異性体
異性体(いせいたい、英語:isomer)とは同じ数、同じ種類の原子を持っているが、違う構造をしている物質のこと。分子A1と分子A2が同一分子式で構造が異なる場合、A1はA2の異性体であり、A2はA1の異性体である。また同一分子式の一群の化合物をAと総称した場合、A1もA2もAの異性体である。「ジエチルエーテルはブタノールの異性体である」というのが前者の使い方であり、「ブタノールの構造異性体は4種類ある」というのが後者の使い方である。分子式C4H10Oの化合物の構造異性体と言えば、ブタノールに加えてジエチルエーテルやメチルプロピルエーテルも含まれる。
大多数の有機化合物のように多数の原子の共有結合でできた分子化合物は異性体を持ちうる。ひとつの中心原子に複数種類の配位子が配位した錯体は異性体を持ちうる。
異性体を持つという性質、異性体を生じる性質を異性(isomerism)という。イェンス・ベルセリウスが、「同じ部分が一緒になっている」ことを意味するギリシャ語ιςομερηςから命名した[1]。
種類
異性体は、トポロジカル構造が異なる構造異性体とトポロジカル構造は等しいが立体配置や立体配座が異なる立体異性体の2つに分類される。立体配置は等しく立体配座のみが異なる異性体を配座異性体と呼ぶ。さらに、化学構造は全く同一だが、分子内の同じ種類の複数の原子核のスピンの向きの組み合わせが異なる核スピン異性体も存在する。
その他光学異性体、鏡像異性体、幾何異性体、シス-トランス異性体も存在する。錯体におけるイオン化異性体、配位異性体、連結異性体(結合異性体)は構造異性体と言える。
互変異性体という言葉は速度論的術語であり、通常のタイムスケールでは互いに速い交換をしていて短時間で平衡に達してしまう異性体のことを指す。
異性化
二つの異性体の間に平衡が存在するとき、異性体同士は相互に変換しうるが、この化学的変化を異性化(いせいか、isomerization)と呼ぶ。
例えば、L-アミノ酸とD-アミノ酸は生体内でほぼ前者のみが存在するが、物理学的には両者は光学的性質以外は等価である為、熱力学的には非平衡状態にある。純粋なL-アミノ酸は緩慢なプロトンの転移反応によりD-アミノ酸へと異性化するので、最終的にはL-アミノ酸とD-アミノ酸との1対1混合物となり熱的平衡に到達する。(ラセミ化)
生体内では、片方の立体異性体を基質特異的に異性化する酵素群が存在し、イソメラーゼと呼ばれる。異性化酵素とも呼ばれ、酵素分類のEC5群が該当する。イソメラーゼにはラセマーゼ、エピメラーゼと呼ばれるものも存在する。
脚注
- ↑ ベルセリウス著(田中豊助、原田紀子訳)『化学の教科書』p28 内田老鶴圃 ISBN 4-7536-3108-7