象嵌
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象は「かたどる」、嵌は「はめる」と言う意味がある。象嵌本来の意味は、一つの素材に異質の素材を嵌め込むと言う意味で金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌等がある。その中の金工象嵌は、シリアのダマスカスで生まれ、シルクロード経由で飛鳥時代に日本に伝わったとされる。江戸時代には京都などに優れた職人が多数生まれ、日本刀の拵えや甲冑、鏡や根付、文箱、重箱などに腕を振るった。素材としては金属だけではなく、彩色した木材や骨片、貝殻、陶磁器なども用いられる。
製作方法
京象嵌として有名な布目象嵌を例として挙げる。
- まず鉄、真鍮、 四分一(銀と銅の合金)生地(主に鉄)の表面を専用の鏨で布目模様の溝を彫る。
- 次に薄く延ばし型取りした純金や青金、純銀の板・線をそのくぼみに金槌を使いながら埋め込む。
- 表面の微細な段差をなくし、滑らかに加工するために、漆を塗り、焼きをいれた後に研ぐ。この工程は数回繰り返される。
- 全体を再度研磨して仕上げる。はめ込んだ部品やその周囲にさらに彫刻を施す場合もある。
特にこの布目象嵌は純銀純金を使用するために、ポルトガルから日本に布目象嵌が伝えられた当時から大変高価で庶民が手を出せる物では無かった。そのため、代用品として漆芸の中の蒔絵が発達したと言う経緯がある。 また金属象嵌には窪みを掘って図案に沿って切った金属板を嵌め込む「平象嵌(本象嵌ともいう)」、透かし抜いた図案の穴にピッタリ合わせ嵌める「切り嵌め」、高肉彫りを施した金属板を嵌め込む「高肉彫色絵象嵌」、「線象嵌」、「打ち込み象嵌」、「黒金象嵌(ニエロ)」、「銷(け)し象嵌」等がある。これらはいずれも彫金技法の中の一つである。
その他磁器においては、いったん成型した器に彫刻を施し、そこに色の異なる土を象嵌する方法がある。 また金属ではなく、薄く削った貝殻をはめ込む技法は螺鈿(らでん)と呼ばれる。「螺」は貝のことで、「鈿」は象嵌のことである。
また、様々な色調の木材をはめあわせて絵の板を作り、それをカンナで薄く削り、和紙に貼り付けたものは、 いわゆる「寄木細工」の技法のひとつで、木象嵌(もくぞうがん)と呼ばれる。