犯人は二人
テンプレート:Portal テンプレート:Infobox 「犯人は二人」(はんにんはふたり、"テンプレート:En")は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの一つで、56ある短編小説のうち31番目に発表された作品である。イギリスの『ストランド・マガジン』1904年4月号、アメリカの『コリアーズ・ウィークリー』1904年3月26日号に発表。1905年発行の第3短編集『シャーロック・ホームズの帰還』(The Return of Sherlock Holmes) に収録された[1]。
「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン」「恐喝王ミルバートン」「毒ヘビ紳士」とも。
あらすじ
ロンドン一の恐喝王(本人は“代理業”を自称―名刺より)チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンとシャーロック・ホームズとの対決を描く。
結婚を控えたとある令嬢から依頼を受けたホームズは、令嬢が昔田舎の貧乏貴族に書き送ったというラブレターをネタに、高額での書簡買取を要求して来た恐喝王ミルヴァートンと交渉する。令嬢に支払い可能な金額でと提案するホームズに対し、ミルヴァートンは支払わなかった結果その人物がどうなったか、という「前例」が次の仕事の成功につながるのだと主張し、全く埒が明かない。決心したホームズはワトスンを連れて、夜闇に紛れてミルヴァートン邸に忍び込み、恐喝の材料となる手紙を盗み出そうとするのであった。
ミルヴァートン邸に侵入することに成功したホームズとワトスンだったが、計算外だったことは、この夜中にミルヴァートンが人と会う約束をしていたため起きていたことだった。ホームズとワトスンは咄嗟にカーテンの陰に隠れ、ミルヴァートンと彼を訪ねて来た女性とのやりとりを傍観する。女性はかつてミルヴァートンに恐喝を受け、破滅させられた復讐に来たのだ。女性は小型の拳銃をミルヴァートンに向け、一撃、また一撃と次々に報復の弾丸を撃ち込み、この恐ろしくも愚かな恐喝王をついに殺害してしまう。
一部始終を目撃した2人は女性が去った後、金庫の中にしまい込まれていた様々な書簡や書類が再び世に出て人を苦しめることがないよう、次々にそれらを火中に投げ込み処分した上で屋敷を後にするが、異変に気づいた屋敷の者が逃げる2人に追いすがる。
備考
- ベーカー街221Bのホームズの下宿を訪れた犯罪者はジェームズ・モリアーティ教授を初め数多いが、ホームズがなすすべもなく見送るしかなかったのは、ワトスンが記録している限りでは、ミルヴァートンただ一人である。ホームズが最も精彩を欠く作品の一つであり、高度の情報戦略を駆使する恐喝王ミルヴァートンに対して、ホームズも不法侵入などの強硬策で応じるしかなかった。このことについてはホームズも後悔しており、記録には残さないようワトスンに頼んでいるが、逆にワトスンは書き留めてしまった。
- ワトスンが髭をたくわえていることが、本作で初めて明言される。また、足に古傷のあるはずのワトスンが、ミルヴァートン邸から逃れる際にかなりの速度で走っている描写のあることから、シャーロキアンの多くはかなり後年の事件であろうと推測している。
外典 戯曲版『まだらの紐』
ドイルが執筆した戯曲版『まだらの紐』では、ゲスト出演でミルヴァートンが登場する。劇中のミルヴァートンはベーカー街221Bにホームズを訪ねてくる4人の客のひとりとして登場し、戯曲の本筋とは無関係な短いエピソードになっている。エピソードの内容は「犯人は二人」と同様で、結婚を控えた女性から手紙の回収を依頼されたホームズと、手紙と引き換えに大金を要求するミルヴァートンとの交渉が演じられる。しかし、交渉決裂でミルヴァートンが去った後の展開は異なる。「犯人は二人」ではホームズがミルヴァートンの屋敷へ不法侵入して手紙の回収をするという決断をし、ワトスンも同行する。一方この戯曲では、ホームズが既に単独で前夜ミルヴァートンの屋敷に侵入し、手紙を盗み出していたことになっている。屋敷の料理女と親密になり、その関係を利用して金庫から手紙を盗み出したのだとホームズがワトスンに解説してエピソードは終了し、次の場面へと移っていく。
戯曲には他にワトスンの婚約者としてメアリー・モースタンの名が登場する場面もあり、これらは他の作品のキャラクターを登場させる「シャーロッキアン的」とも言うべき手法を、ドイル自身が使用しているといえる[2]。
脚注
- ↑ ジャック・トレイシー『シャーロック・ホームズ大百科事典』日暮雅通訳、河出書房新社、2002年、272頁
- ↑ コナン・ドイル『ドイル傑作選I ミステリー篇』北原尚彦・西崎憲編、翔泳社、1999年、367-368頁