意味。蓼(タデ)の葉には独特のエグ味があり、それを嫌ってこの葉を食する虫はほとんどいないが、なかにはその風味を好む虫もいるということから。
- 一寸の虫にも五分の魂
- 小さくても、力や存在感があること。
その他
上記の他に、嫌な人の意味で使うこともある。
- 弱虫
- 気の弱い人。
- 泣き虫
- 涙もろい人。
- 点取り虫
- 学校の試験で、高得点を得る人を嫌って呼ぶ。