ジュール=トムソン効果
テンプレート:出典の明記 ジュール=トムソン効果(ジュール=トムソンこうか、テンプレート:Lang-en-short[1])とは、多孔質壁を通して圧力差を保ちながら膨張させた時に温度が変化することである。この膨張の過程はジュール=トムソン膨張(テンプレート:Lang-en-short[1])と呼ばれる。温度が低下するか、上昇するかは膨張前の温度によって決まり、逆転温度を境にして変化する。この現象は気体の液化などに応用されている。
概要
ジュール=トムソン膨張は、多孔質壁を介して気体の入る2つの部屋をつなぎ多孔質壁の両側の圧力を一定にしながら、一方の部屋から他方へと気体を押し出すというものである。このとき、終状態の圧力は始状態の圧力よりも必ず低くなる。ジュール=トムソン効果は分子間距離が増大する際、分子間力に対して仕事をするために起こる。そのため理想気体ではこの現象は起こらない。高圧の気体、ただし液化していないものの冷却効果として重要である。また、液化した気体の気化熱による冷却や断熱膨張による冷却とは区別する必要がある。
1852年に観測された現象に対して、ジェームズ・プレスコット・ジュールとウィリアム・トムソン(ケルビン卿)によって1861年に提唱された。1908年にヘイケ・カメルリング・オネスはこの効果を利用してヘリウムの液化できる温度0.9Kを達成した。
熱力学的性質
ジュール=トムソン膨張は外部環境と熱のやり取りを行わない断熱過程であるが、エントロピーは増大する不可逆変化である。一方で始状態と終状態のエンタルピーは同じで保存されており、圧力や温度を調節しながら測定することでP-T平面に等エンタルピー線を描くことができる。この等エンタルピー線の傾き <math>\mu_{JT} = \left( \frac {\partial T}{\partial P} \right)_{H,n}</math> はジュール=トムソン係数(テンプレート:Lang-en-short[1])と呼ばれ、ジュール=トムソン効果を測る指標となる。係数とはいうが、これは実在気体ではエンタルピー <math>H</math> と圧力 <math>P</math> と物質量 <math>n</math> の関数である。十分温度が低いところでは <math>\mu_{JT} > 0</math> であり、膨張(<math>dP < 0</math>)により温度が低下するが、温度が上がると <math>\mu_{JT} < 0</math> となり、温度は上昇する。これが入れ替わる温度(<math>\mu_{JT} = 0</math> での温度)は逆転温度と呼ばれる。
ジュール=トムソン係数は以下のように変形できる。
- <math>\mu_{JT} = \left( \frac{\partial T}{\partial P} \right)_{H,n} = - \frac{\left(\frac{\partial H }{\partial P}\right)_{T,n}}{\left( \frac{\partial H}{\partial T}\right)_{P,n}} = \frac{1}{C_P} \left[ T \left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_P - V \right] </math>
理想気体の場合は
- <math>\left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_P = \frac{nR}{P} = \frac{V}{T}</math>
なので、上の式に代入すると <math>\mu_{JT} = 0</math> が恒等的に成り立つ。従って、ジュール=トムソン効果は実在気体に固有の現象といえる。
また、ジュール=トムソン係数は、(定圧)体膨張率 <math>\alpha = \frac{1}{V}\left( \frac{\partial V}{\partial T} \right)_P</math> を用いれば、
- <math>\left( \frac{\partial T}{\partial P} \right)_{H,n} = \frac{VT \alpha}{C_P} \left( 1- \frac{1}{T\alpha} \right) </math>
である。一方で準静的断熱膨張では、
- <math>\left( \frac{\partial T}{\partial P} \right)_{S,n} = \frac{VT\alpha}{C_P} > \left( \frac{\partial T}{\partial P} \right)_{H,n}</math>
なので、同じ圧力差の膨張ならジュール=トムソン膨張よりこちらの方が気体の温度を下げることができる(しかも、気体の体膨張率は正なので準静的断熱膨張は常に温度が低下する)。しかしながら、技術的にはジュール=トムソン膨張の方が簡単であるので気体の液化に用いられている。
脚注
関連項目