セロトニン
セロトニン(serotonin)、別名5-ヒドロキシトリプタミン(5-hydroxytryptamine、略称5-HT)は、動植物に広く分布する生理活性アミン、インドールアミンの一種。ヒトでは主に生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節などに関与する。
生合成と体内での働き
必須アミノ酸のトリプトファンから産生される。生体内では小腸にある腸クロム親和性細胞、および腸クロム親和性細胞様細胞が主に産生し、約90%を保有する。神経細胞でも少量産生され、脳内モノアミン神経系(セロトニン神経)で生理機能などに深く関係している。
トリプトファンが脳内に入るには血液脳関門を通過する必要があるが、BCAA(分岐鎖アミノ酸、バリン・ロイシン・イソロイシン)とトリプトファンは共通の輸送体を使って脳内に入る。そのため、BCAAが多い環境では脳への取り込みが阻害され、脳内セロトニンがあまり増えないことがある。
トリプトファンから5-ヒドロキシトリプトファンに、さらに変換されてセロトニンになる。健常男性は女性より約52%脳内セロトニンを産生する能力が高いとされ、またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン合成が男性の4倍減少するともされる。
生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節などの生理機能と、気分障害・統合失調症・薬物依存などの病態に関与している。ドーパミンやノルアドレナリンなどの感情的な情報をコントロールし、精神を安定させる働きがある。
ホルモンとしても働き、消化器系や気分、睡眠覚醒周期、心血管系、痛みの認知、食欲などを制御している。
神経作用
セロトニン神経(5-HT神経)の活動特性は、覚醒時に抵頻度発射(規則的な 3–5 Hz の発射活動)を継続して、標的細胞のシナプス間隙に一定のセロトニンを分泌させ、覚醒状態を維持することにある。痛みやストレスなどの内外環境からの覚醒・ストレス刺激には影響されない。徐波睡眠に移行するとその活動が減弱、レム睡眠になると、完全に消失する。
脳内のパターン形成機構によるリズム性運動(歩行運動、咀嚼運動、呼吸運動、グルーミングなど)で興奮し、覚醒状態における種々な活動に適度な緊張(抗重力筋の緊張や交感神経の緊張など)を与える役割がある。覚醒時の5-HT神経系の活動が抑制された状態はうつ病や慢性疲労症候群などの症状を惹起するとされる。
精神科や心療内科で処方される抗うつ薬にはセロトニンに関わる薬があり、SSRI・SNRI・MAO阻害剤が主に当てはまる。セロトニンの再取り込みを阻害することによってシナプス間のセロトニンの量が増え、その結果抑うつ症状などが改善される。
疼痛に関しては、延髄の大縫線核からの下行性疼痛制御系での伝達物質として働く[1]。縫線核の細胞体に存在する5-HT1A受容体(オートレセプター)にセロトニンが作用すると、終末からセロトニン放出が抑制される。この受容体の機能が低下(脱感作)すると、神経終末からセロトニン放出が促進する。
GABAを伝達物質として持つ抑制性介在ニューロンは興奮性セロトニン受容体 (5-HT2A, 3) と抑制的セロトニン受容体 (5-HT1B, 1C) を持つ。1次ニューロンの終末は興奮性セロトニン受容体 (5-HT2A, 3, 4) と抑制的セロトニン受容体 (5-HT1A, 1B, 1C) を、2次侵害受容ニューロンは抑制的セロトニン受容体 (5-HT1A) を持つ。
疼痛抑制
- 2次ニューロンと1次ニューロン終末の抑制的セロトニン受容体にセロトニンが作用。
- 介在ニューロンの興奮性セロトニン受容体にセロトニンが作用。
疼痛促進
- 1次ニューロン終末の興奮性セロトニン受容体にセロトニンが作用。
- 介在ニューロンの抑制的セロトニン受容体にセロトニンが作用。
注釈
関連項目
外部リンク
- ↑ 免疫蛍光法によって、縫線核群の細胞の多くのものがセロトニンを含むことが知られている。